2021年11月14日日曜日

第355夜 予測の難しさを知る(前編)


ふたつの予想
2021
10月、わたしの関心を引いた「事件」がふたつもあった。
ひとつはプロ野球ペナントレース、もうひとつは総選挙である。
統計の材料は、競馬だけではないのだ。
野球談議や政治の話をするのではない、予測や予想の話である。
ペナントレースについては、セントラル・リーグ、パシフィック・リーグとも前年最下位である6位のチームが優勝したことだ。
新型コロナウィルス感染症の流行により、観客数の制限や9回延長戦無しといった、特別ルールが設けられていたとはいえ、セパとも揃って優勝チームを予想できた人はどのくらいいるだろうかと考えたのである。
両リーグで各6チームだから36通りの予想ができるわけだが、それこそ「36番人気」の組み合わせだろうと思う。

もうひとつの総選挙は、ほとんどのマスコミで議席数の予想を外したことに関心を抱いた。
選挙前の世論調査や選挙当日の出口調査で分析されたものがことごとく外れるという前代未聞のことが起こったのである。
競馬と関係ない話と思われるかもしれないが、事前予想やサンプル調査というものが結果と大きく異なるケースは研究しておいて損はないと思う。

世論調査と出口調査
新聞・テレビは選挙期間中の世論調査と選挙当日の出口調査を行なっている。
世論調査は選挙前に発表される「情勢分析」と言われるもので、報道を見て投票行動を変える有権者が出る。
競馬で言えば刻々と変わるオッズのようなものである。
他方、出口調査は投票締め切り後に発表される。
有権者の投票行動に影響を及ぼさないことが前提である。
実質的には開票作業前のサンプル調査による結果予想だ。
日本では1989年参院選くらいから本格的に始められたと思うが、正確を期すには専門家の書物やサイトをご覧いただきたい。
この出口調査だが、かなり言い当てていているとこれまで考えられてきた。
テレビの「開票速報」がつまらなくなったと思ったくらいである。

ところが、今回(49回総選挙)では、出口調査とはまったくと言っていいほど異なる結果が出た。
テレビ局の出口調査に基づく議席数の予想は次の通りである。
いくつかの報道をもとに資料をまとめた。
(
開票直後の20時各社予想、東京のチャンネル順)

マスコミ

自民予想議席

立憲予想議席

NHK

212-253

99-141

NNN

238

114

ANN

243

113

TBS

239

115

TXN

240

110

FNN

230

130

結果

261

96

完全に空振りである。
今回は共同して調査をしたところもあり、情報源が同じというものもあるようだ。
それにしても、全社が予想を「派手に」外した。
「与党が安定多数をなんとか確保、最大野党が大幅増、地域政党が躍進」といったイメージだったのに、夜が明けると「最大野党が議席減」とまったく反対の結果と言ってもいいくらいになってしまった。
出口調査に基づくものなのに、である。
「情勢分析・出口調査が敗北」と言ってもいいくらいであった。
何が起こったのか。

政治のことは専門家に任せるとして、予想が外れた要因は、個人的には「世論の雰囲気」という先入観による分析の誤りではないかと思っている。
もちろん、保守系の人はあまり調査に参加せず、リベラル系の人は積極的に調査協力するという傾向はあるらしいことも原因のひとつではある。
それでも、最大野党が躍進するというデータはあまりなかったのだ。

下表は、わたしが独自に算出している世論調査政党支持率(%)の推移である。
マスコミ各社の発表資料のうち、長期的に安定しているものをブレンドしたもので、前回総選挙以降のデータである。
競馬予想で言えば、信頼できる予想紙やスポーツ紙の印を集めたような感じである。
長期トレンドを見るための資料だと思っていただきたい。

調査年月

自民

立憲

公明

共産

維新

支持無し等

201712

39

12

4

4

2

5

34

20181

38

12

3

3

2

4

38

20182

39

11

3

3

2

4

37

20183

36

12

4

3

2

4

39

20184

35

11

3

3

2

3

43

20185

37

11

4

4

2

3

41

20186

39

10

3

4

1

3

41

20187

38

10

3

3

1

3

41

20188

40

8

3

3

1

3

41

20189

41

6

3

3

1

2

43

201810

40

7

4

3

1

3

42

201811

40

8

4

3

1

2

41

201812

38

9

4

3

2

3

42

20191

39

7

4

3

1

2

43

20192

39

8

4

3

2

2

43

20193

38

7

4

3

2

2

43

20194

40

6

4

3

3

3

42

20195

40

7

4

3

4

2

40

20196

37

7

4

3

3

3

43

20197

37

9

5

4

4

4

38

20198

40

8

5

3

4

5

35

20199

41

7

4

4

3

4

36

201910

42

7

4

3

3

4

36

201911

39

8

4

4

2

4

39

201912

38

8

3

4

2

4

41

20201

41

7

4

3

2

3

39

20202

39

7

3

3

2

4

41

20203

38

7

4

3

3

4

42

20204

34

5

4

3

3

3

48

20205

34

6

4

3

5

3

45

20206

35

6

3

3

5

3

45

20207

34

6

4

3

4

3

47

20208

43

8

4

3

5

5

32

20209

47

6

3

2

2

3

36

202010

42

6

4

3

3

2

40

202011

44

6

3

3

3

2

39

202012

41

6

3

3

3

3

40

20211

41

8

4

3

3

4

38

20212

39

8

3

3

3

3

41

20213

39

7

4

3

3

2

42

20214

40

7

3

3

3

2

42

20215

38

8

3

3

3

2

43

20216

37

7

3

3

3

2

45

20217

37

7

4

3

3

2

44

20218

35

6

3

3

2

2

48

20219

43

7

3

3

2

2

40

この期間で特徴的なのは、最大野党が次第に支持率を下げている点である。
最大与党は比率が大きいこともあり、上下動があるものの、「支持無し等(支持政党なし・無回答・分からないなどの合計)」と綱引きをする傾向があって、他の政党の動きとあまり連動しない。
その他の与野党は、大きな再編がいくつもあったものの、比率にすればそれほど極端な動きはしていない。
選挙結果は「支持無し等」がどういう動きをするのかにかかっているのだが、各党の支持基盤で目立っているのは最大野党の減だけだったのである。
ここから「最大与党の退潮と、支持基盤の減少している最大野党が浮動票を取り込んで躍進」という未来は、主観的な思考(先入観)がないと、なかなか描きにくい。
長くなったので、次の夜につづく。
(SiriusA+B)

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