2020年9月6日日曜日

第294夜 集計方法により示唆に富む情報を得られる可能性がある。母馬の出産年齢を例に(つづき)


長期繁殖牝馬で選抜
前夜からのつづきである。
繰り返しを避けるため、前夜の記事にお目通しいただいたうえで読んでいただけると幸いである。

母集団全体では、母馬の出産時年齢が9歳のときの産駒が競走成績のピークである、という結果であった。
今夜は母集団全体の平均ではなく、一定の条件で選抜した母馬の産駒成績と全体を比較してみたい。
一定の条件とは「母馬自身が2000年以降の生まれで、このデータベース期間内で10年以上離れた兄弟姉妹がいる母馬」である。
すべての母馬の詳細データを持っていないので、確実に10年以上繁殖牝馬であり続けたことが確かな馬に限ろうとした。
当然ながら、地方でデビューしたり、データ期間の前後で10年以上供用されたりした母馬は多いだろうが、ここでは条件に適合していないとして除いた。
残念ながら、サンプルはぐっと減り、産駒数は1,911頭となるが、参考指標としては役立つと思う。
グラフにすると多少凸凹するけれどサンプル数が増えるともう少し滑らかになる。
母馬の生まれが2000年以降で産駒は2014年までのデータとしているので、当然ながら14歳までのデータしかない。
それでも、全体のデータとはかなり様相の異なる結果になった。
図表294-1をご覧いただきたい。

図表294-1(母集団全体は前夜の図表の再掲)
出産時年齢 母集団全体の産駒頭数 母集団全体の産駒勝利数 母集団全体の勝利数/頭数 選抜集計の産駒頭数 選抜集計の産駒勝利数 選抜集計の勝利数/頭数
5歳未満 575 311 0.54 40 41 1.03
5歳 2,774 1,735 0.63 197 200 1.02
6歳 4,050 2,687 0.66 218 222 1.02
7歳 5,245 3,924 0.75 227 207 0.91
8歳 5,398 4,250 0.79 205 230 1.12
9歳 5,153 4,188 0.81 219 213 0.97
10歳 4,654 3,498 0.75 198 181 0.91
11歳 4,232 3,291 0.78 182 139 0.76
12歳 3,705 2,834 0.76 186 142 0.76
13歳 3,249 2,292 0.71 142 87 0.61
14歳 2,737 1,896 0.69 97 43 0.44
15歳 2,281 1,535 0.67
16歳 1,868 1,115 0.60
17歳 1,389 865 0.62
18歳 1,147 607 0.53
19歳 724 343 0.47
19歳超 1,075 450 0.42
合計 50,256 35,821 0.71 1,911 1,705 0.89
選抜された長期繁殖牝馬は、当然ながら産駒成績が悪いと判断されなかったと考えられることから、産駒成績は全体平均よりは良好だ。
選抜された母馬の出産時年齢8歳の産駒の成績が最も良かった、となる。
さらに、繁殖の当初から10歳くらいまでの産駒成績が良いことも分かる。

全体と選抜を比較して
以上のふたつのデータから、さまざまな推測ができるだろう。
第一に、母集団全体では若い母馬の産駒成績がそれほど良くなかったように見えたが、これは母馬のレベル差によるところが大きい。
5
歳、6歳くらいまで競走馬として現役である牝馬が次第に繁殖に上がってくるイメージだ。
当然、競走生活が長いということは少なくとも現役として優秀だったと思われる。
図表で産駒頭数の推移を追ってほしい。
産駒頭数のピークは8歳である。
次々とレベルの高い繁殖牝馬が出産し始めたと考えればよいということだ。
すなわち、母集団全体での若い母馬の産駒成績は「過小評価」と思われる。
全体よりはばらつきが少ない選抜集計を見ると、8歳をピークにしているが、若い母馬の産駒成績は良いのである。
以上から考えられる結論としては、8歳或いは9歳がピークなのではなく、8歳或いは9歳くらいまでの産駒成績は優秀で、その後緩やかに下降していく、と言えるのではないか。
選抜集計から推測するに、11歳以降は明らかに産駒成績が低下する。
産駒頭数もすでにピークアウトしており、選抜された母馬の中でも繁殖から引退が進んでいると思われる。
かなり優秀な母馬が残っているにもかかわらず、産駒成績が低下しているのである。
個別の母馬ごとにみると、もっと成績が低下する可能性も否定できないのだ。

さらに驚くべきデータ
ここで終わらずに、もうひとつデータを追加したい。
あくまでこのデータベース期間中だが、最初の産駒を繁殖1年と仮置きし、繁殖年数別にデータを集計してみたのである。
図表294-2である。
図表294-2
繁殖牝馬歴 母集団全体の産駒頭数 母集団全体の産駒勝利数 母集団全体の勝利数/頭数 選抜集計の産駒頭数 選抜集計の産駒勝利数 選抜集計の勝利数/頭数
1年 17,501 11,923 0.68 326 305 0.94
2年 7,473 5,806 0.78 209 236 1.13
3年 6,420 5,008 0.78 212 217 1.02
4年 5,211 3,911 0.75 211 222 1.05
5年 4,217 3,126 0.74 209 216 1.03
6年 3,176 2,154 0.68 190 166 0.87
7年 2,343 1,530 0.65 187 142 0.76
8年 1,715 1,138 0.66 191 110 0.58
9年 1,133 670 0.59 112 57 0.51
10年 709 404 0.57 56 32 0.57
11年 358 151 0.42 8 2 0.25
合計 50,256 35,821 0.71 1,911 1,705 0.89

この図表でいう繁殖牝馬の繁殖歴1年というのがほんとうの繁殖歴ではないので参考程度にとどめておきたいが、繁殖歴1年はともかく、2年がピークで産駒成績はどんどんと下がっていく。
選抜集計のほうは実際の母馬年齢が比較的揃っているので、おそらく個別の母馬でみてもこのような曲線を描くであろうと類推することができよう。
ふたつの表から、繁殖牝馬は8歳或いは9歳がピークなのではなく、それぞれ繁殖に上がって直ぐに産んだ仔たちが優れた競走成績を修めると結論付けられるのである。
比較的高齢出産でも優秀な産駒を出している繁殖牝馬はいる、と反論する人もいようが、当然個体差はあるし、種牡馬の違いによるものもあるだろう。
だが、そもそもそのような繁殖牝馬は、ほとんどの場合、初期の産駒から優秀な仔を出している。
すでに名牝と呼ばれている。

資料は「切り口」
以上のように、母集団全体の平均だけでは分からない情報もある。
牡馬・牝馬別、コース別、芝ダート別など、ご自身でデータを分割して調べることは意外に多くやっていることと思う。
今回、繁殖牝馬の出産時年齢の資料を加工したように、長期にわたるデータを抽出するという切り口も、その応用である。
わたしは「こういう馬は走るのではないか」と思ったら、片っ端から調べてみる。
ブログの記事にはならないような、非常に膨大な「検証したけれど徒労に終わった」作業は数知れない。
これを無駄と思うかどうか。
少なくとも天才でないわたしは、こうした作業の上に知識を積み上げている。
(SiriusA+B)

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