2024年8月25日日曜日

第481夜 逃げ馬に勝ちを許す


▼レベルの高いレースを考えているうちに
研究というほどでもないのかもしれないけれど、多くの試みは失敗である。
例えば、「レベルの高いレース」を見つける法則みたいなことも試行錯誤して発見に努めようとするのだが、これも失敗の山を築く。
レースを何度も見返したり、個々の馬を見極めたりしなければ簡単にはいかないな、という結論で終わってしまう。
そうした失敗の中で、「すごく強い馬がいるレースはレベルが高い」という仮定で検証したことがあって、これはこれで当たり前のことを再認識した、今夜はそんな話である。

レベルの高いレースということばに出会ったのは、ご多分に漏れずと言っていいだろう、月刊誌「競馬最強の法則」であった。
当時、わたしは個体のことばかり考えていたから、レース全体で考える視点自体に、いたく感銘したものだ。
そもそもレベルの高いレースとは何か。
詳しくは本家本元を参照いただきたいが、わたしなりの勝手な解釈では「勝ち馬の評価は別として、2着以下が苦しい展開の中で全力を発揮できなかった、或いは次走以降につながる経験をした、そういう馬が多いレース」と考えている。
これを、「自分の競馬をさせてもらえなかった」イコール、前述のように「すごく強い馬がいるレースは(自分の競馬をさせてもらえず)レベルが高い」はず、と短絡的に考えたのが失敗である。
ここで、「すごく強い馬」を、ハナから先頭に立ち、ゴールまでずっと1番手だった馬、と仮定した。
要するに逃げ馬が勝ったレースである。
逃げ馬は、通過順位が「1-1-1-1」とか「1-1-1」とかになっている馬とした。
映像で確認すると終始先頭だったわけではないこともあるが、記録上でみている。
競馬では「テン良し、中良し、終い良し」などというが、逃げて勝てるというのは他馬より力の差がある証左でもある。
あるとき、わたしは「これだ!」と思って逃げ馬が勝ったレースの2着以下を馬を調べたのだが、それ以外のレースと比較してみたところ、逃げ馬が勝ったレースはレベルの高いレースどころではなかったのである。
2011-2023
年中央競馬平地競走において改めて集計した結果が図表481-1である。

▼自分が弱かったのだ
レベルの高いレースの判定対象は2着以下なので、前走1着馬は参考資料だが、昇級するとすぐには通用しないのか、勝率は逃げ馬以外がやや優勢だった。
判定対象の2着以下は驚くべき結果であった。
逃げ馬に敗れた2着馬は次走で勝率21.7%、そのほかのレースで2着となった場合の19.9%より良績なのだが、前走3着馬は逃げ馬が勝ったレース出身馬が僅かに優勢なものの、4着以下では逃げ馬に敗れた馬たちのほうが勝率は低かったのである。
もちろん、全体的な傾向であって、ひとつひとつのレースでは逃げても逃げなくても強い勝ち馬はいるだろうが、逃げ馬が勝ったレースでは「総じて」敗けた馬が弱かったのではないか。
数字の上ではそのような結果が出てしまった。
念のため、勝った逃げ馬が2着につけた着差別にも調べてみたのだが(図表481-2)、概ね着差が大きかったレース出身ほど4着以下の成績は良くない。
いずれの表にも勝率の凸凹が大きいため、複勝率(3着以内率)を併記した。

逃げ馬が勝ったレースは、レベルの高いレースどころか、ともすれば、あまりレベルの高くないレースだったのかもしれない。
もちろん、個別には強い逃げ馬が勝つレースがある。
強すぎて、結果として逃げたような形になったというものだ。
近年では、2022820日小倉第6競走の新馬戦で勝ったヤマニンウルス号は、ダート1700m143で走った。
2
着馬は186である。
着差は43もあった。
ヤマニンウルス号は、あまり出走できないのだが、20247月末現在で55勝と、もはや名馬の領域である。
2
着以下の馬たちの次走は、2着に入ったのが1頭で、ほかは5着以下に沈んだ。
3
着馬に至ってはその後出走できなかった。
ヤマニンウルス号は強かったが、レースそのものはそれほど高いレベルではなかったのかもしれない。
勝ち馬が強いのと「レベルの高いレース」は無関係、ということを示す典型例である。
(SiriusA+B)

(
図表481-1)前走逃げ馬の勝ったレースとそのほかのレース別の前走着順別今走勝率

前走着順 前走逃げ勝ちレース出身馬の勝率 前走そのほかのレース出身馬の勝率 前走逃げ勝ちレース出身馬の複勝率 前走そのほかのレース出身馬の複勝率
前走1着 0.101 0.107 0.260 0.294
前走2着 0.217 0.199 0.513 0.481
前走3着 0.142 0.140 0.395 0.391
前走4着 0.102 0.109 0.306 0.322
前走5着 0.076 0.078 0.246 0.261
前走6着 0.062 0.066 0.211 0.219
前走7着 0.046 0.053 0.170 0.183
前走8着 0.041 0.044 0.146 0.153
前走9着 0.035 0.039 0.126 0.139
前走10着 0.024 0.033 0.108 0.120
前走11着 0.026 0.028 0.096 0.108
前走12着 0.023 0.024 0.091 0.097
前走13着 0.016 0.023 0.066 0.084
前走14着 0.019 0.023 0.067 0.079
前走15着 0.017 0.019 0.062 0.069
前走16着 0.018 0.020 0.060 0.067
前走17着 0.017 0.020 0.072 0.067
前走18着 0.014 0.018 0.058 0.057

(図表481-2)勝った逃げ馬のレースの1着と2着の着差に分けた成績
単勝 前走着順 0.5超 0.5差 0.4差 0.3差 0.2差 0.1差 0.0差
1 0.154 0.144 0.102 0.099 0.084 0.071 0.065 0.101
2 0.213 0.188 0.189 0.223 0.23 0.212 0.237 0.217
3 0.131 0.157 0.143 0.159 0.133 0.137 0.151 0.142
4 0.085 0.112 0.097 0.09 0.109 0.098 0.128 0.102
5 0.065 0.1 0.074 0.073 0.073 0.089 0.075 0.076
6 0.049 0.06 0.056 0.071 0.07 0.072 0.056 0.062
7 0.045 0.029 0.042 0.039 0.05 0.058 0.046 0.046
8 0.034 0.027 0.025 0.05 0.05 0.048 0.04 0.041
9 0.033 0.036 0.037 0.038 0.033 0.028 0.04 0.035
10 0.024 0.017 0.015 0.024 0.019 0.034 0.027 0.024
11 0.029 0.031 0.018 0.034 0.022 0.021 0.026 0.026
12 0.019 0.014 0.015 0.032 0.027 0.031 0.02 0.023
13 0.015 0.014 0.021 0.018 0.016 0.019 0.019 0.017
複勝 前走着順 0.5超 0.5差 0.4差 0.3差 0.2差 0.1差 0.0差
1 0.343 0.314 0.287 0.26 0.238 0.204 0.196 0.26
2 0.498 0.511 0.479 0.508 0.518 0.524 0.536 0.513
3 0.362 0.419 0.382 0.401 0.393 0.419 0.411 0.395
4 0.299 0.294 0.276 0.309 0.314 0.312 0.317 0.306
5 0.225 0.286 0.246 0.245 0.254 0.253 0.243 0.246
6 0.202 0.193 0.189 0.225 0.23 0.206 0.218 0.211
7 0.161 0.173 0.199 0.164 0.172 0.163 0.172 0.17
8 0.136 0.12 0.126 0.159 0.162 0.149 0.15 0.146
9 0.122 0.123 0.122 0.115 0.123 0.14 0.135 0.126
10 0.099 0.127 0.09 0.118 0.097 0.124 0.115 0.108
11 0.096 0.094 0.085 0.101 0.097 0.094 0.101 0.096
12 0.085 0.066 0.102 0.098 0.089 0.101 0.093 0.091
13 0.061 0.05 0.06 0.071 0.064 0.07 0.067 0.066


2024年8月19日月曜日

第480夜 幸運にも勝った馬は


▼事故
2024
728日の新潟第8競走3歳以上1勝クラスで、ブループリマドンナ号が3着になった。
8
戦目、11番人気であった。
新馬戦を除き、ずっと二桁人気で、馬券に絡んだのも新馬戦以来である。
1800m
ダート戦とはいえ、新馬戦を勝ったエリートなのに、評価は上がらなかった。
彼女の勝ったこの新馬戦は、これより1年ほど前であった。
やはり新潟だったのだが、実はたいへん珍しいレースであった。
「事故」で競走除外となった馬がいたのである。

有名な事件なので、ご存知の方も多かろうと思うが、事故の内容は、競走馬の取り違えであった。
名調教師でも、とか、現代に、とか、そういった話はこのブログの範疇ではない。
それでもひとつだけ言わせてもらえば、埋め込まれたチップが鍵になったのだが、大ごとになることなく、速やかに対応できたことを素晴らしいとわたしは思う。
人間のやることだから、このようなミスはどれほどの名人でも素人でも起こし得るが、その影響を最小限に食い止める仕組みや対応が評価されるべきもので、外野がミスに対してあれこれ言っても不毛である。

本題に戻る。
除外馬はエンブレムボム号という名前だが、競馬場にやってきたのはエコロネオ号だった。
エコロネオ号を出走させようとしたのか、ホンモノのエンブレムボム号のつもりだったのかは、わたしは知らない。
ただ、ホンモノのエンブレムボム号だったとしたら、勝ち負けだった可能性があった。
エンブレムボム号は、後日出走した新馬戦を1番人気で勝利している。
冒頭に登場したブループリマドンナ号は、エンブレムボム号が出走していたとしたら勝利できただろうか。
その後の人気薄ぶりから、馬券購入者は新馬戦の勝利を評価してくれていないが、この勝利は単なる幸運だったのか、それともエンブレムボム号が出走していても勝利できるほどの実力だったのか。
取り違え事件の該当馬より、ブループリマドンナ号のその後が気になったのである。
ちなみに、競馬場まで連れてこられたエコロネオ号は中央競馬平地競走を3戦未勝利で地方に転出し、門別での初戦に1番人気で勝利した。
1
番人気が話題性を加味したものかどうかは、わたしは知らないが、人気には応えたのである。

▼繰り上がり勝利馬のその後の成績
このような例は稀有(けう)だが、1位入線馬が降着や失格などで繰り上がった勝利馬は何頭かいる。
前項の例と異なり、こちらは明らかに2位入線馬が優勝したものである。
降着制度は2013年からだったか、大きく変更されているので、近年は例が少ないが、手で拾ってみたら18頭も出てきた。
ああ、ピンクブーケ号もいる。
図表480-1にまとめてあるが、誤りや漏れについてはご容赦願いたい。
その後の成績を見ると(202312月末まで)、繰り上がり勝利馬でその後勝利したのは9頭と半数であった。
他方、降着や失格となった馬は、その後、18頭中14頭が勝利した。
「やっぱり降着や失格した馬のほうが強いのか」と早合点してはいけない。
降級制度も変わったが、繰り上がり勝利馬は基本的にひとつ上のクラスで戦っているのだ。
その考えでいくと、降着・失格馬を2勝以上した頭数と比較しなければならないと考えることもできる。
その頭数は9頭、繰り上がり勝利馬でその後勝った馬と同数であった。

サンプルは少ないが、この結果から、繰り上がり勝ちの幸運な馬は、必ずしも幸運だけではなく、実力も備わっていると考えられるのではないだろうか。
同様に、降着や失格した馬も同様の実力を示している。
馬券を検討する中では、棚ぼたや気性で割り引くより、むしろ「どちらも1着」くらいで評価したほうが良さそうな気がする。
(SiriusA+B)

(
図表480-1)1位入線降着・失格馬のいた競走の勝ち馬と当該馬のその後の成績

競走 クラス(現在の呼称) 勝ち馬 人気 その後勝利 その後出走 降着失格馬 人気 理由 その後勝利 その後出走
2011年1月22日中山9R 3歳1勝クラス ヤマノラヴ 4 0 14 マヒナ 2 0 4
2011年2月20日東京4R 3歳未勝利 リンゴット 1 2 21 ラポール 3 0 14
2011年4月17日阪神2R 3歳未勝利 タガノマツカゼ 5 0 1 ナリタデリゲート 6 1 4
2011年5月8日京都1R 3歳未勝利 ボストンリョウマ 2 0 43 マサノエクスプレス 5 1 8
2011年12月17日中山10R 3歳上2勝クラス セイリオス 2 1 13 ヒラボクマジック 3 3 19
2012年10月28日東京4R 2歳新馬 アイズオンリー 1 0 10 ソロル 4 7 32
2014年12月7日中山6R 2歳新馬 マイネルサージュ 1 5 36 ピンクブーケ 9 2 9
2015年4月18日阪神12R 4歳上2勝クラス カネトシビバーチェ 1 1 31 アイムユアドリーム 15 1 10
2016年2月6日東京7R 3歳1勝クラス レーヴァテイン 1 0 1 ヴァンキッシュラン 3 2 3
2017年8月6日小倉1R 2歳未勝利 ガゼボ 4 3 27 ペイシャルアス 5 2 19
2017年9月18日中山1R 2歳未勝利 マイネルアンファン 6 2 21 マイネルサリューエ 2 2 9
2019年5月11日京都2R 3歳未勝利 サンマルベスト 3 2 15 テイエムイブシギン 1 1 7
2019年9月1日札幌9R 3歳上1勝クラス クリノアリエル 2 1 29 タンタグローリア 4 0 3
2020年2月23日小倉4R 3歳未勝利 ソツナサ 9 0 11 マイネルポインター 4 1 7
2020年3月29日中京11R 4歳上オープン モズスーパーフレア 9 0 7 クリノガウディー 15 2 16
2020年11月1日京都7R 3歳上1勝クラス ナリタザクラ 1 0 9 メイショウサンガ 3 0 22
2020年11月7日東京4R 2歳未勝利 セルジュ 4 0 14 ソーヴァリアント 1 5 14
2022年2月5日中京5R 3歳未勝利 サブライムアンセム 1 1 10 ハギノモーリス 2 3 9


2024年8月11日日曜日

第479夜 全点買いと控除率


全点買いを「思いついた」なら冷静に考えてほしい
追い上げが危険なことは過去に何度か言及しているので、今夜は「全点買い、全点購入」について。
最も組み合わせの少ない券種は単勝と複勝で、単勝全点買いでも最大18点だ。
中央競馬平地競走の平均出走頭数は、14頭前後である。
単勝平均配当は約10倍、高配当もちらほら出る。
これなら、金額に差を付けて買えば上手くいくかもしれない、という訳で全点購入戦術を考えつくのである。
うん、いつか来た道。

結論から言えば「やめておけ」となるのだが、熱くなっている人に諌(いさ)めても聞く耳を持たないことがある。
「全点購入で競馬に勝てるなら、主催者が黙っていない」と諭してみるのもいいかもしれない。

全点購入ではないが、かつて3連単をかなり広範囲に買って成功した例はあった。
これに対してJRAがどう考えたのか知る由もない、ただ、これが券種別控除率の設定に繋がった、少なくともきっかけになった、とわたしはみている。
2000
年代初頭の事件だった(投票は事件ではない。脱税が、事件である)が、主催者は、将来的に情報技術が進化することを見据えて対策したのだろう。
ご承知の通り、中央競馬の場合、控除率と組み合わせ数(18頭立て)は以下の通りだ。
(20.0%)単勝18、複勝18
(22.5%)枠連36、馬連153、拡大馬連(ワイド)153
(25.0%)馬単3063連複816
(27.5%)3連単4896
(30.0%)WIN5(5レースすべて18頭立てとして)1,889,568
なぜ、わたしは組み合わせ数を併記したのか。
そう、組み合わせ数が多いほど、控除率を上げていることをお伝えしたかったのである。
券種の人気で控除率を操作しているのではない、これは超多点買いによる馬券の盲点を全力で塞ぎにきたとみたほうがいいだろう。
この脱税事件を起こした組織の手法については、わたしもかなり研究したので(もちろん馬券戦術の、笑)、券種の選定や着想の凄さは実感しているが、控除率改定もあって、二番煎じはない。
ただ、皆さんに注目していただきたいのは、彼らでさえ「全点購入」ではなかったことだ。
いや、むしろ、何頭かの馬を除外して全点購入を避けたところにポイントがある。
馬券は相当苦労して買っていたようだから、彼らも「全点購入、均等買いならラクなんだが」などと考えていたかもしれないが、全点購入では勝てないと知っていた上での戦術であることは間違いない。
繰り返しになるが「全点購入で競馬に勝てるなら、主催者が黙っていない」。
そんな方法で勝たれたら、賭式として欠陥があるということになってしまうのだ。
賭場の主催者なら、こうした戦術を不正行為とまでは言わないが、不正行為と同じくらいに「歓迎せざる客」と捉えるだろうとわたしは思う。
だが、「全点ではない広範な購入」に対して脆弱性があったことは、それまで見つかっていなかった、或いは物理的に不可能とされ実戦で確認されていなかった。
力業は、情報技術の進化がもたらした。

やはりオッズ以外のファクターを加えねば
話を戻して全点購入である。
1
番人気馬1点買いと全点購入戦術では、回収率にそれほど差はなく、70乃至80%に収まる。
全点購入戦術で、一律定額ではなくオッズを見ながら段差買いしても、大差はない。
成績を上げるには、人気薄ほど配分を厚くするしかないのだが、この方法で人気薄を自動的に買っても成績は上がらない。
配分を工夫するためには、どうしても個々の馬の判断を加えるしか方法がなく、馬を見ずにオッズだけ見て買う、というのが当初の目的であったなら、やはり良い方法は無いという結論に達してしまう。
今夜は検証データを載せていないが、多くの人が挑んで失敗してきているので、資料はあちこちにあると思う。
いや、誰もがデータを持っているか。

蛇足だが、この控除率によって長期的に黒字を防ぐ天井と考えることもできる。
単複は20%控除すれば、長期的にプラスとなる者は極めて稀になる、という発想である。
そして、3連単は従前の25%から僅か2.5ポイント引き上げただけで、(わたしの想像が間違えていなければ)穴を塞いだ、ということである。
馬券で儲けるのが如何に難しいか、利幅が如何に薄いか、を語っている。

(SiriusA+B)

2024年8月4日日曜日

第478夜 投票行動の観測


▼ふつうの投票行動でも癖はある
異常投票の話は、真偽はともかく、よく見かけるように思う。
一方で、「通常投票」とでも呼べばいいだろうか、異常ではない、ふつうの投票行動にも「癖」というものはある。
このブログでは、(特に単勝)オッズはかなり精確である、という旨を述べてきた。
精確であるとは、オッズの逆数である支持率と実際の勝率に乖離が極めて小さいからである。
それはそのとおりであるのだけれど、精緻に見れば、わたしたちの投票行動に僅かな癖があることもまた事実である。
いつものデータベース、2011-2023年中央競馬平地競走で16頭立ての競走に限り、1番人気馬のオッズごとに勝率を集計してみた。
図表478-1である。
図表中「理論値」とあるのはオッズの逆数である支持率(1/オッズ×4/5)で、ざっくり言えばほとんど差はないのだが、丁寧に見ていくと勝率とオッズに僅かに乖離しているところがある。
13
年間分であっても、単に、サンプル数が少ないところもあり、これは割り引いて考えてほしい。
それでも、勝率と支持率理論値のグラフを描くと、1.2倍から1.4倍のゾーン、4.5倍から5倍のゾーンで勝率>理論値となっている。
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倍以降でもその傾向は観測されるが、ここはサンプルが少ないので参考ということにしておく。
非常に小さい乖離で、調査母数が少ないことによる誤差と言われればそれまでだが、おそらくこれが投票行動の癖を観測したものであるとわたしは考えている。

通常の行動であるから、わたしたちも想像はつきやすい。
あまりの低/高倍率で敬遠したのではないかと。
特に1倍台は敬遠された可能性が高い。
ほんとうなら、もっと低いオッズになっても不思議ではないことを理論値は示していると考えられる。
馬券の種類はいろいろあるのだ。
単勝をやめて、他の券種に切り替える人も出てこよう。
投票総数の券種別比率を追いかけてもらえば分かるが、これは必ずしも適当な推測でないことが分かるだろう。
4
倍台以降のゾーンでは、1番人気馬を信用できないとみて他馬の単勝を買う、或いは他の券種に切り替える、といった行動が推測される。
逆に、1.5倍から2.6倍くらいのゾーンは支持率ほど勝っていない。
このあたりが比較的「堅い」と思われているゾーンだ。
1.5倍を切るとは馬券としては美味しくないから単勝はやめておくか」→黒字になるほどではないが、むしろ「買い」では?
1番人気が5倍もつくとは危険だな」→こちらもむしろ「買い」では?
「単勝は2倍くらいか。ここは本命寄りに」→買われ過ぎなので、買わないほうが良くない?

ということである。
皆と一緒でないと困る人は多いが、ここは逆を行こう。

もしも、馬券が単勝しかなかったら、このような行動は観測されないと思われる。
「馬券を買うことはやめられない、でも単勝は厳しい」と思う人は、他の券種に自由に移動できる。
このような券種の移動を失念している人は少なくないと思う。
わたしはこれを投票者の癖と言ったが、歪みの一種である。
これ以上は書かないが、異常オッズだけがオッズの歪みではないということだ。
ただ、人々の投票行動なので、競馬と同様、定期的に観測して変化に注意しておくことをおススメする。
(SiriusA+B)

(
図表478-1)中央競馬平地競走16頭立て1番人気馬のオッズ別勝率と支持率の理論値(ここでいう16頭立てとは、出走取消等で出走馬が16頭になった競走をいう
)
オッズ 勝利回数 出走回数 勝率 理論値
1 0 0 0% 80%
1.1 14 23 61% 73%
1.2 38 50 76% 67%
1.3 75 108 69% 62%
1.4 132 200 66% 57%
1.5 139 292 48% 53%
1.6 183 376 49% 50%
1.7 222 520 43% 47%
1.8 228 515 44% 44%
1.9 231 549 42% 42%
2 193 558 35% 40%
2.1 194 525 37% 38%
2.2 190 535 36% 36%
2.3 219 616 36% 35%
2.4 197 627 31% 33%
2.5 187 674 28% 32%
2.6 185 678 27% 31%
2.7 207 670 31% 30%
2.8 203 701 29% 29%
2.9 184 662 28% 28%
3 166 619 27% 27%
3.1 158 609 26% 26%
3.2 128 564 23% 25%
3.3 116 477 24% 24%
3.4 112 464 24% 24%
3.5 116 503 23% 23%
3.6 91 412 22% 22%
3.7 74 369 20% 22%
3.8 71 309 23% 21%
3.9 50 308 16% 21%
4 44 254 17% 20%
4.1 42 209 20% 20%
4.2 34 216 16% 19%
4.3 22 168 13% 19%
4.4 25 144 17% 18%
4.5 23 104 22% 18%
4.6 22 109 20% 17%
4.7 9 58 16% 17%
4.8 9 45 20% 17%
4.9 10 53 19% 16%
5 6 32 19% 16%
5.1 4 33 12% 16%
5.2 5 24 21% 15%
5.3 4 17 24% 15%
5.4 0 5 0% 15%
5.5 1 5 20% 15%
5.6 1 8 13% 14%
5.7 0 7 0% 14%
5.8 0 7 0% 14%
5.9 0 2 0% 14%
6 0 2 0% 13%
6.1 0 3 0% 13%
6.2 0 1 0% 13%
6.3 0 2 0% 13%


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