2020年2月23日日曜日

第267夜 競走馬は選りすぐられたアスリートなのか

267夜 競走馬は選りすぐられたアスリートなのか
▼意外にも普通の馬が走っている
中央競馬に出走した馬の数を国内生産馬の数で割り算すると(外国産馬のことはとりあえず目をつぶって)、結構多くの馬が走っていることが分かる。
サラブレッドの意味は「完全に管理された」などというもののようで、よく言われる「純血」はちょっと意味がずれている気がする。
エリート集団のようだが、確かに選抜されてきた血ではあるが、ではサラブレッドは皆エリートで能力差はほとんどないのだろうか。
人間で言えば、天才と平凡な人とか、一流スポーツ選手と普通の人のような能力の分布である。
わたしは、ひとつの種族として能力の分布は人間とさほど変わらないのではないかと思っている。
できるヤツはできるし、できないヤツはできない、そんな感じだと思う。
わたしの考えがそれほど間違っていなければ、競走馬の能力の差はかなりありそうだ。
小学校30人学級3クラスがあり、100メートル競走の結果でクラス編成したとき、成績上位の2クラス分が中央競馬に出走できるというイメージである。
3
分の2から7割くらいが中央競馬出走にこぎつけることができるということである。
想像してほしい。
国体はおろか、県大会のレベルからもはるか遠く、学校の運動会に相当するのが妥当だろう。


生年 出走頭数 (A) サラ系生産頭数 (B) (A)/(B)
2004年生 5,026 8,261 61%
2005年生 5,105 7,981 64%
2006年生 5,026 7,669 66%
2007年生 5,035 7,523 67%
2008年生 4,954 7,370 67%
2009年生 5,105 7,474 68%
2010年生 4,853 7,120 68%
2011年生 4,880 7,076 69%
2012年生 4,852 6,828 71%
2013年生 4,937 6,836 72%
2014年生 4,927 6,888 72%
2015年生 4,835 6,847 71%
2016年生 3,209 6,906 46%


さらに、その上位2クラスの中でも上と下の差はしっかりとあり、逆転は難しい。
ということは、出走馬の実力差は思ったより大きいだろう。
国体の100メートル走決勝ではなく、運動会の駆けっこなのである。
差は激しい。


何の話かと思われるかもしれないけれど、ものすごいエリートのアスリートたちが僅か0.1秒を争う、というイメージほど競走馬同士の実力差が小さいわけではなさそうということである。
一番下の未勝利戦や、一番上のオープン戦で皆さんの馬券成績が良いのは、実力差が大きいからなのである。
わたしが社会人になったときの上司は競馬好きであったが、当時は「午前中のヒラッコ(平馬戦の意)で資金を大きくしてメインレースで勝負する」とよく言っていた。
1990
年代のお話だが、当時もそう考えられていたということだ。
(SiriusA+B)

2020年2月16日日曜日

第266夜 逃げ馬を探す

▼逃げ馬の恐るべき良績
定義により成績の評価は変わるけれど、競馬は基本的に先行有利とされる。
脚質を逃げ・先行・差し・追い込みに分けた場合、逃げ馬の勝率は20%から25%くらいはあるとみられる。
少し変わった定義だが、ゴールから上り3ハロン(600m)を差し引いた地点で、1位通過した馬を「逃げ馬」とすると、18.7%の該当馬が1着になる(2006-2018年の中央競馬平地競走)
勝率こそ低いものの、単勝回収率は193%と驚異的な数値になった。
これなら、逃げ馬を買い続ければ必勝法になるじゃないか、と誰もが考えるだろう。
しかし、一番難しいのは「どの馬が逃げるのか」言い当てることなのである。


▼わたしの定義に基づく「逃げ馬」の成績(2006-2018年中央競馬平地競走)
着順 件数 平均オッズ 回収率
1 10,092 18.7% 10.3 193%
2 7,140 13.2% 16.2
3 5,187 9.6% 20.2
4 4,213 7.8% 24.6
5 3,499 6.5% 29.6
6 3,045 5.6% 33.9
7 2,789 5.2% 37.9
8 2,660 4.9% 42.8
9 2,465 4.6% 47.8
10 2,198 4.1% 54.2
11 2,135 4.0% 59.0
12 1,951 3.6% 64.8
13 1,767 3.3% 72.2
14 1,606 3.0% 71.2
15 1,412 2.6% 85.1
16 1,225 2.3% 96.9
17 304 0.6% 117.8
18 227 0.4% 142.8
前走記録なし他 0 0.0%
53,915


▼逃げ馬を予測(予想)できるのか
先にわたしの回答を申し上げれば、勝馬を予想するのと同様に、レースの逃げ馬を予想することは至難の業である。
ほとんど不可能といっていい。
ある意味、勝馬予測よりも難しいのである。
勝馬の予測の場合はスタートで失敗しようが道中失敗しようが軽微なら挽回できるが、逃げられるかどうかはスタートがすべてであり、取り返しがつかないからだ。
一番わかる情報でも「前走で逃げた。今回も逃げるのでは」という予測である。
それでも、前走逃げ馬(ここでは、ゴール前600m地点の1位通過馬)のうち、今走でも逃げ馬になったのは僅か約3割しかない。

枠順(分かりやすいので枠番連勝用の枠番を用いた)が内側ほどやや逃げやすいとか、騎手による戦術差があるとか、ちょっとした傾向はあるが、とても予想とするほどの事実は見つかっていない。

わたしの定義に基づく「逃げ馬」の前走ゴール前600m通過順位
前走前半 件数
1位通過 14,908 27.7%
2位通過 6,780 12.6%
3位通過 5,466 10.1%
4位通過 3,991 7.4%
5位通過 3,140 5.8%
6位通過 2,456 4.6%
7位通過 2,186 4.1%
8位通過 1,822 3.4%
9位通過 1,551 2.9%
10位通過 1,308 2.4%
11位通過 1,126 2.1%
12位通過 979 1.8%
13位通過 784 1.5%
14位通過 671 1.2%
15位通過 504 0.9%
16位通過 352 0.7%
17位通過 106 0.2%
18位通過 52 0.1%
前走記録なし他 5,733 10.6%
53,915
(SiriusA+B)

2020年2月9日日曜日

第265夜 競走馬のピークは思いの外早く訪れる、のか⁈のつづきの話


馬体重で競走馬のピークを探るのは難しいようだ、というところまで前夜で綴った。
107
月齢以上のデータが欠落していたので修正して再掲するべきところだが、時間がないので割愛する。

対戦成績
やはり対戦成績をうまく加工して「競走馬のピークが巷間の推測より早いこと」を考えていくしかないようだ。
ブログでこれ以上ダラダラ書いても仕方がないので「上がり3ハロンや速度では良い検証結果を得られなかった」ことも先に記しておく。
あくまでブログはわたしのメモの延長だから、文脈が飛躍していたり、タイトルとまったく違う話になっていたりするが(^^;)、ご覧いただいている方もいらっしゃるので、検証や試行はいろいろとやっている。

さて、対戦成績だが、降級制度下の2018年までのデータを使ってどう加工すれば望んでいる検証が出せるだろうか。
望んでいる検証とは、前夜にお話ししたとおり「競走馬のピークは4歳春かもっと前かもしれない」というものである。
降級制度下では「ほんとうは格上の先輩」と戦っており、競馬番組の問題によって4歳秋或いはそれ以降にピークを迎えるように見えているだけなのではないか、という疑問だ。

では、同じくらいの力量の馬とは何か、という命題に突き当たるだろう。
試行錯誤の末、この問題に対するひとつの解答として、「23歳限定戦での戦績」という物差しに辿り着いた。
同歳馬同士の対戦時代の力量を比較するのだ。
力量の尺度だが、1勝馬、2勝馬と勝ち鞍の数では少し目が荒過ぎて使い勝手は良くない。
そこで、賞金(クラス分けに使われていた収得賞金ではなく本賞金と付加賞の合計額)を用い、完走回数で割る1走あたり平均賞金とする。
例えば、A馬は同歳馬戦で450万円/走、1年先輩のB馬は同様に450万円/走だったら、力量は同じとみるのだ。
正確には3歳馬が古馬戦に参戦するようになっても3歳限定戦はある。
ここでは集計の煩雑さを省略しようと思う。
また、古馬になって活躍し始める馬も存在するだろうが、この点も目を瞑ることにする。
全馬を対象にしたいところだが、引退の早い馬も混じっているので除外したい。
成長過程を見るために、僅か1,800余頭だが、7歳時に中央競馬平地競走で走った「競走馬生命の長い牡馬」を対象とする。
これらの馬の平均賞金を何段階かのカテゴリーに分け、同じカテゴリー同士の対戦成績を比較していく。
カテゴリーは平均賞金の高い順にABCDEFG、平均賞金0に分けた。
C
DEあたりが頭数も多い条件馬だ。
サンプル数が少ないので下位の着順も加えた。
11
着と13着であったとしても11着馬の勝ちは勝ち、ということにした。

調べてみて、ある時期に先輩馬を50%以上上回ったら、そこがピークではないか。

競走馬のピークは
検証の結果は下表のとおりとなった。
わたしが定義した異世代の「同等能力馬」で比較すると、凸凹はあるけれど、310月頃にはひとつ上の世代を上回ることが(或いは上回り始めることが)分かった。
意外に早い時期だ。
考えてみればその通りで、古馬戦に3歳が参戦する競馬番組と符合する。
サンプルが少ないのでぼんやりとした傾向だけだが、上位のカテゴリーになるほど先輩馬の壁は厚いように感じる。
明けて4歳になった馬たちは、先輩馬と拮抗した状態が続く。
少しずつ先輩馬を圧していくが、そのうちに後輩馬たちが古馬戦に参入してくるのである。

で、である。
ひとつ上の世代を超えた時期はそのとおりだが、これは競走馬のピークを意味するものではないことに気がついた。

アホである。

さてどこだろう……
3vs4(明け4vs5)対戦成績(2006-2018中央競馬平地競走、7歳時点で平地競走を完走経験ある約1,800頭同士の対戦を対象)
クラス 平均賞金ログ異数 頭数
A 7.2 27
B 6.9 96
C 6.6 319
D 6.3 729
E 6.0 409
F 5.7 72
G 5.4 58
X 0.0 96
1,806


Aクラス 3歳先着 Bクラス 3歳先着 Cクラス 3歳先着 Dクラス 3歳先着 Eクラス 3歳先着 Fクラス 3歳先着 Gクラス 3歳先着 Aクラス 4歳先着 Bクラス 4歳先着 Cクラス 4歳先着 Dクラス 4歳先着 Eクラス 4歳先着 Fクラス 4歳先着 Gクラス 4歳先着 3歳先着回数合計 4歳先着回数合計 対戦回数合計 3歳馬先着率 【C,D,Eクラス】 3歳先着回数合計 【C,D,Eクラス】 4歳先着回数合計 【C,D,Eクラス】対戦回数合計 【C,D,Eクラス】 3歳馬先着率
6月 0 2 3 20 5 1 0 0 1 7 22 6 0 0 31 36 67 46.3% 28 35 63 44.4%
7月 0 0 4 26 14 0 0 0 1 4 48 12 1 0 44 66 110 40.0% 44 64 108 40.7%
8月 0 0 0 25 18 0 0 0 1 5 31 12 2 0 43 51 94 45.7% 43 48 91 47.3%
9月 0 0 3 34 17 0 0 0 4 8 42 21 0 0 54 75 129 41.9% 54 71 125 43.2%
10月 0 3 22 60 22 0 0 0 2 15 52 25 0 0 107 94 201 53.2% 104 92 196 53.1%
11月 2 4 21 76 21 0 0 2 6 19 70 21 0 1 124 119 243 51.0% 118 110 228 51.8%
12月 1 3 21 59 27 0 0 0 5 20 64 35 0 1 111 125 236 47.0% 107 119 226 47.3%
1月 2 0 18 57 25 0 0 2 5 22 67 27 3 0 102 126 228 44.7% 100 116 216 46.3%
2月 1 2 20 63 23 1 0 0 3 21 55 21 1 0 110 101 211 52.1% 106 97 203 52.2%
3月 0 5 19 81 36 3 1 2 0 18 71 26 1 3 145 121 266 54.5% 136 115 251 54.2%
4月 1 6 17 64 26 1 1 0 5 19 63 31 7 1 116 126 242 47.9% 107 113 220 48.6%
5月 1 1 28 76 33 1 0 1 3 18 66 29 2 1 140 120 260 53.8% 137 113 250 54.8%

大胆な仮説
最若年世代がこの世の春を謳歌するどこかにピークはあるとは思う。
先程、「明けて4歳になった馬たちは、先輩馬と拮抗した状態が続く」と言った。
わたしはピーク期間を短く考えていたのだが、データを精査しているうち、実際には高原状態なのかもしれないと考えられるようになった。
加えて、季節によって成長速度は違うのではないだろうかと思うようにもなった。
この考えの背景には、軽種馬生産技術総合研修センターのレポートがある。
「冬には発育が停滞する」というものだ。
内容は当歳の馬体の話だが、自然の中で考えた場合、食料不足の冬には代謝を下げてエネルギー消費を抑制する動物が少なくないことに気づく。
発育より生命の維持が優先される季節なのである。
競走馬も冬場は成長速度が極めて遅いか、停滞に近いのではないか。
そうすると、
春 成長する
夏 成長する
秋 成長する
冬 成長が停滞する
となるのかもしれない。

これらを踏まえて以下推測である。
大雑把に言って、「310月頃先輩馬に追いつき、冬場は成長が停滞、先輩馬との力の均衡が続き、再び春から初夏に先輩たちの能力低下に伴って引き離す」と考える。

4
歳秋には後輩馬に追いつかれるのだから、良くてピーク、またはピークを過ぎていると考えていいだろう。

4
歳春から夏にかけては5歳馬の能力低下により差が広がっていくけれど、その下がり幅からみて、やはり4歳馬は緩やかでも成長していると推定する。
春や夏に5歳馬がどんどん衰えていくということはないだろう。

以上から、結論としては、「3歳秋には4歳馬に追いつき、ピークは4歳夏頃、ただし、4歳以降の成長はかなり緩やか」というのが、現在のわたしの仮説である。
ピークは当初考えたより遅いが、先輩馬に追いつくのは結構早い時期だろうというのが、今回の調査結果である。
(SiriusA+B)

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