馬券予想者は学者ではないので、「なぜ、この馬Aはダート1,400mに出走することになったのだろう」とはまず考えない。
1,400mに出走する馬Aが勝てそうかどうか、というところから予想を始める。
前走や過去走と比較して、距離延長だとか短縮とか、ダート替わりだとか、適性を考察することはあるけれど、これは馬券の対象になるかどうかの考察であって、馬Aをダート1,400mに出走させることにした厩舎サイドの理由の考察ではない。
馬主などの意向も踏まえると思うけれど、ここではこれらを含めて「厩舎サイド」と呼ぶことにする。
厩舎サイドの考えに頭をめぐらせば、ダート1,400mは、馬Aが最も能力を発揮できる競走条件だと考えたということである。
どうして馬Aはダート1,400mなのか。
厩舎サイドは、馬を間近で観察している。
レースだけでなく調教や性格、体調などを見て、総合的に判断していると思われる。
「オーナーが適性も考えずに芝の長いところを使えと言っている」というのはゼロではないだろうが、ドラマの世界であって現実には稀であろう。
もちろん、厩舎サイドでも馬のことばは分からないから、試行錯誤を繰り返す。
馬ごとに新馬から並べてみると、レースぶりを見て微調整を繰り返していることが分かる。
例えば、馬Aは、芝1,600mでデビュー、期待以上に好走し、2着であった。
次走は勝ち敗けになると考え、同距離で再挑戦したが、思ったほど伸びず5着だった。
3戦目も今度こそはと期待したが、後半失速し8着になった。
4戦目は距離を短縮して芝1,200mに出走させたが、ハナからついていけず10着だった。
そこで5戦目はダートに路線変更し、1,700mに出走させたら最後にばてて差されたものの4着になった。
鞍上の騎手が「テンのスピードには良いモノがあるよ」と言ったから、6戦目は距離短縮してダート1,400mに出走させることにした。
ここまで極端でもないだろうが、こんな具合に調整しているのであろう。
わたしたちは、どうしても過去走をまとめてみる癖がある。
だから、過去走から距離適性などを判断するのだが、厩舎サイドは1走ずつ積み上げていきながら決めている。
ここに競馬予想者と関係者の違いが出てくるのである。
そう考えると、馬Aにとってダート1,400mは初経験であっても、能力を発揮する可能性は高いと考えることができる。
もちろん、未知数のところもあるので厩舎サイドとしても冒険であるが。
わたしは、競走条件は基本的に厩舎サイドで、「今」、最も適性のあるところを選んでいると思っている。
僅かな過去走しかデータを持っていないわたしたちが、大昔の芝1,600mを好走したとか言ってこれに頼るより、厩舎サイドの現状判断のほうが優れている気がする。
したがって、わたしは自身の適性判断による予想の「味付け」は最小限にとどめている。
▼厩舎サイドの「失敗」
距離適性を前走との比較で考える場合、単純化すると、「現状維持」「距離短縮」「距離延長」「路線変更」に大別することができるとわたしは考えている。
ここで路線変更とは、芝替わり・ダート替わりを意味する。
2011-2022年のデータで見ると、今紹介した順で勝率が高い(図表455-1)。
現状維持は前走で好走しての結果であることが多いから、勝つ馬も多い。
勝率7.0%乃至7.1%を基準とすると、距離短縮は優秀な結果であり、厩舎サイドの判断が的確であることの証左であると考える。
距離延長や路線変更は勝率こそ低いが、おそらく「わたしたちが思ったほどではない」程度であることもこの考えを支持する結果であると思う。
図表には参考として古馬戦出走馬のみで集計したものを併載している。
出走回数が多い集団ということで別に集計したが、傾向は同じであった。
ちなみに、単勝オッズを逆算して算出した支持率(若干補正して精度を上げている)も比較用に載せている。
実際の勝率と支持率は極めて近似しているのだが、ここでも勝率に近い数値になった。
ただ、たいへん僅かな差であるものの、わたしたち予想者の支持率は「距離適性が過剰に反映している」ことが分かる。
現状維持すなわち同距離で走る馬を信頼し過ぎ、距離変更や路線変更を割り引きし過ぎのようなのである。
この図表では、面白い試みもしている。
「路線戻し」というグループを抽出した。
今走と前走の競走条件が違っている場合、今走と前々走の競走条件を比較したのである。
ここでは、前走で何らかの変更をしたものの成績が良くなかったなどの理由で、前の競走条件に戻したものをいう。
例えば、今走がダート1,400m、前走がダート1,200m、前々走がダート1,400mだった場合、前走比較で「距離延長」であり、前々走比較で「路線戻し」に該当する。
路線戻しとは、きつい言い方をすれば厩舎サイドの失敗、或いは見込み違いということになる。
もちろん、今走、前走、前々走とすべて違う競走条件で出走する馬は多く、「路線戻し」とはたまたま今走=前々走だったものなのではないかとする考えもあろう。
ただ、前々走と同じというのは、該当件数からみてもやはり見込み違いで戻したケースが多いように思う。
こちらも勝率と比較すると、わたしたちの支持率ではわずかながら割り引きし過ぎのようだ。
どちらもわずかな差であるが、どちらにも共通していることは「前と同じ」という安全牌への過剰な寄りかかりである。
(SiriusA+B)
(図表456)今走競走条件と前走比較、前々走比較別成績
前走比較 | 前々走比較 | 全体勝利回数 | 全体出走回数 | 全体勝率 | 全体支持率平均 | 古馬勝利回数 | 古馬出走回数 | 古馬勝率 | 古馬支持率平均 |
現状維持 | 17,191 | 200,861 | 0.086 | 0.088 | 9,411 | 114,878 | 0.082 | 0.084 | |
距離短縮 | 8,057 | 110,960 | 0.073 | 0.070 | 4,771 | 65,314 | 0.073 | 0.070 | |
距離延長 | 7,741 | 123,593 | 0.063 | 0.063 | 4,315 | 66,547 | 0.065 | 0.064 | |
路線変更 | 2,919 | 69,597 | 0.042 | 0.039 | 982 | 25,445 | 0.039 | 0.036 | |
路線戻し非該当 | 31,949 | 449,756 | 0.071 | 0.071 | 16,788 | 235,198 | 0.071 | 0.072 | |
路線戻し | 3,959 | 55,255 | 0.072 | 0.071 | 2,691 | 36,986 | 0.073 | 0.071 | |
前走比較 | 前々走比較 | 全体勝利回数 | 全体出走回数 | 全体勝率 | 全体支持率平均 | 古馬勝利回数 | 古馬出走回数 | 古馬勝率 | 古馬支持率平均 |
現状維持 | 路線戻し非該当 | 17,191 | 200,861 | 0.086 | 0.088 | 9,411 | 114,878 | 0.082 | 0.084 |
現状維持 | 路線戻し | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
距離短縮 | 路線戻し非該当 | 6,030 | 84,544 | 0.071 | 0.068 | 3,364 | 47,182 | 0.071 | 0.068 |
距離短縮 | 路線戻し | 2,027 | 26,416 | 0.077 | 0.077 | 1,407 | 18,132 | 0.078 | 0.075 |
距離延長 | 路線戻し非該当 | 6,083 | 100,983 | 0.060 | 0.060 | 3,186 | 50,884 | 0.063 | 0.062 |
距離延長 | 路線戻し | 1,658 | 22,610 | 0.073 | 0.073 | 1,129 | 15,663 | 0.072 | 0.072 |
路線変更 | 路線戻し非該当 | 2,645 | 63,368 | 0.042 | 0.039 | 827 | 22,254 | 0.037 | 0.036 |
路線変更 | 路線戻し | 274 | 6,229 | 0.044 | 0.039 | 155 | 3,191 | 0.049 | 0.041 |