2018年7月22日日曜日

第203夜 調教師の統計的研究(3)調教師の横顔の続き

▼調教師の経歴
前夜からつづく。
2006
年以降に引退した調教師を含め、311人が調教師になる前にどの職種の仕事をしていたのか、集計した。
もちろん、競馬界に入った後のデータである。
競馬に携わる仕事には、騎手だけでなく、厩務員、調教助手、調教厩務員といった職がある。
厩舎に所属し、JRAが統一している給与と競馬の賞金(厩舎により配分方法が異なる)で生計を立てる。
関東・関西で、或いは厩舎により若干差はあるようだが、厩務員は馬の世話、調教助手は馬の調教と調教師の補佐が主な役割である。

少し脇道に逸れるが、以前は騎手もほとんど厩舎に所属していた。
騎手は、競馬学校以前は騎手候補生として厩舎に所属し、やがて騎手免許をとって、という徒弟制度だった。
現在は調教師が「身元引受人」で師弟関係は昔より希薄なのだろう。
厩舎に所属しないという意味で「フリー騎手」というのはこうした背景があるようだ。

さて、調教師はこれらの職を経てなるが、年齢や勝率などを分析していく上で出身別に区分してみたいと思う。
実際に調べてみると、調教助手が最も多く、次いで騎手となる。
最初から調教助手或いは厩務員から調教助手になり、調教師となるルートが主要路線だ。
騎手の場合は、引退のニュースで話題になりやすいが、騎手から直接調教師になるのは全体の3割くらいで比率から言えば少数派である。
厩務員から調教助手を経ないで調教師になる例はもっと少ない。
なお、近年は、騎手から直接調教師にならず、調教助手を経るといった両方経験している場合もある。
こうした傾向から調教助手を経たかどうか、騎手の経験があるかどうか、で分けてみる。
A:
騎手経験あり、調教助手経験なし
B:
調教助手経験あり、騎手経験なし
C:
騎手経験、調教助手経験ともにあり
D:
騎手経験、調教助手経験ともになし

▼経歴別で違いはあるのか
野球の監督なら、投手出身か、捕手出身か、野手出身かによっていろいろ采配が異なるように言われるけれど、調教師も騎手出身、調教助手出身などで違いはあるかもしれない。
実際のところを集計してみる。

まず、調教師になる年齢は騎手出身者の場合少し遅い。
この結果を想像していた人も多いと思うが、これは、かつてあった1,000勝騎手の一部試験免除や、優秀な騎手はかなり稼ぐことができるのである程度騎乗できる限り引退しない、などの理由によるだろう。
これに対して厩務員や調教助手が劇的に収入を増やすには調教師になるしかない。
30
歳で「じゃあ騎手に転向しようかな」と思ってもルートがほぼない。
また、調教助手のほうが騎手よりも調教師に近く、最初から調教師を目指していたという人もいるのだろう。

▼勝率にも差が
騎手出身者と調教助手出身者では勝率にも差がある。
勝率や5着入着率いずれも調教助手出身者のほうが1ポイントあるいはそれ以上高い。
騎手は、特に本当の意味でフリーの騎手は、調教助手のように厩舎経営に補助的であるにせよ関わることが少ないと思われる。
調教師と調教助手の世界が近しいのに対して、騎手と調教師は意外に異なる世界である。
こうしたことが理由ではないだろうか。
これには時代の影響もあるかもしれないと思い年度ごとにも集計してみたが、やはり調教助手出身>騎手出身という傾向は同じであった。

タイプ A B C D 合計
騎手経験有無 1 0 1 0
調教助手経験有無 0 1 1 0
調教師人数 97 164 49 1 311
全体比 31% 53% 16% 0% 100%
初出走(≒厩舎開業)時年齢 40.7 36.8 39.9 52.0 38.5
出走総数 448,085 589,356 178,781 1,028 1,217,250
勝利総数 32,831 48,768 11,527 41 93,167
勝率 7% 8% 6% 4% 8%
5着以内数 167,409 231,580 61,923 292 461,204
5着以内率 37% 39% 35% 28% 38%

▼調教師出身別年別5着入着率(勝率との誤表記を修正)
A B A-B C D
1965年 43%
1966年 57% 57% -0.2%
1967年 54% 58% -3.6%
1968年 64% 52% +11.7%
1969年 55% 44% +11.3%
1970年 57% 42% +14.3%
1971年 54% 52% +2.1%
1972年 60% 60% +0.6%
1973年 59% 49% +9.2% 65%
1974年 64% 52% +11.4% 54%
1975年 56% 48% +8.0% 54%
1976年 49% 54% -5.2% 52%
1977年 49% 52% -2.9% 56%
1978年 49% 53% -3.7% 57%
1979年 47% 47% +0.6% 48%
1980年 45% 51% -6.2% 41%
1981年 49% 50% -1.0% 43%
1982年 46% 48% -2.8% 44%
1983年 46% 49% -2.7% 47%
1984年 46% 49% -2.4% 46%
1985年 46% 49% -3.2% 43%
1986年 45% 48% -3.8% 44%
1987年 45% 51% -5.7% 45%
1988年 44% 48% -4.2% 43%
1989年 43% 49% -5.3% 42%
1990年 44% 47% -3.0% 42%
1991年 43% 47% -3.8% 41%
1992年 42% 44% -2.5% 43%
1993年 43% 44% -0.5% 38%
1994年 42% 45% -2.4% 35%
1995年 40% 45% -4.6% 35%
1996年 41% 44% -3.3% 36%
1997年 39% 43% -3.5% 37%
1998年 38% 43% -4.4% 35%
1999年 39% 41% -2.2% 35%
2000年 37% 41% -3.5% 34%
2001年 36% 40% -3.4% 32%
2002年 35% 38% -3.7% 33%
2003年 34% 38% -3.9% 33%
2004年 36% 38% -2.6% 33%
2005年 35% 38% -3.0% 33%
2006年 35% 37% -2.3% 32%
2007年 34% 38% -3.9% 31%
2008年 33% 36% -3.0% 32%
2009年 33% 36% -3.2% 33%
2010年 33% 36% -3.6% 32%
2011年 34% 37% -3.0% 33%
2012年 33% 36% -2.7% 31%
2013年 33% 36% -2.8% 30%
2014年 32% 36% -4.2% 31% 24%
2015年 33% 36% -3.1% 32% 20%
2016年 32% 36% -3.2% 33% 34%
2017年 33% 36% -3.5% 32% 34%
(SiriusA+B)

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