▼「夢と希望」とは別の話
競馬予想は、将来を予想するものである。
人間は未来を予想することはできない。
過去の実績から延長線を引いて予想する、例えば未勝利戦で「4着、2着ときたから次こそ勝ち敗けだ」という予想は、直線的だが、これに勝る手法もほとんどないように思う。
為替相場で今日は米ドルに対して円高だったから、明日も円高になるだろう、という予想は多くの人が受け入れやすいが、円安になるだろうという予想はなかなか難しい。
長期的には確率は半々なのだ。
「4着、2着ときたが、この馬のピークは終わりで、今回は掲示板にも載らないな」などという予想をできる人がいたら「驚愕もの」である。
驚愕だが、過去の実績以外に加えている何らかの要素(ただの勘であったとしても)を知りたいと思う。
何らかの要素には、適性や展開、調子などの可能性が挙げられよう。
血統など、競走馬の根本的な能力に求める人もいるかもしれない。
今夜の話は血統ではないが、当該競走馬の陣営(調教師をはじめとする厩舎、馬主、生産者)がその馬をどう評価しているのか、クラシックレースの特別登録から紐解いてみたい。
わたしたちが馬主に代わって夢や希望を語ろうというのではない。
「クラシックレースの特別登録」はクラシックレース以外に使いようがあるのか、と訝しむ人もいると思う。
字面どおりに考えると使いようがないように見えるかもしれないけれど、ここは「競馬予想に使えるものはないか」という視点で考えていただければと思う。
馬券で勝つためには、使えるものは何でも使う。
もっとも、陣営の「情」といった要素もあるので正確な評価でないのは確かだが、これも一種の能力評価なのだ。
それも、現時点でなく、将来を描いての能力評価なのだ、未来を予想するのに近い。
大きくグループ分けしてみれば参考になる気がしたのである。
最初に、クラシックレースの特別登録について簡単に触れておきたい。
桜花賞、皐月賞、優駿牝馬(オークス)、東京優駿(日本ダービー)、菊花賞をクラシックレースと呼ぶが、JRAでは3歳5大競走ということもある。
この競走には、3回にわたる特別登録をしなければ出走できない。
2歳時点の10月下旬に第1回、3歳時点の1月下旬に第2回の登録が締め切られる。
第3回は競走2週前である。
登録料は1回目が1万円、2回目が3万円、3回目が36万円だそうだ。
1万円というのが1レース分なのか、1頭分なのかは知らないけれど、おそらく1レース当たりの金額だろう。
牡馬ならば、第1回が最大3万円、第2回が最大9万円ではないかと思う。
馬主の経済規模から考えれば「はした金」のようにも思えるのだが、結構馬鹿にならない金額である。
何頭も抱える大馬主なら、レースのひとつでも買って資金源にしなければならないほどだ。
ちなみに、3回の登録が必要なのだが、大枚をはたいて未登録だった馬を出走させる道が今はある。
陣営にとってクラシックレースは優勝はもちろん、出走させることもたいへんな栄誉である。
その分、ドラマがある。
エピソードや歴史について興味ある方は詳しいサイトで調べていただきたいが、馬主をはじめとする陣営は、夢と希望を胸に登録をするのだ。
それでもカネの絡むことである、判断はあり、半分くらいの馬は第1回時点で登録されない。
夢は買いたいが、無駄な出費は避けたい、というところに、競走馬の評価がある。
では、詳しく見ていこう。
▼2020年産駒を特別登録でグループ分け
原稿執筆時点では、2024年のクラシックが始まっている。
今回は、その前年である、2023年施行のクラシックレース特別登録を資料とする。
皆さんは、すぐに2024年でこの記事の内容を検証できる。
2023年の3歳は、2020年生まれである。
競走記録は2023年12月末までとした。
3歳で古馬戦に参加したところまでである。
中央競馬平地競走に出走した2020年産駒は、わたしの数え間違いでなければ4,804頭いる。
登録時点で未出走はもちろん、馬名の決まっていない馬もいる。
第1回の登録では、各競走に1,200頭前後が申し込み、延べ6,000頭余り、実数にして2,489頭あった。
率にすると52%ほどである。
半分ほどが登録したというのだ。
「大いなる期待」から「もしかしたら」まで、さまざまであろう。
第2回の登録では、各競走に900頭ほど、実数では1,428頭であった。
この時点で約1,000頭がクラシックレースを断念した、ということである。
また、引き続き登録をした馬でも、いくつかのレースの登録をやめた馬もいる。
例えば、皐月賞、東京優駿、菊花賞に登録していたのを、東京優駿と菊花賞に絞るといった具合である。
これを4グループに分けることにする。
(Group-1登録維持組)第2回まで登録し、登録内容を変えなかった馬
(Group-2登録縮小組)第2回まで登録したが、登録レースを減らした馬
(Group-3登録取止組)第1回までは登録したが、第2回は登録しなかった馬
(Group-4未登録組)最初から登録しなかった馬
話を進める中で、さらに細分化することもあるが、基本はこの4種類である。
競走成績については、3つの期間に分けた。
(第1期間)2022年10月28日まで(第1回締め切り頃まで)
(第2期間)2022年10月29日から2023年1月27日まで(第2回締め切り頃まで)
(第3期間)2023年1月28日以降2023年12月31日まで
どういう競走成績で登録に至り、断念したか、そしてその後はどうだったか、というのを知ろうとした。
第2回締め切り後の第3期間の競走成績で、グループごとに差が出るようなら、ファクターとして活用できる可能性が出てくる。
なお、わたしは締め切り日を記録していなかったので、例年と同じころと仮定した。
たぶん合っていると思うが、間違えていたらご容赦願いたい。
次項以降で明らかにするが、皆さんなら登録維持組、登録縮小組、登録取止組、未登録組のグループの成績をどう予想するだろうか。
登録維持組→登録縮小組→登録取止組→未登録組の順に成績が下がっていくだろうか。
(図表471-1)第1回・第2回3歳5大競走登録状況と第2回登録締め切り後の戦績(2020年産駒で中央競馬平地競走出走馬、成績は2023/12/31まで)
2回の登録 | 頭数 | 第3期間出走頭数 | 第3期間勝利回数 | 第3期間出走回数 | 第3期間勝率 | 第3期間勝利頭数 | 第3期間勝馬出現率(勝利頭数/出走頭数) |
登録維持 | 1,096 | 1,079 | 570 | 5,150 | 0.111 | 404 | 0.374 |
登録縮小 | 332 | 324 | 142 | 1,474 | 0.096 | 103 | 0.318 |
登録取止 | 1,061 | 955 | 307 | 3,888 | 0.079 | 219 | 0.229 |
未登録 | 2,315 | 1,964 | 437 | 7,584 | 0.058 | 329 | 0.168 |
▼断念のタイミング=能力評価
上の図表471-1は、グループ別・期間別の成績である。
勝率と勝ち上がり率を指標としてみてもらえればと思う。
なお、3歳は徐々に古馬戦に参戦していくが、2020年産駒なので降級制度変更後であり、古馬戦での成績は良い。
このこともあって、平均勝率は8%ほどになるので、8%を基準としてこれを上回っているか下回っているかを判断していただければと思う。
2020年産駒全体の勝ち上がり率が30%ほどで少し低いのも、4歳以降のデータがないことに関係する。
結果は、グループごとにはっきり分かれた。
登録維持組は、やはり強く、第3期間の成績は最も良い。
登録縮小組、登録取止組、未登録組の順に成績は低下していく。
読者の皆さんも予想していた通りの結果ではないかと思う。
キタサンブラックのような例外はあるが、概ね陣営が競走結果をはじめ総合して、クラシック登録で4分類の決断をしていることが分かる。
登録というより、クラシックを断念していく時期別データと考えれば陣営は合理的な考え方をしているとみていいのではないだろうか。
つまり、断念する時期で陣営の競走馬能力の見極めを参考にさせていただいた。
うん、3歳2月以降は使えそうなデータだね。
と言いつつ、4分類では物足りないという気持ちもある。
そこで、もう少し詳細に見る方法として、第1回登録、第2回登録の前の成績でグループを細分化してみることにする。
次の夜につづく。
(SiriusA+B)