▼庭先取引と市場取引
大昔は、競走馬の取引といえばほとんどが庭先取引であった。
経済学的に言えば非効率なマーケットだ。
だが、机上の理論ではそうでも、実際の参加者にとってはすべて自由で開かれた取引市場に身を任せるのは躊躇するはずである。
参加者の限られた市場である、特に立場の強くない零細な生産者や小口の購買者にとって、競走馬の売買はたいへんなことと推定される。
年間生産馬が数頭の生産者にとっては、1頭売れないだけでも牧場の存続にかかわるのである。
馬を買ってくれるという人が現れたら、飛びつきたくなる気持ちになると思う。
それでも市場取引は次第に拡大してきた。
わたしたち馬券購入者にとっては、庭先取引だろうが市場取引だろうが、実はどちらでも構わない。
市場取引が正当だとか、庭先取引は閉鎖的で不透明とか、そんな議論もどうかと思う。
市場が効率的かどうかと正しいか正しくないかは似て非なるもので、零細業者を退場させるか保護するかの政策の違いに過ぎない。
ひとつだけ言えるのは、わたしたち馬券購入者にとって市場取引が増えると取引価格情報が公開されるとなることになり、馬券検討材料として利用価値が高まるということである。
以前にこのブログで「馬の購入価格と競走馬の成績には、全体としては相関関係がありそう」と述べた。
今夜の話では、どうやらそれは間違いないが、競走成績だけでは価格形成を説明できないことについて後段で触れる。
今夜の検証は伝統的な競り市である「セレクトセール」から1歳馬市場の取引成立馬を追跡調査したものだ。
公開されているとはいっても、情報の収集・分析にはかなりの時間と労力がかかっている。
データ収集だけでも行き詰まっては迂回し、収集項目が足りずやり直しし、といった不器用さで2、3か月費やした。
分析も仮説を立てて進めるが、当初想定と違うところがあり、前提を見直すこともあった。
その分得られた知見には素晴らしいものもあるが、このブログ記事でも多少ご紹介できると思う。
セレクトセール1歳で調べた範囲は2005年生まれから2015年生まれの11世代で、1,854頭に達する。大昔は、競走馬の取引といえばほとんどが庭先取引であった。
経済学的に言えば非効率なマーケットだ。
だが、机上の理論ではそうでも、実際の参加者にとってはすべて自由で開かれた取引市場に身を任せるのは躊躇するはずである。
参加者の限られた市場である、特に立場の強くない零細な生産者や小口の購買者にとって、競走馬の売買はたいへんなことと推定される。
年間生産馬が数頭の生産者にとっては、1頭売れないだけでも牧場の存続にかかわるのである。
馬を買ってくれるという人が現れたら、飛びつきたくなる気持ちになると思う。
それでも市場取引は次第に拡大してきた。
わたしたち馬券購入者にとっては、庭先取引だろうが市場取引だろうが、実はどちらでも構わない。
市場取引が正当だとか、庭先取引は閉鎖的で不透明とか、そんな議論もどうかと思う。
市場が効率的かどうかと正しいか正しくないかは似て非なるもので、零細業者を退場させるか保護するかの政策の違いに過ぎない。
ひとつだけ言えるのは、わたしたち馬券購入者にとって市場取引が増えると取引価格情報が公開されるとなることになり、馬券検討材料として利用価値が高まるということである。
以前にこのブログで「馬の購入価格と競走馬の成績には、全体としては相関関係がありそう」と述べた。
今夜の話では、どうやらそれは間違いないが、競走成績だけでは価格形成を説明できないことについて後段で触れる。
今夜の検証は伝統的な競り市である「セレクトセール」から1歳馬市場の取引成立馬を追跡調査したものだ。
公開されているとはいっても、情報の収集・分析にはかなりの時間と労力がかかっている。
データ収集だけでも行き詰まっては迂回し、収集項目が足りずやり直しし、といった不器用さで2、3か月費やした。
分析も仮説を立てて進めるが、当初想定と違うところがあり、前提を見直すこともあった。
その分得られた知見には素晴らしいものもあるが、このブログ記事でも多少ご紹介できると思う。
このうち中央競馬平地競走に出走した競走馬は1,685頭で、同マーケットでの取引成立馬の91%にあたる。
データ集計はすべて中央競馬平地競走のみで、地方競馬と海外競馬は含まない。
競走成績を確定させた世代だけで調べたいとは思うものの、データが古くなり過ぎることも避けたい。
したがって、未だ中央競馬・地方競馬で現役の競走馬がいるので、全馬確定の情報ではない。
今回の調査では、2020年6月中旬現在の成績までを反映している。
セレクトセールサラブレッド1歳(2005年-2015年生まれ) | |
中央競馬平地競走出走頭数 | 1,685 |
出走馬取引価格合計 | 51,148,878,000 |
出走馬取引価格平均 | 30,355,417 |
出走回数 | 20,153 |
勝利回数 | 1,853 |
勝率 | 9.2% |
総賞金合計 | 38,878,696,000 |
1頭当たり | 23,073,410 |
1走当たり | 1,929,177 |
総賞金/取引価格 | 76% |
▼競走馬取引の価格形成の要素推定
この競り市における、中央競馬平地競走に出走できた馬の取引価格は平均で3,000万円程である。
頭数からみればやや低い2,000万円前後が最多価格帯だ。
集計結果を下表に示す。
取得価格は対数に変換してこれを区分とした。
対数はマグニチュードでも用いられるが、0.1違うだけでも大きな差になる。
馬の価格と競走成績を照らし合わせると、なかなか興味深いデータであった。
調べていくうち、取得価格の中位層や下位層では、競走賞金が取得価格を上回るケースがよくあることが分かってきた。
購買者は専ら競走賞金によって収支を計算していることは間違いなさそうだ。
取引価格ほどの賞金を稼げない馬の方が多いとはいえ、3,000万円くらいまでの価格では賞金で購入費用を回収できる馬も少なくなく、馬券と同じように山を当てるような感覚で購入するケースが多いように思う。
目利きが良ければ数頭買って1頭でも「当たり」が出ればビジネスになるだろう。
一方、価格上位層では競走賞金だけでは説明できない。
取得価格に加え預託料まで考えると、賞金だけでは賄えないケースが多いのである。
中位層と下位層でも赤字収支の馬のほうが多いのは事実だが、1億円以上の馬が1億円を稼いでくるのは非常に少ないのである。
馬主は資産資格を審査された富裕層や組織である。
それでもカネをドブに捨てるような行為はしない。
ではなぜこのような価格で取引があるのか。
ひとつの推測として、わたしは「栄誉」と「繁殖」がこれに加わっているのではないだろうかと考える。
賞金だけで回収することは高額取引馬ではより難しく、ダービーオーナーになるとか、種牡馬として転売する、といった栄誉や、良血の繁殖牝馬を手に入れて長期的に回収をするなどの考えがなければ手を出さないと思うのである。
是が非でも欲しい良血というのはあるのだろう。
わたしたちと違い、血統自慢や血統知識を披露するためではない。
繁殖まで視野に入れているのである。
種牡馬であればシンジケート団に売却したり牝馬であれば生産者に預けて仔を優先的に保有する。
そのような経済行動ではないだろうか。
もちろん、賞金で黒字収支を確保できればそれに越したことはないだろうが、割安な馬と同様に考えて手を出しているとは思えないのだ。
したがって、取引価格を馬券戦略に活かすなら、下位・中位では賞金の稼ぎ具合を睨んでおけばよく、上位価格帯の馬は取引価格との連動性より、繁殖へのアピール材料として出走を考えているとみてどこで力を発揮させようとするのかを見極めるのがいいだろうと思う。
一時期流行ったように、力のある馬が賞金は低くても海外遠征するのは同様の考えであろう。
取引価格帯 (LOG対数) | 取引最低価格 | 取引最高価格 | 取引平均価格 | 頭数 | 総賞金平均 | 賞金/価格 | 獲得賞金0 の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 50%未満の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 100%未満の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 1.5倍未満の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 2倍未満の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 5倍未満の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 10倍未満の頭数 | 獲得賞金が取引価格比で 100倍未満の頭数 | 頭数合計 |
6.6 | 3,675,000 | 4,320,000 | 4,186,250 | 12 | 5,310,000 | 127% | 5 | 2 | 1 | 0 | 1 | 2 | 1 | 0 | 12 |
6.7 | 4,725,000 | 5,460,000 | 5,274,167 | 18 | 15,383,000 | 292% | 4 | 4 | 1 | 2 | 0 | 4 | 1 | 2 | 18 |
6.8 | 5,775,000 | 7,020,000 | 6,409,068 | 59 | 6,074,000 | 95% | 30 | 16 | 0 | 2 | 2 | 5 | 3 | 1 | 59 |
6.9 | 7,350,000 | 8,640,000 | 8,137,905 | 74 | 10,299,392 | 127% | 26 | 21 | 11 | 1 | 1 | 8 | 5 | 1 | 74 |
7 | 8,925,000 | 11,025,000 | 10,130,777 | 148 | 16,574,514 | 164% | 47 | 44 | 16 | 9 | 5 | 16 | 6 | 5 | 148 |
7.1 | 11,340,000 | 14,040,000 | 12,789,153 | 177 | 24,743,893 | 193% | 53 | 52 | 20 | 11 | 6 | 16 | 14 | 5 | 177 |
7.2 | 14,175,000 | 17,325,000 | 15,974,238 | 193 | 12,231,487 | 77% | 57 | 72 | 18 | 10 | 11 | 22 | 2 | 1 | 193 |
7.3 | 17,850,000 | 22,050,000 | 20,080,969 | 227 | 17,051,194 | 85% | 59 | 97 | 20 | 10 | 5 | 28 | 8 | 0 | 227 |
7.4 | 22,680,000 | 28,080,000 | 25,165,838 | 191 | 22,937,586 | 91% | 38 | 72 | 29 | 18 | 8 | 21 | 3 | 2 | 191 |
7.5 | 28,350,000 | 34,650,000 | 31,706,017 | 177 | 23,097,322 | 73% | 41 | 78 | 22 | 15 | 4 | 13 | 3 | 1 | 177 |
7.6 | 35,640,000 | 44,280,000 | 39,962,580 | 157 | 21,542,994 | 54% | 28 | 81 | 21 | 11 | 5 | 11 | 0 | 0 | 157 |
7.7 | 45,150,000 | 56,160,000 | 50,843,793 | 87 | 31,313,414 | 62% | 15 | 48 | 9 | 2 | 7 | 4 | 2 | 0 | 87 |
7.8 | 56,700,000 | 70,350,000 | 63,088,269 | 52 | 49,424,500 | 78% | 4 | 24 | 12 | 5 | 2 | 4 | 1 | 0 | 52 |
7.9 | 71,280,000 | 88,560,000 | 78,134,250 | 40 | 57,123,550 | 73% | 3 | 25 | 5 | 1 | 1 | 3 | 2 | 0 | 40 |
8 | 90,300,000 | 110,250,000 | 99,220,000 | 27 | 78,916,148 | 80% | 1 | 15 | 5 | 1 | 2 | 3 | 0 | 0 | 27 |
8.1 | 113,400,000 | 135,000,000 | 121,234,615 | 13 | 37,002,231 | 31% | 0 | 11 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 13 |
8.2 | 145,800,000 | 172,800,000 | 154,787,500 | 12 | 40,651,500 | 26% | 2 | 8 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 12 |
8.3 | 178,500,000 | 216,000,000 | 196,783,333 | 9 | 137,109,889 | 70% | 2 | 4 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 9 |
8.4以上 | 237,600,000 | 378,000,000 | 267,775,000 | 12 | 49,096,333 | 18% | 2 | 9 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 12 |
全体 | 3,675,000 | 378,000,000 | 30,355,417 | 1,685 | 23,073,410 | 76% | 417 | 683 | 195 | 99 | 60 | 162 | 51 | 18 | 1,685 |
もうひとつ、価格が馬の能力に比例するか、を次夜で記事にしたい。
サンプルの1,600余頭同士で直接対戦した競走はいくつかあるようだ。
すべての競走を把握していないが、値段どおりの着順になるのか、それとも関係がないのか、たいへん興味深い。
(SiriusA+B)