▼鼻出血、心房細動
競走馬が競走中あるいはその前後、また中間に、疾病(しっぺい)を発症することがある。わたしの場合、疾病の中でも骨折や跛行のような怪我のほうを早く覚えた。
競馬予想の初心者だったころには、前脚だと肩跛行、後脚だと寛跛行とか、ソエとか、分かりやすいものだった。
いわゆる「病気」に近い印象のものは、例えば鼻出血など、大した話だと思わず気にも留めなかったのだが、競走馬に対する理解が進んでくると、実は競走馬にとってたいへんなことだと知るようになった。
競走馬の場合、内因性鼻出血は、人間の男の子が「鼻血でた」とか言って「ああ、興奮しているのね」と返すような軽いものではない。
今となっては笑い話ではある。
誰から教えてもらうものでもないので、早々に知識を得る人もいるだろうし、わたしのように競馬を始めてから何年間も経って知る人だっている。
主催者の発表による競走の出来事では、骨折や筋などの断裂のほか、感冒・フレグモーネ・蕁麻疹での出走取消、鼻出血、外傷性鼻出血、心房細動、跛行、脱臼、挫創、裂創、挫跖、打撲傷といった事細かな疾病が記載されている。
競走中に発症すると、わたしたちには予測できないこともあって、競馬はやはりギャンブルだと再認識するのだが、疾病を経験した馬は、その後どのような競走成績を修めるのか、気になっていた。
内容が内容だけに調査資料のようなものがなかなかなくて、少しだけ調べてみたことがある。
予想の参考になるようなら本格的に調べるつもりだったが、調査量が微妙に少なくて参考になるかどうかの判断がつかないまま放置していたのである。
今夜はその抜粋である。
下表は、約1年間くらいの競走成績から手拾いしたものだ。
疾病をすべて拾い出すと夥しい数になるところ、鼻出血と心房細動に絞っている。
調査期間中に同一馬が同じ疾病を繰り返すこともあるが、「延べ」ではなく「実」頭数にした。
鼻出血は再発しやすいので、主催者発表では2回目、3回目と発症回数が記載される(出走停止期間が異なるため)。
疾病 | サンプル頭数 | 再出走頭数 | 勝ち馬頭数 | 出走回数 | 勝利回数 | 再走率 | 勝率 | 勝ち馬率 |
鼻出血(除外傷性) | 56 | 31 | 10 | 249 | 13 | 55.4% | 5.2% | 32.3% |
心房細動 | 19 | 10 | 2 | 88 | 6 | 52.6% | 6.8% | 20.0% |
集計してみると、競走馬にとってたいへんなことなのだと改めて思い知らされる。
どちらの原因でも、発症後再び出走にこぎつけたのは約半分である(障害競走に転出した馬もいるけれど、中央競馬平地競走から「引退」したことを表わす)。
勝率は7%くらいが平均なので、やや低い。
勝つ馬は複数回勝つこともあるが、勝ち馬率もやや低いと思う。
これには集計上の問題がある。
該当馬の多くが古馬なのである。
ということは、1度は勝ったことのある馬が多いということだ。
2割、3割といった「勝ち馬率」を高いと評さないのは、1勝クラス以上の馬に限れば「勝ち馬率」が高いからである。
▼予想ファクターに活かせるかもしれないが、データは少ない
このサンプル調査によって、出走にこぎつけた馬はやはり陣営が期待している相応の馬であること、それでも割引が必要なことが分かる。
軽症ということもあろう。
さらに詳しく調べ、同じ「鼻出血」でもどのような場合に期待できるかが分かるようなら、予想ファクターとして良いものができる気がする。
例えば、出走間隔や中間の調教、馬齢などを組み合わせることで一定の傾向を掴めるかもしれない。発症以降の競走成績との相関を調べることで予測もできるというものだ。
ただ、サンプルそのものが少ないのである(多いと困る話だが)。
ある程度のデータが無いと信頼がおけないので、わたしはその点で足踏みをしたのである。
データを集めるのも相当な時間的犠牲を払う。
わたしたち素人には分からないことだが、競走馬は満身創痍でレースに臨んでいる、というのが現実である。
そもそもすべての競走馬が、出走にこぎつけ、無事にゲートを出て、まっすぐ走らせるだけでもたいへんなことなのだ。
人間のスポーツ選手を見れば想像はつくと思う。
スポーツは好敵手との競争だけではない。
自身のコンディション、加齢、怪我との闘いでもある。
競馬でも、出走馬間の比較だけでは不十分だと思うのだがいかがだろうか。
口のきけない馬だからなおのこと。
(SiriusA+B)