2017年11月28日火曜日

第190夜 不良馬場での勝利をどう評価すべきか

▼馬場状態を示す4区分は結構アバウトかも
思い込みやすかったり、誘導尋問に引っかかったりするのは人の常である。
中央競馬の馬場状態は「良」「稍重」「重」「不良」の4区分で発表されていることはご存知と思うが、ダート競馬では「重馬場」が最速で、芝競馬では天候も加味すると「晴・良」より「曇・良」の方が速いタイムが出るコースもある。
このことは、以前記事にしたように思う。
競馬を始めてからどこかの時点でこのことに気がつくのだけれど、芝の「重馬場」は字義通りもダートの「重馬場」は重くなく、脚抜きの良い馬場で言葉と内容が違い、困るのである。
ついでに、今夜は「良」ですら「良いのかどうか」も考えてみたい。

さ て、4つの区分についても区分数が少ないと思うが、区分境界も厳格なものではない。
4
つの区分は水分含有率と言い換えても良いのだけれど、各区分の境界線は競馬場により異なる。
計測方法も若干アバウトな感じだ。
これを厳密にすべきとか区分数を増やすべきという意見はある。
ただ、わたしは、いつも記事で申し上げているように、競馬はタイムを争う競技ではないので、これはこれでかまわないと思っている。
「あれは渋った馬場でした」「とても渋った馬場でした」「水も浮くようなひどい馬場でした」と言えれば十分なのではないだろうか。
主催者としても厳密にしたくない理由もあるだろう。
G1
級競走なら良馬場で施行したと言いたいのではないだろうか。
繁殖に上がる馬の競走 成績では良馬場であることがいいようだ。
不良馬場では成績を「割り引かれて」しまう向きもある。
だから良馬場を願う。
願うのは、生産に関わる皆さんで、わたしたち馬券購入者にはあまり関係がない。

4
つの区分の出現比率は下表にまとめている。

平地競走数 芝ダ 稍重 不良
2006年 1,378 198 59 25 1,660
2007年 1,345 199 97 28 1,669
2008年 1,416 170 58 42 1,686
2009年 1,339 178 105 38 1,660
2010年 1,435 127 73 37 1,672
2011年 1,275 231 72 34 1,612
2012年 1,353 206 79 28 1,666
2013年 1,417 148 70 35 1,670
芝合計 10,958 1,457 613 267 13,295
82% 11% 5% 2% 100%
2006年 ダート 1,094 336 148 82 1,660
2007年 ダート 1,134 245 145 128 1,652
2008年 ダート 1,065 300 153 116 1,634
2009年 ダート 1,090 210 219 140 1,659
2010年 ダート 1,098 287 172 91 1,648
2011年 ダート 1,189 193 178 159 1,719
2012年 ダート 997 299 199 160 1,655
2013年 ダート 1,063 315 164 112 1,654
ダート合計 8,730 2,185 1,378 988 13,281
ダ計 66% 16% 10% 7% 100%
全体 19,688 3,642 1,991 1,255 26,576
全体 74% 14% 7% 5% 100%
平地全体では4分の3が良馬場だが、芝とダートに分けると出現率は大きく異なっている。
芝では良馬場が80%を超える。
ダートでは3分の2が良馬場である。
天候により毎年上下動するが、長期間でみるとこの比率はあまり変わらないようだ。
芝とダートでは比率がかなり違うが、両者の水捌けの違いだけではなく、もしかすると芝では良馬場にしたい意向が働いているかもしれない。
もしそうであるなら、芝の良馬場は非常に幅広い馬場を 指していて、本当は細分化しなければ分析できないのでは、と考えてしまう。

▼良馬場は「良い」のか
それでは不良馬場は「悪い」のか、ちょっと考えてみたい。
悪いというのは、実力を反映していないという意味である。
この点は長い間、わたしの疑問点であった。
そこで、2006年から2013年の中央競馬平地競走の勝ち馬(同着含む)2014年まで追跡して、「その後1勝以上したかどうか」と「勝率」を調査してみることにした。
少し大雑把だが、実力馬がきちんと勝ち上がったかどうかがわかるとみたのである。
期間中、最大で11勝した馬もいるが、それぞれ勝利をした馬場状態別に11件として集計している。
のべ頭数ということである。

芝・ダート別、馬場状態4区分で集計してみると、 たいへん興味深い結果になった。
下表にまとめてある。

芝ダ 馬場 競走数 勝利馬の次走以降完走回数合計 勝利馬の次走以降勝利数合計 勝率 同着含む勝利件数 再勝利した頭数 再勝利率
10,958 152,654 12,472 8.17% 10,972 6,171 56.2%
稍重 1,457 19,906 1,585 7.96% 1,460 792 54.2%
613 8,971 699 7.79% 613 347 56.6%
不良 267 3,577 298 8.33% 267 151 56.6%
芝計 13,295 185,108 15,054 8.13% 13,312 7,461 56.0%
ダート 8,730 108,676 8,206 7.55% 8,737 4,442 50.8%
ダート 稍重 2,185 27,813 2,138 7.69% 2,185 1,130 51.7%
ダート 1,378 17,496 1,363 7.79% 1,379 697 50.5%
ダート 不良 988 12,344 884 7.16% 988 483 48.9%
ダ計 13,281 166,329 12,591 7.57% 13,289 6,752 50.8%
ダートでは重馬場や稍重の馬場が成績良く、不良馬場ではその後の成績が良くなかった。
芝でも重馬場や不良馬場の方が、良馬場よりもその後の成績は良かったのである。
不良馬場のサンプル数は良馬場と一桁違うけれど、調査した全期間にわたってこの傾向は変わらず、信用性は低くないと思う。

この結果から推定されることは、良馬場こそが最も「良い」のではないのかもしれないということだ。
極端な話 、重馬場や不良馬場を基準にして、「
良馬場適性」を検討してもいいかとすら思う。
(SiriusA+B)

2017年11月20日月曜日

第189夜 展開予想理論のこと、ぼんやり考える

▼展開予想は重要だという考え
いずれ展開予想理論についてしっかり考察したいと思っていたけれど、今夜は準備段階レベルの話を少し綴っておきたい。

多かれ少なかれ、予想の要素として展開を読むという人は少なくない。
展開予想を重要だと位置付ける人も案外いるように思う。
私見を申し上げると、わたしも重要ではないかと考えている。
展開予想は、しかし、そのバリエーションが多過ぎて確立された理論は見当たらないのも事実である。
問題は、重要だがどう取り扱うべきか、方法論が確立していないことにある。

▼一般的な展開予想の5大要素
ただ、整理すると、展開予想は次の要素から成り立つとみられている。
1
、脚質
馬が(わたしは必ずしも馬とは思っていないが)持つ、逃げ、先行、差し、追込の4つに大別されるレースの得意な進め方
2
、レースのペース
レースの進行具合を示す、ローペース、ミドルペース、ハイペースの3つに大別される展開
3
、枠順
馬番順に、内枠、中枠、外枠(大外に細分する場合あり)
4
、コース
距離、特に、スタートから最初のコーナーまでの距離、中長距離戦を中心にコーナーの数、最後の直線の長さや坂の有無
5
、馬場状態
良、稍重、重、不良の含水率の違いによる馬場状態。また、芝については芝の痛み具合を論ずるものもある。騎手の駆け引きや、内ラチの芝の状態など、さらに細かく考える人もいる。
それでも、およそこの5種類が展開予想の材料と言っても良いのではないだろうか。

▼騎手はどう考えているか
わたしたち予想者は、馬の脚質を見極め、出走馬からペースを想定し、枠順と馬場状態とコース形状や距離から最も適性があり有利な馬を探す。
これが、展開予想の一般的な方法ではないだろうか。

ところで、騎手の思考はどうだろうか。
以前から騎手の戦略が気になっていたのだが、大昔はなかなか情報がなかった。
今は、騎手自らブログなどで発信するようになり、まあ参考になることを書いてくれないものもあるが、丹念に見れば、それこそ僅かでもその一端を垣間見ることができる。
馬主や調教師の手前「失敗した」とはあまり書けないだろうが、「この馬はエンジンの掛かりが遅い」「スタートでポンと出て前の方で競馬ができた」などのコメントは結構ある。
ライバル関係の把握も、重賞級はともかく、下級条件戦では競馬新聞のようだし、道中の位置取りも馬柱を参考にしているようだ。

こうしたブログのコメントを拾っていくうち、わたしは、騎手によって考え方は違うけれど、枠順、強いライバル、末脚を頭に入れて騎乗しているように思えてきた。
スタートから最初の位置取りまでは「出たとこ勝負」で、何が何でもハナを切る必要がなければ、あまり気にしないようにも思える。
戦前の想定(予告?)と結構違うことが多いのである。
前走の位置取りは参考にしているが、馬群に取り付いた位置によってどこから仕掛けていくのかを走りながら「再計算」するのだろう。

競馬は基本的に前の方で走るのが有利である。
腰が甘さや性格に起因してエンジンの掛かりが遅い馬はポジション争いを避けてエネルギー消費を抑える。
これが差し馬、追込馬であるが、先行できるに越したことはないということである。
そうすると、騎手の勝負所は、(1)スタートからの位置取り(2)道中の折り合い(3)末脚ーーに集約できはしないだろうか。
わたしたちの想像よりも速いペースのレースで、騎手はゴール前の「エネルギー残量」を見積もりながら馬を駆る。
この視点で改めて展開予想を考えるとどうだろうか(結論なしとはヒドイけど今夜はここまで)
(SiriusA+B)

2017年11月8日水曜日

第188夜 走破タイムを分割すると、レースの本質が見えてくる


▼走破タイムを分割して速度にしてみる
今夜掲載する表は、ぜひグラフにしていただきたいのだが、競走馬が「レースを覚える」とはどういうことかわかる気がするお話である。
走破タイムを二つに分割し、それぞれの特徴を調べてみた。
走破タイムを分割するというと「目から鱗」という人もいるだろうが、普段から上がり3ハロンのデータを無意識でも利用しているのである。
それほど目新しいことはない。
ただ、その残りの部分まで調べたことがない人は少なくないようだ。

例によって2006年から2014年の中央競馬平地競走のデータを使い、走破タイムを速度に換算した。
この期間に出走した2004年生まれから2012年生まれの競走馬で完走したものを出走回数別に、(1)全体の速度、(2)全体から上がり3ハロンを差し引いた残りの距離での速度、(3)上がり3ハロンの平均速度を集計した。前半は、1000mの距離なら400m分、1600mの距離なら1000m分ということになるので、「半分半分」という意味ではないことをお断りしておく。
予想紙や詳しいデータ提供会社の情報では「前半3ハロン」といったデータも提供されているが、走破タイムを分割することで見えてくるものもあるが、ここでは利用していないし「前半」の意味が少し違うのでご注意いただきたい。
なお、出走回数30回くらいまではサンプル数が延べ1,000頭あるが、それ以上になるとデータが不安定になる。
したがって第42走以降については省略した。
また、参考資料として、芝とダートの比率や年齢、平均距離を併せて掲載した。

このデータから、次のことが示された。
・出走回数が増えるに従い、平均出走距離は35走くらいまで伸びていく。
・全体の速度は次第に緩やかな上昇になり、30走くらいで頭打ちになる。
・前半の速度は15走くらいで頭打ちになる。
・後半の速度は25走くらいまで上昇を続け、それ以降極めて緩やかな上昇になる。

成績下位の馬は次第に淘汰され回数を重ねることができるのは優秀な馬たちであること、牝馬は牡馬よりも早く引退していくこと、もこの曲線に影響しているとは思う。
それにしても前半速度が早々に伸びにくくなるのである。
一方で、後半速度はどんどんと上がっていく。
また、緩やかとはいえ距離が伸びても全体の速度は下がっていかないことから、古馬になっても成長は続いていることがわかる。
次第に芝コースの比率が増えていくことも影響しているのかもしれない。

いずれにせよ、競走馬が出走経験を重ねるにしたがって伸びていくのは上がり3ハロンであることは確かなようだ。
どんな距離になっても前半は「ソコソコで流し」、後半どれだけ余力が残っているかが勝負となるのである。
ここにレースの本質がある。
古馬になって「ズブくなる(反応が鈍くなる)」などということもあるが、競走馬が騎手の指示に反応せずに勝負所までそれなりの速さでしか走らないからなのかもしれない。
血統理論で、距離適性について言及があるけれど、実際にはスタミナだけではなく、どんな距離でも勝負所まで抑制できる気性の影響も大きいのではないか。
優秀な馬は「マイラーだが短距離もこなす」ではなく、ある程度の距離は抑制が効く、ということではないかということだ。
馬の成長は上がり3ハロンであり、どれだけの距離を「流して」走ることができるかで、距離適性が決まるように思う。

そういうことをいろいろと思いめぐらせていただければと思う。

蛇足だが、古馬戦は予想が難しいけれど、速度が頭打ちになった馬ばかりである、展開ひとつで順位が入れ替わるのもわかる気がしまいか。
出走回数 (1)全体(km/h) (2)前半(km/h) (3)後半(km/h) 距離(m) 芝・ダート比率 年齢(歳、実年齢)
1走目 57.90 57.91 58.33 1505 1.36 2.69
2走目 58.04 58.66 57.50 1548 1.46 2.80
3走目 58.02 58.68 57.42 1562 1.52 2.92
4走目 58.13 58.77 57.57 1572 1.53 3.04
5走目 58.25 58.85 57.73 1582 1.54 3.15
6走目 58.40 58.95 57.96 1589 1.54 3.27
7走目 58.54 59.04 58.15 1601 1.53 3.38
8走目 58.66 59.12 58.31 1604 1.53 3.50
9走目 58.74 59.18 58.44 1609 1.54 3.62
10走目 58.82 59.23 58.56 1613 1.54 3.75
11走目 58.90 59.28 58.70 1610 1.53 3.88
12走目 58.94 59.30 58.74 1613 1.54 4.02
13走目 59.02 59.33 58.91 1613 1.53 4.15
14走目 59.09 59.36 59.02 1615 1.53 4.28
15走目 59.09 59.35 59.07 1623 1.52 4.40
16走目 59.12 59.37 59.09 1624 1.52 4.52
17走目 59.14 59.35 59.15 1625 1.52 4.64
18走目 59.14 59.37 59.16 1629 1.52 4.75
19走目 59.19 59.38 59.26 1631 1.51 4.86
20走目 59.22 59.39 59.29 1628 1.51 4.96
21走目 59.25 59.39 59.37 1632 1.50 5.06
22走目 59.26 59.39 59.40 1630 1.50 5.15
23走目 59.31 59.41 59.50 1632 1.48 5.24
24走目 59.36 59.44 59.55 1639 1.47 5.32
25走目 59.35 59.39 59.60 1639 1.47 5.42
26走目 59.37 59.39 59.66 1643 1.47 5.50
27走目 59.40 59.44 59.66 1642 1.47 5.58
28走目 59.35 59.40 59.59 1653 1.45 5.67
29走目 59.44 59.43 59.75 1647 1.45 5.76
30走目 59.37 59.38 59.67 1663 1.44 5.84
31走目 59.36 59.36 59.65 1662 1.45 5.92
32走目 59.38 59.38 59.71 1672 1.44 6.02
33走目 59.39 59.38 59.70 1677 1.43 6.12
34走目 59.35 59.35 59.63 1683 1.43 6.21
35走目 59.40 59.35 59.80 1676 1.42 6.28
36走目 59.32 59.29 59.64 1689 1.43 6.39
37走目 59.42 59.39 59.76 1683 1.42 6.45
38走目 59.32 59.24 59.68 1682 1.42 6.53
39走目 59.44 59.39 59.74 1674 1.41 6.57
40走目 59.50 59.48 59.78 1673 1.42 6.64
41走目 59.49 59.36 59.95 1672 1.40 6.73

 
注。芝・ダート比率は1.5が半々、1に近づくと芝競走の比率が多くなり、2に近づくとダート競走の比率が多くなる。
注。年齢は、出走日から誕生日までの日数を365.25日で割ったもの。「実年齢」に近い。
(SiriusA+B)

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