2021年1月1日金曜日

第310夜 「全きょうだい」の研究を進めている

 ▼多因子形質

年末年始の休暇に合わせて「全きょうだい」の研究をしている。
まがい物の血統の話ではない。
馬券に直結できる、統計手法や遺伝学の力を借りた考え方で、呪文のような話を綴る考えはない。

伝統的な血統論者にとって、全きょうだいというのは「手強い」テーマということもあり、こうした事実を示したデータはほとんどない。
血統上、父と母が同じであると区別をつけにくいのである。
たまに「兄よりもナスルーラの血が色濃く出ているようだ」などという、あまり科学的とは思えない「弁解」も見受けられるが、ほとんどが競走結果に対する後付けの印象論の域を出ない。

実は、全きょうだいの出走というのは(少なくともわたしには)、衝撃的な数量であった。
いつものデータベース、中央競馬平地競走2006-2018年の範囲内で、全きょうだいが出走(完走)した組合せは5,471組もある。
区切られた期間内だが、最大は8頭もの全きょうだいが出走した例も2組ある。
完走回数は134,325走で全体の620,722走の21.6%を占めるのである。
もっと少ないものと思っていた。
馬産家の信念とか執念といったものを感じずにはいられない。
わたしは統計的に全きょうだいの「違い」を示せないかと思って研究を始めたのだが、これが思いのほか奥深いものであった。

★図表310-1 全きょうだいの組合せ数(2006-2018年中央競馬平地競走完走馬)

中央競馬平地競走完走全きょうだい数 全きょうだいの組合せ数 頭数 平地完走回数 平地勝利回数 勝率
8 2 16 238 33 13.9%
7 4 28 385 29 7.5%
6 19 114 1,464 157 10.7%
5 51 255 3,433 366 10.7%
4 160 640 7,422 791 10.7%
3 730 2,190 25,878 2,540 9.8%
2 4,505 9,010 95,505 7,832 8.2%
合計 5,471 12,253 134,325 11,748 8.7%
そしてこれはまだ研究途上だが、いったんここで記事にしておこうと思った。

全きょうだいの違いにはいくつかあるのだが、列挙すると概ね3つに分けられる。
(1)
性別
(2)
父母の出産時年齢
(3)
個体差
性差による体格の差は厳然とあり、今回の分析でも性別に分けているものが多い。
父母の出産時年齢については、これまでにもブログで指摘してきたことだが、繁殖牝馬の高齢出産は影響が見られるし、種牡馬も高齢による影響もある。
特に、(3)個体差については研究された資料を見つけることができなかったが、わたしなりに調べてみると想像以上に差があることも分かってきた。

個体差というのは「体格」に関するものである。
遺伝学では「多因子形質」と呼ばれるのだが、人間の場合、身長や体重など、遺伝的要因と環境的要因が相互に影響して個体差を生じさせる。
研究論文などを見ていくとたいへん興味深い。
例えば欧米人の双子で研究したものでは、身長の個体差はその80%が遺伝的要因であるとする。
その他の在野の論文や研究では65%とか、もっと低い遺伝的要因であることを示唆するもものもあるが、いずれにせよ、サラブレッドに当てはめたとしても、体格には「100%遺伝」とするには無理があるということは間違いないようだ。

そこで、全きょうだい間で馬体重の差がどれくらいあるのか、をまず調べた。
現役馬の体高や胸囲、管囲といったデータを得ることはできないので、比較するには馬体重しかないのであるが、体格の代表的数値としてもいいだろう。
競走数がかなり違うので現役期間は異なるが、出走時の馬体重平均をざっと見たところ、兄弟間で50kg差があることも頻繁にあるし、姉妹間でもやはりこれに近い幅があった。
「小柄な兄につづく弟たちはみな小柄ではないのか」と思わず声をあげてしまった。
これらの事実を血統論者はご承知なのだろうか。
★図表310-2 7頭以上の全きょうだいの馬体重
馬名 生年 父馬 Mo1 性別 牡馬のみ平均馬体重 牝馬のみ平均馬体重
ナイキデラックス 2001 アフリート ケイエイローズ 519
ハスフェル 2002 アフリート ケイエイローズ 460
テイエムシップウ 2004 アフリート ケイエイローズ 467
アイリッシュミスト 2006 アフリート ケイエイローズ 438
レコメンド 2007 アフリート ケイエイローズ 485
ブーケパルフェ 2008 アフリート ケイエイローズ 467
アースパイプ 2009 アフリート ケイエイローズ 479
ラプタークルーズ 2010 アフリート ケイエイローズ 480
ボレアス 2008 ディープインパクト クロウキャニオン 471
マウントシャスタ 2009 ディープインパクト クロウキャニオン 465
カミノタサハラ 2010 ディープインパクト クロウキャニオン 514
ベルキャニオン 2011 ディープインパクト クロウキャニオン 486
パラダイスリッジ 2012 ディープインパクト クロウキャニオン 450
ラベンダーヴァレイ 2013 ディープインパクト クロウキャニオン 432
クリアザトラック 2014 ディープインパクト クロウキャニオン 447
フォックスクリーク 2015 ディープインパクト クロウキャニオン 479
オセロ 2008 アグネスデジタル モノトーン 431
ドラゴンピース 2009 アグネスデジタル モノトーン 498
アートプリズム 2011 アグネスデジタル モノトーン 438
モノクロームシチー 2012 アグネスデジタル モノトーン 455
モノトーンボーイ 2013 アグネスデジタル モノトーン 478
ブルーループス 2014 アグネスデジタル モノトーン 473
タイセイハーモニー 2016 アグネスデジタル モノトーン 442
ティボリペガサス 2007 サンライズペガサス ティボリサンライズ 460
ティボリタンポポ 2008 サンライズペガサス ティボリサンライズ 481
ティボリハーモニー 2010 サンライズペガサス ティボリサンライズ 493
サンライズレーヴ 2011 サンライズペガサス ティボリサンライズ 470
ティボリゲール 2012 サンライズペガサス ティボリサンライズ 476
サンライズカラマ 2014 サンライズペガサス ティボリサンライズ 483
サンライズスパーク 2015 サンライズペガサス ティボリサンライズ 464
テイエムエース 2003 テイエムオペラオー テイエムシーズン 466
テイエムヨカアンベ 2004 テイエムオペラオー テイエムシーズン 431
テイエムチバリヨー 2005 テイエムオペラオー テイエムシーズン 437
テイエムダンガン 2008 テイエムオペラオー テイエムシーズン 482
テイエムハエンカゼ 2009 テイエムオペラオー テイエムシーズン 448
テイエムシナモン 2011 テイエムオペラオー テイエムシーズン 443
テイエムアカトンボ 2013 テイエムオペラオー テイエムシーズン 438
カフェマーシャル 2006 マンハッタンカフェ カフェララルー 512
カフェドマーニ 2007 マンハッタンカフェ カフェララルー 494
カフェシュプリーム 2009 マンハッタンカフェ カフェララルー 508
カフェリュウジン 2010 マンハッタンカフェ カフェララルー 528
カフェテキーラ 2011 マンハッタンカフェ カフェララルー 556
カフェライジング 2012 マンハッタンカフェ カフェララルー 512
カフェブリッツ 2013 マンハッタンカフェ カフェララルー 542

▼集計結果
わたしの調査方法は、まず全体的な傾向を調べ、違和感のあるデータをピックアップして詳細に調べる、という2段階である。
全体の傾向を調べる際には、指標をいろいろと用意して臨む。
勝率、獲得賞金、その他である。
そもそものデータは、牡馬に絞った。
牡馬だけに絞って中央競馬平地競走を1回でも完走した全きょうだいが6頭いるのは4組、5頭は8組、4頭は31組、3頭は183組、2頭は1,774組である。
4
頭以上はN値が少なすぎるため「参考」としておくことを何度も自分の中で念を押した。
牝馬は次回の研究のお楽しみとして置いておく。
今回はサンプルが少ないため、勝率については工夫し、「最終勝利時点での勝率」というものを並行して使うことにした。
競走馬は「限界」と判定されるまで何走か走る。
したがって、勝利数を生涯(データ期間内)の完走回数すべてで割ると、「あきらめの早い」馬の勝率が高く出てしまうからである。
集計結果は以下のとおりである。
表があれば、興味ある方には説明不要だと思うが、一応、次の夜に少し綴るつもりである(書かないかもしれない)。
★図表310-3 牡馬全きょうだい集計
牡馬兄弟数 牡馬兄弟順 頭数 平地完走回数 平地勝利回数 平均勝利数 平地勝率 最終勝利時点完走回数 最終勝利時点での勝率
6 1 4 64 8 2.0 12.5% 30 26.7%
6 2 4 121 16 4.0 13.2% 82 19.5%
6 3 4 82 11 2.8 13.4% 71 15.5%
6 4 4 59 5 1.3 8.5% 31 16.1%
6 5 4 77 10 2.5 13.0% 36 27.8%
6 6 4 31 7 1.8 22.6% 25 28.0%
5 1 8 145 12 1.5 8.3% 71 16.9%
5 2 8 108 14 1.8 13.0% 63 22.2%
5 3 8 124 14 1.8 11.3% 71 19.7%
5 4 8 141 11 1.4 7.8% 65 16.9%
5 5 8 62 3 0.4 4.8% 18 16.7%
4 1 31 701 72 2.3 10.3% 354 20.3%
4 2 31 482 68 2.2 14.1% 326 20.9%
4 3 31 348 31 1.0 8.9% 144 21.5%
4 4 31 318 25 0.8 7.9% 149 16.8%
3 1 183 3,142 352 1.9 11.2% 1,709 20.6%
3 2 183 2,700 289 1.6 10.7% 1,401 20.6%
3 3 183 1,588 151 0.8 9.5% 703 21.5%
2 1 1,774 24,931 2,565 1.4 10.3% 12,438 20.6%
2 2 1,774 17,782 1,514 0.9 8.5% 8,078 18.7%
合計 4,285 53,006 5,178 1.2 9.8% 25,865 20.0%
牡馬兄弟数 牡馬兄弟順 頭数 平均馬体重の平均 父馬年齢平均 母馬年齢平均 平地獲得賞金平均 最高賞金平均
6 1 4 497 10.8 6.8 44,418,500 17,754,750
6 2 4 481 12.3 8.3 98,520,250 19,164,500
6 3 4 507 13.5 9.5 52,559,000 19,685,250
6 4 4 507 15.0 11.0 29,359,500 6,989,250
6 5 4 483 16.8 12.8 43,835,500 11,041,750
6 6 4 496 17.8 13.8 24,855,250 7,307,750
5 1 8 486 8.9 7.4 58,021,250 18,421,125
5 2 8 475 11.9 10.4 40,423,125 11,191,625
5 3 8 490 13.5 12.0 33,743,625 9,170,250
5 4 8 490 14.8 13.3 44,489,750 8,609,875
5 5 8 484 16.5 15.0 7,286,250 3,305,750
4 1 31 473 9.0 7.7 102,840,355 25,778,871
4 2 31 472 11.0 9.8 98,716,032 19,164,742
4 3 31 479 13.2 11.9 21,263,548 5,227,968
4 4 31 481 15.1 13.9 12,991,516 4,228,065
3 1 183 480 9.8 8.8 59,644,027 14,472,093
3 2 183 481 12.2 11.1 36,353,273 9,632,743
3 3 183 478 14.4 13.4 13,515,787 4,835,137
2 1 1,774 481 10.7 9.5 36,781,011 9,771,197
2 2 1,774 479 13.3 12.1 17,038,066 5,025,844
合計 4,285 480 12.0 10.9 29,281,680 7,926,655
(SiriusA+B)

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