▼美浦坂路
「競走馬に関する調査研究発表会」というものが毎年開催されているそうで、専門家の発表は敷居が高くて素人の手に負えるものではないが、親切にも講演要旨を簡潔明瞭に纏めた資料が公開されており、関心のある人は誰でも閲覧できる。
2024年の資料では、わたしは資料の最後にある「白色化しにくい芦毛の話」が、特に興味深かった(いや、「話」ではなく学術論文発表だが)。
脇道に逸れた。
見たかったのは、美浦坂路改修による心肺機能の資料だった。
要旨だけだが、美浦坂路を活用すると心肺機能が上がる、という結論のようだった。
特に故障などのデメリットはなさそうである。
2023年10月から利用できるようになり、坂路での調教頭数は増加しているとも聞く。
ただ、「関東馬が巻き返しを始めた」というのは短絡的すぎる。
東西格差は、坂路ひとつで変わるほど軽度なものではない、とわたしはみている。
坂路で一本、二本追い切りしたくらいで、劇的に変化するとは思えない。
簡単に変化するなら、坂路スタート地点に長蛇の列ができ、その他の調教コースは閑古鳥が鳴くはずだ。
格差はもっと深い根のところ、預かる馬、調教のシステム、厩舎の運営システムなど、もっと総合的なものではないのか。
外厩を積極的に活用する時代だし、調教理論も進化している。
坂路の重要度は以前とは異なる。
それでも、次第に坂路調教が組み入れられ、成績が改善され、預かる馬の質が向上してくれば、効果は誰の目にも明らかになろう。
坂路の運動で負荷がかかっていることは間違いないのだ。
いずれ効果を実感するが、今すぐに表れると考えるのはどうか、ということである。
▼追い切りの読み方
このブログで何度か言及しているように、わたしは調教状況を、メディア提供された総合評価で判断している。
調教は、予想記者・トラックマンとわたしたちでは情報の質・量ともに大きな差があるためだ。
そもそも、調教の判断は難しいとされる。
とりわけ追い切りは、トレセンの馬場ひとつとっても、どのコースか、ハローがけや含水率、コース内での位置取り、どこから追ったか、などと注意すべき点は多い。
競走馬も、一杯、強め、馬なりなど調教の強さ、単走、並走といった形式、騎乗者と負担重量など、頭に入れなければならないことは多い。
盛りだくさんである。
また、調教とは追い切りだけではない。
ふだんはぶらぶらさせておいて、レース前に強めに追えば仕上がる、とでも考えているようなら思い違いだ。
それで、わたしは総合判断をプロに委ねるのである。
だが、自ら、調教欄で追い切りの情報を読んで判断することもある。
調教を中心に予想する「調教派」には笑われると思うが、至ってシンプルなやり方だ。
同じ調教コースで追い切りした馬を集め、好タイムだった馬をチェックする。
例えば、栗東坂路で追い切りした出走馬が4頭いたら、いちばん好タイムだった馬に印を付ける。
ほかのコースでも同様である。
これだけである。
「馬場状態はどうした」
「並走したかどうかは見たのか」
「過去の調教実績との比較は」
とツッコミはあるけれど、わたしは速いタイムを出していればそれでいい。
力をセーブして走らせる場合もあるだろう。
でも、最速だった馬はそれだけの速さで走られることを示したのだ。
他馬はもっと速く走るかもしれないが、それは推測に過ぎない。
どんな馬場であれ、騎手ではなく調教師自ら騎乗したものであれ、裏付けのある範囲で取捨選択する。
調教だけで予想するわけではないと決めているから気軽なものだ。
わたしは、さまざまな調教条件を加味することを否定しないが、精度を高めても調教は調教である。
馬なりも気合充分、とか馬に聞いたわけではないから。
時計は掛かったが上積み見込める、とか見込みだから。
わたしは自分で調教欄を読むときには、分かる範囲で、と推測は避ける。
ヒモを選ぶ気持ちで、気になった速い馬だけピックアップすると解釈してもらえればと思う。
その割に、案外、飛び込んでくる。
すべてが自動計測によるデータになれば公的に公開されて集計表をお載せできるのだが、現時点ではご容赦いただきたい。
調教派がいるのも納得である。
わたしも、調教は予想ファクターの中でも重みのあるほうだと思う。
ただし、情報が少ないので、精度を求めることはしないのだ。
精度を求めないというのは、「良好、まあ良好、ふつう、今ひとつ」程度で、他のファクターに決定権を持たせる「パンチの効いたスパイス」の位置づけとでも言おうか。
逆に言えば、精度を求めない限り、調教情報は好材料、予想に欠かせない、ということになる。
(SiriusA+B)