2020年6月28日日曜日

第283夜 競走馬の市場取引価格と競走成績の関係(全体編)


庭先取引と市場取引
大昔は、競走馬の取引といえばほとんどが庭先取引であった。
経済学的に言えば非効率なマーケットだ。
だが、机上の理論ではそうでも、実際の参加者にとってはすべて自由で開かれた取引市場に身を任せるのは躊躇するはずである。
参加者の限られた市場である、特に立場の強くない零細な生産者や小口の購買者にとって、競走馬の売買はたいへんなことと推定される。
年間生産馬が数頭の生産者にとっては、1頭売れないだけでも牧場の存続にかかわるのである。
馬を買ってくれるという人が現れたら、飛びつきたくなる気持ちになると思う。
それでも市場取引は次第に拡大してきた。

わたしたち馬券購入者にとっては、庭先取引だろうが市場取引だろうが、実はどちらでも構わない。
市場取引が正当だとか、庭先取引は閉鎖的で不透明とか、そんな議論もどうかと思う。
市場が効率的かどうかと正しいか正しくないかは似て非なるもので、零細業者を退場させるか保護するかの政策の違いに過ぎない。
ひとつだけ言えるのは、わたしたち馬券購入者にとって市場取引が増えると取引価格情報が公開されるとなることになり、馬券検討材料として利用価値が高まるということである。
以前にこのブログで「馬の購入価格と競走馬の成績には、全体としては相関関係がありそう」と述べた。
今夜の話では、どうやらそれは間違いないが、競走成績だけでは価格形成を説明できないことについて後段で触れる。

今夜の検証は伝統的な競り市である「セレクトセール」から1歳馬市場の取引成立馬を追跡調査したものだ。
公開されているとはいっても、情報の収集・分析にはかなりの時間と労力がかかっている。
データ収集だけでも行き詰まっては迂回し、収集項目が足りずやり直しし、といった不器用さで23か月費やした。
分析も仮説を立てて進めるが、当初想定と違うところがあり、前提を見直すこともあった。
その分得られた知見には素晴らしいものもあるが、このブログ記事でも多少ご紹介できると思う。

セレクトセール1歳で調べた範囲は2005年生まれから2015年生まれの11世代で、1,854頭に達する。
このうち中央競馬平地競走に出走した競走馬は1,685頭で、同マーケットでの取引成立馬の91%にあたる。


データ集計はすべて中央競馬平地競走のみで、地方競馬と海外競馬は含まない。
競走成績を確定させた世代だけで調べたいとは思うものの、データが古くなり過ぎることも避けたい。
したがって、未だ中央競馬・地方競馬で現役の競走馬がいるので、全馬確定の情報ではない。
今回の調査では、20206月中旬現在の成績までを反映している。


セレクトセールサラブレッド1歳(2005年-2015年生まれ)
中央競馬平地競走出走頭数 1,685
出走馬取引価格合計 51,148,878,000
出走馬取引価格平均 30,355,417
出走回数 20,153
勝利回数 1,853
勝率 9.2%
総賞金合計 38,878,696,000
1頭当たり 23,073,410
1走当たり 1,929,177
総賞金/取引価格 76%

競走馬取引の価格形成の要素推定
この競り市における、中央競馬平地競走に出走できた馬の取引価格は平均で3,000万円程である。
頭数からみればやや低い2,000万円前後が最多価格帯だ。
集計結果を下表に示す。
取得価格は対数に変換してこれを区分とした。
対数はマグニチュードでも用いられるが、0.1違うだけでも大きな差になる。

馬の価格と競走成績を照らし合わせると、なかなか興味深いデータであった。
調べていくうち、取得価格の中位層や下位層では、競走賞金が取得価格を上回るケースがよくあることが分かってきた。
購買者は専ら競走賞金によって収支を計算していることは間違いなさそうだ。
取引価格ほどの賞金を稼げない馬の方が多いとはいえ、3,000万円くらいまでの価格では賞金で購入費用を回収できる馬も少なくなく、馬券と同じように山を当てるような感覚で購入するケースが多いように思う。
目利きが良ければ数頭買って1頭でも「当たり」が出ればビジネスになるだろう。

一方、価格上位層では競走賞金だけでは説明できない。
取得価格に加え預託料まで考えると、賞金だけでは賄えないケースが多いのである。
中位層と下位層でも赤字収支の馬のほうが多いのは事実だが、1億円以上の馬が1億円を稼いでくるのは非常に少ないのである。
馬主は資産資格を審査された富裕層や組織である。
それでもカネをドブに捨てるような行為はしない。
ではなぜこのような価格で取引があるのか。

ひとつの推測として、わたしは「栄誉」と「繁殖」がこれに加わっているのではないだろうかと考える。
賞金だけで回収することは高額取引馬ではより難しく、ダービーオーナーになるとか、種牡馬として転売する、といった栄誉や、良血の繁殖牝馬を手に入れて長期的に回収をするなどの考えがなければ手を出さないと思うのである。
是が非でも欲しい良血というのはあるのだろう。
わたしたちと違い、血統自慢や血統知識を披露するためではない。
繁殖まで視野に入れているのである。
種牡馬であればシンジケート団に売却したり牝馬であれば生産者に預けて仔を優先的に保有する。
そのような経済行動ではないだろうか。
もちろん、賞金で黒字収支を確保できればそれに越したことはないだろうが、割安な馬と同様に考えて手を出しているとは思えないのだ。

したがって、取引価格を馬券戦略に活かすなら、下位・中位では賞金の稼ぎ具合を睨んでおけばよく、上位価格帯の馬は取引価格との連動性より、繁殖へのアピール材料として出走を考えているとみてどこで力を発揮させようとするのかを見極めるのがいいだろうと思う。
一時期流行ったように、力のある馬が賞金は低くても海外遠征するのは同様の考えであろう。

取引価格帯 (LOG対数) 取引最低価格 取引最高価格 取引平均価格 頭数 総賞金平均 賞金/価格 獲得賞金0 の頭数 獲得賞金が取引価格比で 50%未満の頭数 獲得賞金が取引価格比で 100%未満の頭数 獲得賞金が取引価格比で 1.5倍未満の頭数 獲得賞金が取引価格比で 2倍未満の頭数 獲得賞金が取引価格比で 5倍未満の頭数 獲得賞金が取引価格比で 10倍未満の頭数 獲得賞金が取引価格比で 100倍未満の頭数 頭数合計
6.6 3,675,000 4,320,000 4,186,250 12 5,310,000 127% 5 2 1 0 1 2 1 0 12
6.7 4,725,000 5,460,000 5,274,167 18 15,383,000 292% 4 4 1 2 0 4 1 2 18
6.8 5,775,000 7,020,000 6,409,068 59 6,074,000 95% 30 16 0 2 2 5 3 1 59
6.9 7,350,000 8,640,000 8,137,905 74 10,299,392 127% 26 21 11 1 1 8 5 1 74
7 8,925,000 11,025,000 10,130,777 148 16,574,514 164% 47 44 16 9 5 16 6 5 148
7.1 11,340,000 14,040,000 12,789,153 177 24,743,893 193% 53 52 20 11 6 16 14 5 177
7.2 14,175,000 17,325,000 15,974,238 193 12,231,487 77% 57 72 18 10 11 22 2 1 193
7.3 17,850,000 22,050,000 20,080,969 227 17,051,194 85% 59 97 20 10 5 28 8 0 227
7.4 22,680,000 28,080,000 25,165,838 191 22,937,586 91% 38 72 29 18 8 21 3 2 191
7.5 28,350,000 34,650,000 31,706,017 177 23,097,322 73% 41 78 22 15 4 13 3 1 177
7.6 35,640,000 44,280,000 39,962,580 157 21,542,994 54% 28 81 21 11 5 11 0 0 157
7.7 45,150,000 56,160,000 50,843,793 87 31,313,414 62% 15 48 9 2 7 4 2 0 87
7.8 56,700,000 70,350,000 63,088,269 52 49,424,500 78% 4 24 12 5 2 4 1 0 52
7.9 71,280,000 88,560,000 78,134,250 40 57,123,550 73% 3 25 5 1 1 3 2 0 40
8 90,300,000 110,250,000 99,220,000 27 78,916,148 80% 1 15 5 1 2 3 0 0 27
8.1 113,400,000 135,000,000 121,234,615 13 37,002,231 31% 0 11 1 0 0 1 0 0 13
8.2 145,800,000 172,800,000 154,787,500 12 40,651,500 26% 2 8 2 0 0 0 0 0 12
8.3 178,500,000 216,000,000 196,783,333 9 137,109,889 70% 2 4 2 0 0 1 0 0 9
8.4以上 237,600,000 378,000,000 267,775,000 12 49,096,333 18% 2 9 0 1 0 0 0 0 12
全体 3,675,000 378,000,000 30,355,417 1,685 23,073,410 76% 417 683 195 99 60 162 51 18 1,685
同一競走での対戦
もうひとつ、価格が馬の能力に比例するか、を次夜で記事にしたい。
サンプルの1,600余頭同士で直接対戦した競走はいくつかあるようだ。
すべての競走を把握していないが、値段どおりの着順になるのか、それとも関係がないのか、たいへん興味深い。
(SiriusA+B)

2020年6月21日日曜日

第282夜 ファミリーラインを4代遡上すると8分の1くらいに集約できる

▼血統の用途
このブログ用データベースに血統情報を付加している。
以前、データベースを刷新した際、血統情報をすべて破棄したために、この半年あまり再構築に時間とエネルギーを費やしている。
新たな血統関連の情報も追加することにしたので進みが遅く、来年くらいまでかかる難作業になる見込みだ。


にわかに血統に目覚めたわけではない。
わたしは相変わらず、個々の競走馬の気性や適性を語ることにはあまり興味がない(仲間たちとの話題にするのはいいけれど競馬予想とは別の世界である)
そうではなく、血統を競走馬のグループ分けに使おうと考えたのだ。
グループ分けに使うという着想は目新しいものではないのだけれど、競走馬を性別、馬齢以外の分類方法を模索している中で、便利かもしれないと思ったのである。

同じ系統群の中でも更にグループ分けする研究も進めているが、それはさておき、今夜はわたしのデータベースで、種牡馬・母系(ファミリーライン)共に如何に種類が多いのか、を紹介しておきたい。

▼出走馬の血統上のプロフィール
2006-2018年の中央競馬で障害競走、競走中止・取消・除外などもすべて含め(再騎乗も!)、出走馬は延べ646,684頭である。

純頭数は66,492頭であるから、平均すれば1頭あたりの出走エントリーは10回弱となる。
僅か1戦や2戦で退場(地方転出や引退)も多く、最頻値や中央値が必ずしも平均値近辺というわけではないので注意されたい。
この6.6万頭の父だが、種牡馬は1,371頭だった。
「サンデーサイレンス」と「Sunday Silence」のようなケースもあるかもしれないので自信はないけれど、集約したらこんな数字になった。
性別ならそのままであれば2種類、馬齢でも10プラスアルファくらいに分けられることを考えると、1,000頭はちょっと多いなと思う。
13年間分あるので世代交代もあるから少々多いだろうと推測していたが、1,000頭以上というのは予想外であった。

100頭とか200頭であれば良かったのだが。


一方、母馬は21,436頭に集約された。
兄弟姉妹平均で34頭という計算になる。
これは想定の範囲内であるが、もう少し集約したい。
そこで、2代母(祖母)を調べた。
14,172頭だった。

思いの外集約されず、ファミリーラインをどんどん遡上していく。
3代母は10,501頭だった。

4代母は8,224頭だった。

ようやく1万頭を割った。
手拾いなので正確性はご容赦願いたい。

血統上のグループ分けをするので「4代母イコールグループ数」とはしないのだが、それにしても種牡馬を遥かに上回る頭数である。
調査の労力もバカにならないが、更に遡っていくとなるとジェネラルスタッドブックの怪しいところまで触れることになりそうで(そうでなくてもすでに微妙な血統情報もある)5代母の調査に逡巡しているところだ。
概算で6.6万頭を4代母で割り算すると、4代母1頭あたり8乃至9頭の競走馬をグループ化することになる。
困っているのは4代母まで遡ってもグループにならない、すなわち1頭の競走馬だけ、というケースが多そうなことである。
ファミリーナンバー並みに整理できないものだろうか。

と、ここまで書いてきて「表にすれば良かった」と気がついた。
ご覧いただいた皆さんには申し訳ないことをした。
(SiriusA+B)


項目 頭数 摘要
延べ出走頭数 646,684 2006-2018年の中央競馬で障害競走、競走中止・取消・除外などもすべて含む
出走頭数 66,492
出走馬の父の数(種牡馬) 1,371
出走馬の母の数 21,436
出走馬の2代母の数 14,172
出走馬の3代母の数 10,501
出走馬の4代母の数 8,224

2020年6月14日日曜日

第281夜 馬体重を例に、簡単な「数字の考え方」


▼馬体重別勝率
馬体重は大きくふたつの用途で利用される。
ひとつは増減で、個体馬を時系列に見ていくものである。
凡そ、少々の増減は気にしなくていい、という結論が導かれる。
もうひとつは統計的なもので、重量馬ほど相対的に有利であるという結論が導かれるものである。

後者、統計については以下の表を参照してもらいたい。
いつものデータベース、2006-2018年の中央競馬平地競走出走馬を集計したものであるが、「芝・ダート」別且つ「牡牝」別とした。
さらに、牝馬については「牝馬限定戦以外」という内数を集計した。
意外に同様の集計はネットで見つけられなかったので皆さんの参考になるかもしれない。
データの見立てから、わたしは次の推論をしている。


牝馬は相対的に劣勢であるが、とりわけ芝よりもダートのほうが明確に劣勢

ほとんど既知の情報なので推論というより再確認なのだが、それは皆さんも同じであろう。
なんだ、当たり前の結論で損した、と言わないでほしい。
数字(勝率)を掴むだけでも得るものは大きいのである(わたしとしては)
「数字、数字というけれど、数字を知ってどうしていいのか分からない」という人はいようが、そういう人は数字を「比」として読めばいいと思う。

「牝馬の勝率は牡馬の半分くらい」だとか「平均値より上回って/下回っている」などと考えるのである。

どう使うのか(使わないのか)はそれぞれにお任せすることとして、わたしならということで申し上げると、消去法で用いる。
上位人気馬のうち、(1)牝馬(2)軽量馬(3)ダート戦、の3つを満たすなら、痛い目にあうことはあるけれどわたしなら思い切って「切る」。
ちなみに、距離も考慮に入れると面白いが、それは皆さんの研究にお任せすることとして記載しない。
(SiriusA+B)
2006-2018年中央競馬平地競走における馬体重別・性別勝率集計


馬体重 牡馬芝 牡馬芝勝馬 牡馬ダ 牡馬ダ勝馬 牝馬芝 牝馬芝勝馬 牝馬ダ 牝馬ダ勝馬 牝馬芝除限定戦 牝馬芝除限定戦勝馬 牝馬ダ除限定戦 牝馬ダ除限定戦勝馬
400kg以下 319 8 133 2 3,338 74 1,483 21 2,343 52 795 6
410kg以下 738 17 377 7 4,810 182 2,280 40 3,424 126 1,225 17
420kg以下 1,879 70 1,016 23 8,863 401 4,639 125 6,099 259 2,366 51
430kg以下 4,644 219 2,758 117 13,620 689 7,969 274 9,274 439 4,074 118
440kg以下 8,895 529 5,804 252 17,647 973 12,025 559 11,939 620 6,061 220
450kg以下 15,491 983 11,828 672 19,206 1,165 15,446 795 12,824 747 7,624 276
460kg以下 21,531 1,480 18,787 1,135 18,780 1,241 16,309 939 12,406 759 8,230 381
470kg以下 25,942 1,919 25,743 1,764 16,063 1,146 15,193 978 10,799 752 7,770 415
480kg以下 26,972 2,165 29,670 2,206 12,423 900 12,682 886 8,445 603 6,655 383
490kg以下 23,992 1,980 28,984 2,298 7,957 624 9,618 717 5,481 429 5,032 328
500kg以下 19,199 1,580 24,982 2,074 4,504 340 6,028 442 3,119 234 3,195 196
510kg以下 13,051 1,148 19,796 1,766 2,386 187 3,436 260 1,666 130 1,892 109
520kg以下 7,919 701 13,996 1,291 1,117 94 1,920 141 783 71 1,073 65
530kg以下 4,936 442 8,970 825 467 40 915 72 332 33 479 35
540kg以下 2,404 241 4,908 482 165 9 401 35 115 6 203 14
540kg超 1,629 116 4,448 373 80 4 240 20 65 4 129 6
合計 179,541 13,598 202,200 15,287 131,426 8,069 110,584 6,304 89,114 5,264 56,803 2,620
400kg以下 2.5% 1.5% 2.2% 1.4% 2.2% 0.8%
410kg以下 2.3% 1.9% 3.8% 1.8% 3.7% 1.4%
420kg以下 3.7% 2.3% 4.5% 2.7% 4.2% 2.2%
430kg以下 4.7% 4.2% 5.1% 3.4% 4.7% 2.9%
440kg以下 5.9% 4.3% 5.5% 4.6% 5.2% 3.6%
450kg以下 6.3% 5.7% 6.1% 5.1% 5.8% 3.6%
460kg以下 6.9% 6.0% 6.6% 5.8% 6.1% 4.6%
470kg以下 7.4% 6.9% 7.1% 6.4% 7.0% 5.3%
480kg以下 8.0% 7.4% 7.2% 7.0% 7.1% 5.8%
490kg以下 8.3% 7.9% 7.8% 7.5% 7.8% 6.5%
500kg以下 8.2% 8.3% 7.5% 7.3% 7.5% 6.1%
510kg以下 8.8% 8.9% 7.8% 7.6% 7.8% 5.8%
520kg以下 8.9% 9.2% 8.4% 7.3% 9.1% 6.1%
530kg以下 9.0% 9.2% 8.6% 7.9% 9.9% 7.3%
540kg以下 10.0% 9.8% 5.5% 8.7% 5.2% 6.9%
540kg超 7.1% 8.4% 5.0% 8.3% 6.2% 4.7%
合計平均 7.6% 7.6% 6.1% 5.7% 5.9% 4.6%

ブログ アーカイブ