2021年9月19日日曜日

第347夜 馬体重の増減要因のひとつ、季節要因


季節要因
前走比馬体重増減は、大きいものでなければあまり気にしなくてよい、というのが、今の主流の考え方のように見ている。
データの乏しい時代にはプラス2kgやマイナス2kgでもあれこれ評価することが多かった。
人間の体重を60kg、競走馬の馬体重を480kgくらいとすると、その比は8分の1で、その比に従えば人間の1kg増加が競走馬の8kgに相当することから、細かな馬体重の増減を気にしなくてもよいのではないかということに落ち着いたのだろう。
それを踏まえて、である。
調子とトレーニングの多寡による馬体重の増減をどう考えるかはさておき、「ああ、これは成長分ですね」という、よくあるパドック解説のコメントについて今夜は考えてみたいと思う。
実は、以前から「成長分」の曖昧さが気になっていた。
若馬は日ごとに成長し体重を増やしていく。
やがて「大人」になると成長が止まる。
そういう考え方がある。
それはそのとおりだが、ちょっと大雑把にすぎないか。
わたしは季節要因をもう少し考慮してもいいのではないかと思っていた。

いつものデータベース、2006年から2018年の中央競馬平地競走完走馬延べ620,722頭で計測できなかった2件を除く延べ620,720頭の馬体重平均は、470kgちょうどである(470.0378kg)。
性別では、騙馬を含む牡馬の平均は480kg、牝馬は454kgとなる。
ちなみに「同一馬集計」は、「7歳時に中央競馬平地競走完走の経験があり、集計期間内に中央競馬平地競走に10戦以上した競走馬」実頭数2,035頭、延べ70,436頭の集計結果である。
多くの競走馬が短期間で10戦以下という点を考慮し、ほぼ同じ傾向であることを確認するために同じ手法で集計したものである。
★図表347-1 競走馬全体の馬体重集計と10戦以上選抜馬

馬体重合計 件数 平均 選抜馬馬体重合計 件数 平均 実頭数
全体 291,761,834 620,720 470.0378 33,882,040 70,436 481.033 2,035
牡馬 182,279,742 379,790 479.9488 29,459,000 60,879 483.8943 1,773
牝馬 109,482,092 240,930 454.4145 4,423,040 9,557 462.8063 262

以下ではサンプル数の比較的多い牡馬に限って集計していくことにする。
この集計期間内で牡馬の出走時馬齢別に集計してみると、6歳くらいから成長が鈍化していることが分かる。
わたしが気になっているのは「分析がここで終わり」ということなのである。
★図表347-2 全体集計(牡馬)
合計 件数 年間平均
2歳 27,149,472 57,750 470
3歳 72,650,564 152,571 476
4歳 34,409,886 71,073 484
5歳 24,562,688 50,391 487
6歳 13,983,128 28,583 489
7歳 6,511,798 13,279 490
8歳 2,254,314 4,594 491
★図表347-3 同一馬集計(牡馬)

合計 件数 年間平均
2歳 1,710,228 3,625 472
3歳 5,891,514 12,374 476
4歳 5,783,656 11,970 483
5歳 5,645,744 11,613 486
6歳 5,229,418 10,694 489
7歳 3,804,038 7,752 491
8歳 1,113,316 2,274 490

人間と同じ
上表をX軸に馬齢、Y軸に馬体重をとってプロットし、直線でつないでいくと、成長曲線を描くことができる。
しかし、これを月ごとに集計したらどうなるであろうか。
特に5歳以上の古馬の場合はっきりするが、馬体重は1月をピークに9月ごろまで低下し、そこから反転していくのだ。
季節の良い春には一時的に低下傾向に歯止めがかかるので、この月ごとの変動は季節要因ではないかと思っている。
★図表347-4 月ごとの平均体重(牡馬)
全体 年間 01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月
2歳 470 461 462 464 467 471 473 475
3歳 476 477 476 475 474 474 475 474 476 477 480 482 484
4歳 484 487 485 484 482 483 483 482 482 482 485 486 488
5歳 487 491 489 488 486 487 486 485 484 485 487 489 490
6歳 489 494 492 490 488 488 488 486 486 486 488 490 491
7歳 490 494 493 492 490 490 489 486 487 485 489 489 493
8歳 491 495 495 491 491 489 488 487 486 485 490 489 492
該当のみ 年間 01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月
2歳 472 464 465 467 470 472 474 475
3歳 476 476 476 473 473 474 475 475 476 477 479 480 482
4歳 483 485 484 482 481 482 482 482 480 482 485 486 487
5歳 486 489 488 485 485 486 484 484 484 484 486 487 490
6歳 489 493 492 490 487 487 487 486 485 486 489 490 493
7歳 491 495 492 492 490 490 489 488 488 486 490 489 493
8歳 490 494 495 490 489 487 487 485 485 484 488 489 491

成長期の2歳、3歳は季節要因の低下傾向より成長が勝っているので古馬とは異なる曲線を描く。
4
歳も低下傾向は抑制的で、まだ馬体の成長が続いていることを想像させる。
その証拠に、以下のように馬齢を重ねるほど季節要因の影響を受けるようにみえる。
僅かずつだが、代謝機能の低下が原因ではないかと思う。
5
1491kg9485kg。差は6kg
6
1494kg9486kg。差は8kg
7
1494kg9485kg。差は9kg
8
1495kg9485kg。差は10kg

これが世界的な(少なくとも北半球において)傾向なのかどうかは分からない。

ただ、日本国内においては、実は人間も同様の傾向を示すことが分かっている。
わたしは馬体重の増減を重視しない派だが、重視する派であれば、この季節要因を頭に入れたうえで馬体重の増減を判断できるかどうか、は予想の精度に関わってくるものと思う。
もちろん、個体差は大きい。
調教師によるコントロールの影響も決して小さくない。
ただ、調子やトレーニングの影響と同様に季節要因があるということである。
馬体重の増減以外にも応用できる。
例えば「冬のダートは重い馬が走る」というような格言は、検証してみる価値はある。
単純に、勝ち馬の馬体重平均を根拠としているようならば、出走馬全体の馬体重も重くなっていないか、確認したほうがよい。
(SiriusA+B)

 

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