2024年11月17日日曜日

第493夜 煮えたぎる蒸気機関車とみにくいアヒルの子


▼血の飽和
英国馬セントサイモンの悲劇というのは血統に関心がなくても耳にしたことがあるのではないかと思う。
「お嫁さんがいなくなった話」とわたしは考えている。
現役時代は「煮えたぎる蒸気機関車」と言われたセントサイモンは、傍流の種牡馬ガロピンの仔で見栄えも良くなかったという。
馬主が亡くなったためにクラシックに出られなかったが、全勝それも多くが圧勝だったそうだ。
現在も名が知られているのは種牡馬成績のほうで、サラブレッドの血統に大きな足跡を残した。
当世、セントサイモンの血を持たないサラブレッドは、ほとんどいないと言われている(調べてないけど)
しかし、急激に繁栄したのち、急激に衰退する。
後継種牡馬が勝てなくなった。
原因はいろいろと指摘されているが、有力なのはセントサイモンの血が広がり過ぎて、あてがう優秀な牝馬を確保できなくなったというものだ。
「血の飽和」である。
現代でも強いインブリードを好む馬主や生産者もいるけれど、極端な近親交配はリスクもあって主流派になることはない。

余談だが、2017年の記事を見ていないので見聞きした限りだが、セントサイモンがバイアリーターク系かもしれないという遺伝子学上の話がある。
ジェネラルスタッドブックは史実をベースにしたファンタジー小説だと思うかどうかで、反応は分かれるが、この興味深い話はいずれ記事にすることとして、ここでは「では、サンデーサイレンスは」という話を進めたい。

日本の馬産においてサンデーサイレンスもまた、急激に血を拡大させた種牡馬である。
わたしは、血統や見栄えでセントサイモンにどことなく共通するイメージを持っている。
大きく異なるのは、サンデーサイレンスがセントサイモンより後に生まれ、セントサイモンの悲劇を知っていることであろう。
Kingmambo
、キングカメハメハから、ロードカナロア、ドゥラメンテ、ルーラーシップらの系統が種牡馬として活躍しているのも、サンデーサイレンス系のアウトブリードとしての需要がある側面を否定できない。
サンデーサイレンスの血を持った有力牝馬が多いのだ。
一方で、キズナをはじめ、キタサンブラック、サンデーサイレンス直仔のハーツクライなど、サンデーサイレンス系の種牡馬も健在で、セントサイモンの歴史とは異なる道を歩んでいる。
このサンデーサイレンスの血は、どれほど日本の血統に影響を与えているのか、そして、今なお勢いを失っていないのか。
わたしは、かなり時間が掛かったけれども、2018年と2019年産駒14,411頭(中央競馬で走った外国産馬を含む。また、未出走や地方競馬しか走っていない馬も含む)の4代血統表を作成して、サンデーサイレンスの血量と競走成績の関係をみて驚くことが多かった。
なお、全体の3%未満であるものの、血統表が不完全なものがある。
ただし、今回の研究に支障はないが予めお断りしておく。
また、いつも手作業でやっている中でも今回ほどわたしの予想と乖離しているものも珍しく、若干自信がない。
何か大きな間違いでも犯しているようであればご容赦いただきたい(ファンタジー小説と思って読んでね)

▼血量凄い
サンデーサイレンスはすでに亡くなっているので20182019年産駒に直仔はいないが、4代血統表を作成すると驚くほどの頻度で血統表に出てくる。
どれくらいの割合かというと、20182019年産駒のうち、実に85%の馬がサンデーサイレンスの血をどこで引いていた。
繰り返すが、85%である。
ほとんどみんな親類じゃん……
このうち、1回だけ血統表に登場するのが68%、サンデーサイレンスのインブリードすなわち2回以上登場するのが16%だった。
16%
の馬だけがサンデーサイレンスの血量ゼロすなわち4代血統表にサンデーサイレンスが登場しない。ちなみに5代血統表にした場合でも、この比率はあまり変わらない。
サンデーサイレンスの血を引く馬が10頭増えるだけであった。
わたしが何か間違えているようなら、たいへん申し訳ない。
血統データって確認しにくいのである、どこかで大きなポカをしていたらご容赦いただきたい。

▼やはり父系
図表493-2に中央競馬平地競走での戦績をまとめた。
勝率では、血量ゼロが8.5%、サンデーサイレンスが4代血統表に1回登場する馬が7.7%、インブリード馬が7.4%であった。
「あれ、サンデーサイレンスの血を引いていないほうが強い?」
と慌ててしまったが、どのグループも同じレースに複数頭出走している影響とみられる。
1
走あたりの平均賞金(賞金は同着などでわたしの独自修正がある)で見るとこの逆で、インブリード馬が最も高くなっており、地力の強さはやはりサンデーサイレンスの血が入っているほうが良績なのだと推測できる。
賞金の高額なレースでは強い、出走馬中血量ゼロ馬の割合が少ない、という証左だろう。

図表493-3では、サンデーサイレンスの血統表での登場位置別に成績をまとめ直した。
インブリード馬はそれぞれの登場位置に含まれるので複数カウントされている。
先ほどのデータと同じく、全体の勝率7.7%、平均賞金153万円を基準にして比較しながらご覧いただきたい。
平均賞金の視点では、最も成績が優れているのが「父父」で、父ディープインパクトのような馬が強いようだ。
「母父」が意外なほど振るわなかった。
これが、冒頭で「キングカメハメハなどの系統がサンデーサイレンス系のアウトブリードとして」と申し上げた理由である。
現時点では、サンデーサイレンス系種牡馬の強さは未だ明確にあり、非サンデーサイレンス系種牡馬がこれを凌ぐ域に達していないのではないか、とわたしは思うのだ。
もしも、「母父」グループが「父父」グループを上回っていたなら、サンデーサイレンス系よりも強い種牡馬が登場した、ということになると考えられるのである。
図表493-3の下部には父系・母系別の合計も記したが、これも「サンデーサイレンス系よりも強い種牡馬がいない」と解釈できるようにわたしには思える。

▼インブリードはやはり「4×3」を意識して
4
代血統表上で2回以上サンデーサイレンスが登場しているインブリード馬2,286頭で、同馬の血をどこに有しているのか、父系と母系に分けてみたところ、最も多い組合せは「父系×母系」であった(図表493-4)
血統表登場位置別では、「4×3」が群を抜いて多く、生産サイドでの奇跡の血量神話が根強いことを示しているが、成績も良い。
ただ、「4×4」も悪くないよ?
この表を眺めていると、「3×3」以内ではインブリードが強すぎ、ギリギリ一杯が「4×3」ということになったのだろうと想像する。
3×2」も7頭いるけれど、おそらく生産サイドが期待した成績には程遠いものだろう。
表にはないが、7頭のうち6頭が2023年末までの成績では未勝利だった。
インブリードの強かったノーザンテーストのような馬はそうそう現れないとみていい。

遺伝学では、血統分析には否定的である。
わたしも同感である。
ただ、ことインブリード・アウトブリードに関しては注意する必要があり、この点に注目するために4代血統表を作成した。
紙幅の都合でここまでとするが、さらに興味深い話もまだある。
「グレードレース勝ち馬だけ調べた」みたいなものより大掛かりで、手間はとても掛かったので、皆さんもどうぞやってみて、とは言わない。
(SiriusA+B)

(
図表493-1)4代血統表
1代 2代 3代 4代
父父 父父父 父父父父
父父父母
父父母 父父母父
父父母母
父母 父母父 父母父父
父母父母
父母母 父母母父
父母母母
母父 母父父 母父父父
母父父母
母父母 母父母父
母父母母
母母 母母父 母母父父
母母父母
母母母 母母母父
母母母母


(図表493-2)4代血統表に登場するサンデーサイレンスの回数(20182019年産駒。成績は202312月末までの中央競馬平地競走)
登場回数 頭数 割合 1着回数 出走回数 勝率 1走あたり平均賞金
0回 2,267 15.73% 919 10,798 8.51% 1,507,404
1回 9,858 68.41% 4,297 56,077 7.66% 1,523,760
2回 2,281 15.83% 918 12,339 7.44% 1,558,427
3回 5 0.03% 0 7 0.00% 0
全体 14,411 6,134 79,211 7.74% 1,526,796


(図表493-3)4代血統表登場位置別成績
血統表位置 頭数 1着回数 出走回数 勝率 1走あたり平均賞金
0 0 0 0.00%
父父 1,086 776 8,170 9.50% 2,115,453
父父父 3,746 1,499 20,984 7.14% 1,440,052
父母父 1,358 474 6,641 7.14% 1,578,778
父父父父 1 0 3 0.00% 0
父父母父 367 251 2,438 10.30% 2,111,140
父母父父 771 371 4,957 7.48% 1,520,297
父母母父 27 2 57 3.51% 581,614
母父 280 141 1,778 7.93% 1,335,136
母父父 4,206 1,615 22,806 7.08% 1,364,515
母母父 1,119 521 6,213 8.39% 1,633,408
母父父父 226 66 901 7.33% 1,262,858
母父母父 224 40 975 4.10% 883,647
母母父父 788 271 3,652 7.42% 1,535,969
母母母父 236 106 1,201 8.83% 1,627,352
父系 7,356 3,373 43,250 7.80% 1,634,733
母系 7,079 2,760 37,526 7.35% 1,417,806
全体 14,411 6,134 79,221 7.74% 1,526,796


(図表493-4)インブリード馬の詳細(父系・母系別)
父系登場回数 母系登場回数 頭数 1着回数 出走回数 勝率 1走あたり平均賞金
0 2 17 0 26 0.00% 311,538
0 3 0 0 0 0.00% 0
1 1 2,264 918 12,313 7.46% 1,561,060
1 2 5 0 7 0.00% 0
2 0 0 0 0 0.00% 0
2 1 0 0 0 0.00% 0
2 2 0 0 0 0.00% 0


(図表493-5) インブリード馬の詳細(血統表登場位置別)
2代登場回数 3代登場回数 4代登場回数 頭数 1着回数 出走回数 勝率 1走あたり平均賞金
0 0 2 118 58 683 8.49% 1,687,763
0 0 3 1 0 3 0.00% 0
0 1 1 1,356 654 7,820 8.36% 1,785,573
0 1 2 4 0 4 0.00% 0
0 2 0 773 199 3,673 5.42% 1,083,448
0 2 1 0 0 0 0.00% 0
1 0 1 27 5 122 4.10% 880,607
1 0 2 0 0 0 0.00% 0
1 1 0 7 2 41 4.88% 648,098
1 1 1 0 0 0 0.00% 0
1 2 0 0 0 0 0.00% 0
2 0 0 0 0 0 0.00% 0
2 0 1 0 0 0 0.00% 0
2 1 0 0 0 0 0.00% 0

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