前の夜まで調教師について分析してきた。
この中で頭を整理したことをを少し書き記しておきたい。
馬券で収支を黒字にする方法について、である。
第205夜で少し触れたのだが、調教師だけで予想すると、おそらく的中率は低めに出て、回収率は(黒字を確保できないにせよ)高くなるだろうと考えていた。
実験の結果では、サンプルが少なかったこともあり、想定以上に回収率が高くなってしまったが、概ね考えた通りになった。
これには根拠があった。
調教師のデータは、おそらく、大方の予想者が予想する際にあまり重要視していないだろうと考えていた。
すでに的中率の高いデータは開発され尽くしていると考えられることから、あまり一般的でない調教師のデータは予想研究者がとうの昔に切り捨てたものだから、的中率が低いだろうと予想されたのである。
もう一つ、的中率が低いとは言え、競馬参加者の盲点となっている要素なので、的中する場合には人気薄の確率が高まるだろうとも予想された。
実際、その通りになった。
このことから、回収率向上のためには的中率を犠牲にしなければならない、と早合点しないでほしい。
競馬で長期的に収支黒字を目指すなら多くの人と同じではダメだということを言いたいのである。
収支黒字を目指す方法として、今わかっている手法を整理すると、少なくとも3種類はある。
今回、一連の分析をしつつ、そういうことを考えていたのである。
▼収支黒字を目指す方法
現在明らかになっていることは、競馬必勝法が存在するということだ。
外資による3連単馬券の大量買い、所得税法違反被告事件(大阪国税局)、所得税更正処分等取消請求事件(札幌国税局)のニュースは、図らずも、世の中に競馬で儲けている人が実在することを世間に明らかにした。
それまで、自称「黒字の人」はいたものの、ほんとうに競馬で儲けられるのかどうかすら疑問だったのだ。
しかし、この3つの競馬予想法は、ある同一の手法によってなされたものではない。
3つの考え方の系統は抜本的に異なっている。
外資の事件は、馬券システムの盲点を突いていた。
この手法は、馬券とは「勝馬または上位入着馬を予想するもの」という先入観をぶち壊した。
彼らのポイントは、「絶対に来ない馬」を何頭か選び、1頭少なくなるごとに組み合わせが大きく減少する3連単で倍率に応じた段差買いをすることにある。
馬券はレース的中率(買い目が何点でも1レースあたり1つ以上の馬券が的中すればよい)をほとんど100%に維持するために「全部買い」に近いやり方があるのだ。
全部買いと3連単の特性を活かして、買い目を半分近く削りながら的中率をキープする微妙なバランスをとっていたと考えられる。
例えば16頭立ての競走で全通りの3連単ボックス買いは3,360通りであるが、絶対に来ない2頭を除外すると14頭のボックス買いになり2,184通りと全通りの買い目に比べ65%で済む。
さらに1頭加え3頭を除外できるなら1,716通りになり、全通りの買い目に比べ51%になるのだ。
JRAが3連単の控除率を引き上げたのも、この事件と無関係とは言い切れないと個人的には考えている。
大阪国税局の事件は、大方の予想者たちの盲点を突いていた。
さまざまな要素のうち、あまりメジャーでないファクターを選び、的中した場合配当が大きくなるものを選んでいると思われる。
「割安株」と言えばいいだろうか、本来持っている価値ほど評価されていない馬を選出するのである。
この手法は馬券システムではなく、予想者の大勢の「裏をかく」方法で、的中率を向上させるとかいった考えと無縁だ。
難しいのは、予想者の大勢と違う行動をとることが利益の源泉のため、予想のトレンドが変われば必勝ファクターも変えていかねばならない点である。
皆が同じ投票行動を始めると必勝法ではなくなるのだ。
前夜検証した調教師をファクターとする予想は、この手法を採用している。
調教師というファクターがマイナーな割にある程度の的中率や割高な回収率が期待できる、すなわち「お得な」馬券になるからである。
▼オーソドックスだが最も難しい手法
以上のふたつは、馬券の仕組みの盲点を突いた馬券術であるが、札幌国税局の事件はわたしたちが想像する「正攻法」に近いのではないかと推定している。
判決文から言えるのは、予想法が、馬の能力、騎手の技量、コース適性、枠順、馬場適性、展開、コンディションの要素を評価し順位付けする、オーソドックスなものであることだ。
過去の傾向などを収集して予想に反映させているようだが、大きな配当のWIN5を2度的中させるというのは相当な技量が必要で、偶然ということばで片付けられるものではない。
判決文では書かれていない手法があるのだろうが、記された予想ファクターには難しいものがない。
先のふたつに比べ、最も模倣しやすい一方、黒字に到達するのは極めて難しいことも事実だ。
誰もが使用するファクターで他者を出し抜くレベル(精度、あるいは発想)というのは、気の遠くなるような技術差だからだ。
▼共通すること
3通りの方法に共通点を挙げるとすれば、コンピュータを使っていることだろうか。
札幌国税局の事件は、予想ソフトを使って予想していなくても(投機的な買い方に変わりなく)、外れ馬券を経費と認めるというものだった。
だが、過去データの分析や、ほぼすべてのレースの買い目の算出までパソコンの計算なしにやっているわけではないことは明らかだ(予想ソフトを使っていないだけ)。
もうひとつ重要なことがある。
スピード指数や血統理論のようなものが出てこないことである。
オッズの歪みといった情報の利用も文中には見当たらない。
能力判定にスピード指数か類似するデータを使用している可能性はあるが、少なくとも、それが予想の「決定打」であるとはどこの記事にもない。
このことは、よくよく認識しておくべきだとわたしは思っている。
(SiriusA+B)