▼季節要因
前走比馬体重増減は、大きいものでなければあまり気にしなくてよい、というのが、今の主流の考え方のように見ている。
データの乏しい時代にはプラス2kgやマイナス2kgでもあれこれ評価することが多かった。
人間の体重を60kg、競走馬の馬体重を480kgくらいとすると、その比は8分の1で、その比に従えば人間の1kg増加が競走馬の8kgに相当することから、細かな馬体重の増減を気にしなくてもよいのではないかということに落ち着いたのだろう。
それを踏まえて、である。
調子とトレーニングの多寡による馬体重の増減をどう考えるかはさておき、「ああ、これは成長分ですね」という、よくあるパドック解説のコメントについて今夜は考えてみたいと思う。
実は、以前から「成長分」の曖昧さが気になっていた。
若馬は日ごとに成長し体重を増やしていく。
やがて「大人」になると成長が止まる。
そういう考え方がある。
それはそのとおりだが、ちょっと大雑把にすぎないか。
わたしは季節要因をもう少し考慮してもいいのではないかと思っていた。
いつものデータベース、2006年から2018年の中央競馬平地競走完走馬延べ620,722頭で計測できなかった2件を除く延べ620,720頭の馬体重平均は、470kgちょうどである(470.0378kg)。
性別では、騙馬を含む牡馬の平均は480kg、牝馬は454kgとなる。
ちなみに「同一馬集計」は、「7歳時に中央競馬平地競走完走の経験があり、集計期間内に中央競馬平地競走に10戦以上した競走馬」実頭数2,035頭、延べ70,436頭の集計結果である。
多くの競走馬が短期間で10戦以下という点を考慮し、ほぼ同じ傾向であることを確認するために同じ手法で集計したものである。
★図表347-1 競走馬全体の馬体重集計と10戦以上選抜馬
馬体重合計 | 件数 | 平均 | 選抜馬馬体重合計 | 件数 | 平均 | 実頭数 | |
全体 | 291,761,834 | 620,720 | 470.0378 | 33,882,040 | 70,436 | 481.033 | 2,035 |
牡馬 | 182,279,742 | 379,790 | 479.9488 | 29,459,000 | 60,879 | 483.8943 | 1,773 |
牝馬 | 109,482,092 | 240,930 | 454.4145 | 4,423,040 | 9,557 | 462.8063 | 262 |
以下ではサンプル数の比較的多い牡馬に限って集計していくことにする。
この集計期間内で牡馬の出走時馬齢別に集計してみると、6歳くらいから成長が鈍化していることが分かる。
わたしが気になっているのは「分析がここで終わり」ということなのである。
★図表347-2 全体集計(牡馬)
合計 | 件数 | 年間平均 | |
2歳 | 27,149,472 | 57,750 | 470 |
3歳 | 72,650,564 | 152,571 | 476 |
4歳 | 34,409,886 | 71,073 | 484 |
5歳 | 24,562,688 | 50,391 | 487 |
6歳 | 13,983,128 | 28,583 | 489 |
7歳 | 6,511,798 | 13,279 | 490 |
8歳 | 2,254,314 | 4,594 | 491 |
合計 | 件数 | 年間平均 | |
2歳 | 1,710,228 | 3,625 | 472 |
3歳 | 5,891,514 | 12,374 | 476 |
4歳 | 5,783,656 | 11,970 | 483 |
5歳 | 5,645,744 | 11,613 | 486 |
6歳 | 5,229,418 | 10,694 | 489 |
7歳 | 3,804,038 | 7,752 | 491 |
8歳 | 1,113,316 | 2,274 | 490 |
上表をX軸に馬齢、Y軸に馬体重をとってプロットし、直線でつないでいくと、成長曲線を描くことができる。
しかし、これを月ごとに集計したらどうなるであろうか。
特に5歳以上の古馬の場合はっきりするが、馬体重は1月をピークに9月ごろまで低下し、そこから反転していくのだ。
季節の良い春には一時的に低下傾向に歯止めがかかるので、この月ごとの変動は季節要因ではないかと思っている。
★図表347-4 月ごとの平均体重(牡馬)
全体 | 年間 | 01月 | 02月 | 03月 | 04月 | 05月 | 06月 | 07月 | 08月 | 09月 | 10月 | 11月 | 12月 |
2歳 | 470 | 461 | 462 | 464 | 467 | 471 | 473 | 475 | |||||
3歳 | 476 | 477 | 476 | 475 | 474 | 474 | 475 | 474 | 476 | 477 | 480 | 482 | 484 |
4歳 | 484 | 487 | 485 | 484 | 482 | 483 | 483 | 482 | 482 | 482 | 485 | 486 | 488 |
5歳 | 487 | 491 | 489 | 488 | 486 | 487 | 486 | 485 | 484 | 485 | 487 | 489 | 490 |
6歳 | 489 | 494 | 492 | 490 | 488 | 488 | 488 | 486 | 486 | 486 | 488 | 490 | 491 |
7歳 | 490 | 494 | 493 | 492 | 490 | 490 | 489 | 486 | 487 | 485 | 489 | 489 | 493 |
8歳 | 491 | 495 | 495 | 491 | 491 | 489 | 488 | 487 | 486 | 485 | 490 | 489 | 492 |
該当のみ | 年間 | 01月 | 02月 | 03月 | 04月 | 05月 | 06月 | 07月 | 08月 | 09月 | 10月 | 11月 | 12月 |
2歳 | 472 | 464 | 465 | 467 | 470 | 472 | 474 | 475 | |||||
3歳 | 476 | 476 | 476 | 473 | 473 | 474 | 475 | 475 | 476 | 477 | 479 | 480 | 482 |
4歳 | 483 | 485 | 484 | 482 | 481 | 482 | 482 | 482 | 480 | 482 | 485 | 486 | 487 |
5歳 | 486 | 489 | 488 | 485 | 485 | 486 | 484 | 484 | 484 | 484 | 486 | 487 | 490 |
6歳 | 489 | 493 | 492 | 490 | 487 | 487 | 487 | 486 | 485 | 486 | 489 | 490 | 493 |
7歳 | 491 | 495 | 492 | 492 | 490 | 490 | 489 | 488 | 488 | 486 | 490 | 489 | 493 |
8歳 | 490 | 494 | 495 | 490 | 489 | 487 | 487 | 485 | 485 | 484 | 488 | 489 | 491 |
成長期の2歳、3歳は季節要因の低下傾向より成長が勝っているので古馬とは異なる曲線を描く。
4歳も低下傾向は抑制的で、まだ馬体の成長が続いていることを想像させる。
その証拠に、以下のように馬齢を重ねるほど季節要因の影響を受けるようにみえる。
僅かずつだが、代謝機能の低下が原因ではないかと思う。
5歳1月491kg、9月485kg。差は6kg。
6歳1月494kg、9月486kg。差は8kg。
7歳1月494kg、9月485kg。差は9kg。
8歳1月495kg、9月485kg。差は10kg。
これが世界的な(少なくとも北半球において)傾向なのかどうかは分からない。
ただ、日本国内においては、実は人間も同様の傾向を示すことが分かっている。
わたしは馬体重の増減を重視しない派だが、重視する派であれば、この季節要因を頭に入れたうえで馬体重の増減を判断できるかどうか、は予想の精度に関わってくるものと思う。
もちろん、個体差は大きい。
調教師によるコントロールの影響も決して小さくない。
ただ、調子やトレーニングの影響と同様に季節要因があるということである。
馬体重の増減以外にも応用できる。
例えば「冬のダートは重い馬が走る」というような格言は、検証してみる価値はある。
単純に、勝ち馬の馬体重平均を根拠としているようならば、出走馬全体の馬体重も重くなっていないか、確認したほうがよい。
(SiriusA+B)