2023年6月25日日曜日

第422夜 あの馬も穴馬だった


▼穴馬の研究
以前に穴を開けた馬たちのその後を調べた記事を書いた。
今夜はそのアップデートを兼ねて、もっと長丁場で追いかけた。
この記事での穴馬の定義は、単勝40倍以上で勝った馬とする。
2006
年から2021年までの16年間の中央競馬平地競走を期間として、2004年産駒以降の競走馬で該当する馬を拾う。
大したことないデータだが、気になる点をより深く調べると興味深いことも分かってくるので、関心のある方は掘り下げていただければと思う。
単勝40倍以上としたのは、40倍が勝率2%でキリがよかったからである。
ピックアップされたのは、勝率2%以下と予想された馬たちということだ。
産駒世代別に集計したのは、古馬になっていない2019年産駒を注意しておくためと、2019年夏から導入された降級制度廃止の影響を見るためである。

(
図表422-1)単勝40倍以上勝利馬の次走以降成績(2006-2021年中央競馬平地競走成績に基づく。2004年以降生れ)
生年 頭数 再勝利頭数 再勝利率 勝利回数 出走回数 勝率
2004年 132 51 39% 86 1,705 5.0%
2005年 148 60 41% 101 2,032 5.0%
2006年 132 40 30% 65 1,565 4.2%
2007年 141 45 32% 73 1,912 3.8%
2008年 126 41 33% 73 1,735 4.2%
2009年 145 60 41% 125 1,949 6.4%
2010年 144 42 29% 68 1,734 3.9%
2011年 140 35 25% 66 1,826 3.6%
2012年 126 37 29% 90 1,720 5.2%
2013年 150 48 32% 72 1,842 3.9%
2014年 146 42 29% 73 1,674 4.4%
2015年 126 35 28% 57 1,329 4.3%
2016年 117 33 28% 63 1,056 6.0%
2017年 87 36 41% 52 713 7.3%
2018年 69 20 29% 27 307 8.8%
2019年 31 0 0% 0 31 0.0%
1,960 625 32% 1,091 23,130 4.7%
該当馬は16年間で延べ1,960頭いた。
2003
年以前の産駒を加えていないが、毎年100頭から150頭の馬が穴を開けてきた。
降級制度廃止前後で推測できることは、高齢馬の激走である。
2017
年産駒(2019年に2)以降の穴馬が大幅に減っている一因だろう。

1,960
頭のうち、次走以降で1勝以上した馬は延べ625頭である。
率にして32%弱で、凡そ3割の馬が該当する。
3
割の馬は、実力より低評価だったのかもしれないと言える。
延べ頭数と言ったが、単勝40倍以上で3回勝った馬がいる。
2009
年産駒サンマルデューク号で、生涯成績は11歳まで走って7勝、オープン特別の師走ステークスとポルックスステークスを連勝した。
2
戦目の未勝利戦を41.8倍で勝ったあと、単勝万馬券を2度も出した。
引退後、2020年に中京競馬場の誘導馬になった。

40
倍以上の単勝を2度までなら、さらに70頭いる。
振り返れば優秀な戦績なのに、わたしたちはしばしば見過ごしているということである。

(
図表422-2)単勝40倍以上の勝利回数別頭数
単40倍以上勝鞍 頭数
3回 1
2回 70
1回 1,817

▼次走以降で10勝した馬は
次走以降で単勝倍率に関わらず1勝以上した馬延べ625頭のうち、最多勝利数は10勝が1頭いる。

次いで、8勝が1頭だった。
さすがに6割近くが次走以降1勝止まりだが、残りが2勝以上しているとも言える。
その「穴を開けたあと8勝した」馬がナムラタイタン号である。
中央9勝、地方転出後も12勝して通算21勝である。
デビュー戦は未勝利戦で、10番人気、単勝70.2倍で勝利、オープン特別連勝まで6連勝した。
引退後、種牡馬になっている。
初戦以外は人気馬で、初戦が予想者の見込み違いだった。

前後したが、最多の10勝馬はキタサンブラック号である。
2
戦目を9番人気で勝った。
これも、振り返れば何故人気薄だったのか、と思いたくなる。

(
図表422-3) 単勝40倍以上勝利馬の次走以降勝利回数別頭数
勝利回数 頭数
10勝 1
9勝 0
8勝 1
7勝 2
6勝 5
5勝 10
4勝 33
3勝 67
2勝 140
1勝 366
625

▼規則性を見つけ出せるか
読み物としては以上である。
ここで「ふうん」と言って終わる人と、「これらの馬をどうやったらピックアップできるだろう」と考える人に分かれる。
このブログは後者向けだが、「穴馬の研究なら要らない」という、順当馬券派にも関心を持ってほしい。
穴馬の研究は、穴馬を拾うだけが目的ではない。
穴馬になるということは、裏返せばおおかたの場合には勝てないということでもあるのだ。
いつ発生しやすいか、開催条件、馬齢、斤量、騎手、出走間隔など調べ直すのもいいと思う。
競馬に勝つということは、規則性を見つける作業の繰り返しである。
(SiriusA+B)


2023年6月11日日曜日

第421夜 関係者もきっと試行錯誤


▼激走
競走馬の差というのは、小さいようで大きく、大きいようで小さい。
いつも悩むところである。
前夜にお話しした複勝万馬券となった馬も、2桁着順が続いていた。
この点では能力差は大きい。
それでも、出走すれば勝利したり連対したりする可能性はゼロではないという点で、差は小さい。
凡走を繰り返していた馬が、突然変わり身を見せることはあるのだ。
平凡な馬に対してひどい物言いをする人もいるが、競走馬は長い時間をかけて淘汰されてきた結果のエリートたちなのである。
潜在能力はある。
ただ、ソロモンの指輪を持つ人はいない。
対話はできないので、人間が馬を見て、調子や適性を判断するしかなく、関係者でさえ手探りで試行錯誤することもあるだろう。
激走するときというのは、関係者も内心驚いていることだってあると思われる。

2011
年から2019年産駒で2011年から2021年までの平地競走第1走で完走した馬は49,398頭いた。
このうち、19,428頭が2桁着順であった。
率にして39%である。
この19,428頭のうち、第2走を走り勝ち馬は236頭、2着馬316頭、3着馬370頭、2桁着順だった馬は11,242頭である。
どんどん脱落していくのだが、第3走から第6走まで2桁着順で、第7走で1着となった馬が1頭いる。
2018
年産駒のチェリーオリオンという馬である。
ずっと2桁着順だったが、中央競馬第7戦にして初勝利を挙げた。
古馬1勝クラス、福島の見習い騎手戦であった。
11
番人気で勝利したのだが、どのように予想すればこの馬券を買えるのだろう。
ほんとうのところは分からないが、関係者が試行錯誤していたのかなと想像しながら戦歴を眺めてみることにしよう。
なお、わたしの勝手な想像であり、関係者の皆さまのほんとうのところは存じ上げないので、違っていたら(違う可能性も高いと思うが)お詫び申し上げる。

チェリーオリオンは、201849日生まれだから、平均よりは少しだけ遅い誕生である。
父はチェリークラウン、母はアイラシンガー、母父はアグネスタキオンである。
かなりマイナーな種牡馬だが、サイアーラインはDanzigにつながる血統である。
チェリーオリオン以外に2頭が中央で勝利している。
ファミリーラインはMumtaz Mahalから連なる。
半兄2頭が中央で1勝ずつしており、兄弟姉妹の地方での勝利数も20を超えているから、母アイラシンガーの繁殖成績は良いほうだと思われる。
チェリーオリオンは中央で5戦し、2桁着順を繰り返したあと、地方に転出した。
姫路・園田のダート1400mで各2勝計4勝し、中央に再参戦、再参戦1戦目(中央6戦目、3歳以上1勝クラス、東京ダ1400)2桁着順だったが、先にご紹介した通り、次の福島ダ1700で勝ったのだ。

最初の「馬生」である中央での5戦を見てみると、デビューは福島ダ1150だった。
6
番人気に推されている。
馬体重は平均より少しだけ重い488kgだったので、体格は恵まれていたほうではないだろうか。
勝ち馬から32も離されて大敗した。
わたしは関係者ではないので推測するしかないのだが、「パンとしていない」と思われたのだろう、福島の次は新潟に転戦して芝を走った。
わたしのイメージでは、腰が甘い・緩いのをパンとしていないと言うと思っている。
こうした馬はスタートダッシュがつかない、坂道が苦手、などと考える。
実際、2戦目はやはり後方からだったが、上がり3ハロンのタイムは3番目に良かったし、着差も06であった。
スピードの問題、と考えられたのか、第3戦は1ハロン延びた芝1400だった。
夏場だが、絞ったのだろう、期待はあったのだろうと思う。
やはり後方からだったものの、着差は0810着であった。
中間にどう過ごしたのかは知らないが、いわゆる立て直しになった。
4戦は1月であった。
年齢・季節から馬体重が増えるにしても、プラス44kgというのはちょっと大きい。
それでも、逃げを打った。
4コーナーでつかまり、結局16着となったが、もう少し短いところなら勝ち敗けになると判断されたのだろう、第5戦は1ハロン短縮の東京ダ1600であった。
馬体も絞ったのだろうが、残念ながら第5戦も2桁着順となったのである。
(図表421)
チェリーオリオン第5走までの戦績

日付 競走条件 着順 クラス 騎手 単勝 人気 馬体重 増減 上がり順位 着差 展開
2020/7/4 福島ダ1150 11 2歳新馬 小林凌大 21.7 6 488 - 15 3.2 8→9
2020/8/2 新潟芝1200 10 2歳未勝利 木幡巧也 215.7 17 492 4 3 0.6 16→16
2020/8/23 新潟芝1400 10 2歳未勝利 木幡巧也 70.5 11 478 -14 9 0.8 9→10
2021/1/10 中山ダ1800 16 3歳未勝利 小林凌大 101.3 12 522 44 16 2.9 1→1→1→3
2021/1/30 東京ダ1600 16 3歳未勝利 小林脩斗 137.0 13 510 -12 14 3.1 15→15

地方転出後、ダ1400で力を発揮して中央に再参戦するのだが、東京ダ1400では凡走した。
そして、第7戦は福島ダ1700である。
先行して順位を上げていき、勝った。

結局、同馬は中央では8戦して11回、2桁着順7回という成績だった。
2023
5月現在では、20231月に地方で走っているのを最後に出走していないようだ。
ピンポイントでこの激走を捉えたという人は凄い。

▼試行錯誤は関係者の前走分析結果
わたしたちは、同馬の激走を予想することまでできないかもしれないが、もしも、わたしの想像が理に適っているようなら、次の考えもアリだ。
・パンとしない、腰が甘い、先行できない→坂のある中央からローカル開催へ
・スピードが足りない→芝からダートへ、距離延長へ
・先行したが馬群に沈む→距離短縮へ
太古の昔()から言われていることだが、これら「次走の対策」が関係者の頭にあるのではないか。
実際、こうした対策は多いようだ。
そして、手探りの関係者も、わたしたち馬券購入者も、馬が驚くような変身を遂げれば、これを激走というのだ。
また、これを逆手に取って考えると、大敗後もほぼ同じ条件で再度出走してきたら、前走は力を発揮できなかった、という判断だったのではないかとも推測できる。

いずれにせよ、大敗後の競走条件の変更・不変には、関係者になったつもりで考えてみたい。
「適鞍がなかったからこのレースに出走させた」というコメントを真に受けてばかりでは勿体ない。
それは馬主と厩舎の判断が異なっているのでそう言わざるを得なかったのかもしれないのだ。
すぐに結果は出せなくても、「結果を出す気はない」という出走は、ない。
厩舎は、管理馬の頭数も馬房数も限られている。
出走させる限り、札束を加えて帰厩してもらわねばならない。
(SiriusA+B)


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