▼同じ厩舎の同期でも期待に差はある
初出走するまで何とも言えないこととはいえ、期待できるかどうかは携わっている者なら分からないでもないと思われる。
調教の過程で、馬に素質があるかどうか、適性や能力を把握することはできる。
仕上がり具合と能力を勘案して、初出走するレースを決めるだろう。
わたしは調教師(厩舎というか陣営という意味で)の選択を結構信じている。
美浦の厩舎で「この馬はダメだなぁ」と思えば、東京競馬場のマイル以上の芝戦に出走はさせまい。
出走馬のレベルから考えて勝てないのはほぼ間違いないからである。
新潟か福島の、短いダートにでもおろすほうが勝てる可能性が高まる。
中央開催>北海道開催>地方開催
芝>ダート
マイル以上>マイル未満
というわたしの新馬戦デビュー基準は、出走馬のレベルを考えてのものだが、調教師はそう考えているだろうと思っている。
予想ファクターとして、調教師(厩舎)はそれなりのウェイトを持つのだが、陣営としても期待の大きい馬から(正直言って)あまり期待していない馬までいるとは思う。
預かったものの、良い馬もいれば、ハズレだなと思う馬もいるはずである。
予想者としては、その判断も考慮に入れたい。
期待馬ならば将来を見据えデビューさせるし、1勝させて退場願うつもりなら勝てそうなところでデビューさせるだろう。
これを評価基準にするのだ。
そうした判断を設定できるのか、少し調べることにした。
2021年以降、引退する見込みの調教師で、かつ、ポリシーが明確で強力な東西の厩舎を例にとった。
美浦の藤沢和雄厩舎と栗東の角井勝彦厩舎である。
いつもの2006ー2018年平地競走完走馬のデータで簡易な分析をした。
完全に捕捉していないかもしれないが、それぞれ300頭前後の所属馬から概ね傾向を知ることはできた。
両厩舎を選んだのにはいくつか理由がある。
このブログ記事以降に何らかの影響を与えることが少ないこと、開業から成績が良いこと、そして早い時期から馬の実力を見極めたうえで勝てそうなレースを選ぶ趣旨をインタビューや著書で公言していたことからである。
両調教師は、能力のある馬なら勝つ、といった単純な考え方ではなく、周到に戦略戦術作戦を用意し勝つべくして勝つ、というところまで突き詰めていると思われる。
そういう仕事をなさっている。
分かりきったことではあるが、馬は騎手を選べないしレースを選ぶこともできない。
それを補うのが調教師であり、両厩舎はそれを明確に体現しているように思うのである。
どの調教師も同じようなことを考えていると思われるが、自信を持って有言実行していることから注目した。
なお、2厩舎に限った調査であり、誤解や先入観防止のため、今夜はデータ分析まとめの数値を掲出しない。
だが、調べれば誰でもほぼ同じ結論を得られる。
▼厩舎期待の大小は明確に
前項で掲出したわたしの新馬戦デビュー基準、すなわち、
中央開催>北海道開催>地方開催
芝>ダート
マイル以上>マイル未満
は、両厩舎でかなりはっきりと観察することができた。
美浦の藤沢和雄厩舎の場合、中央開催でも特に「中山より東京」という考えも明確なようで、基本的には秋の東京開催を第一に、仕上がりの早い馬は札幌・函館、6月の東京で、遅い馬でも2月の東京で馬を下ろす。
期待馬が多く、出走させる馬の仕上げには自信を持っているが、レースの「紛れ」を極力回避したい、万全を期したい、という意思を感じる。
第三場開催を使わないのは対戦相手を含めた騎手の技量も考慮しているからであろう。
「力は足りないかもしれないが、運が良ければ1勝を」というような甘さが無いように思える。
また、ダート戦でデビューさせる馬は少ない。
もともと評判馬ばかりなので芝戦が多くなるのかもしれないが、芝・ダートの適性云々より絶対能力を優先しているようにみえる。
「芝でマイル以上」という基準でも、1600mより1800mや2000mを使うことが多いことから、或いは「芝で1800m以上」と考えておられるのかもしれない。
距離が長いほど実力どおりに決まりやすく、実力を見極めるにも好都合なのだ。
栗東の角井厩舎でも同じような傾向が見られた。
もっとも、ニュアンスの違いはあるようで、ダートデビュー馬の比率は若干多いし、北海道開催はほとんど使わないといった差異はある。
中央開催は京都・阪神と2場あり、東京・中山ほど使い分けが必要ではないのだろう。
関東遠征はあるが、輸送やコース形態から東京・新潟・中山の順位付けがあるようにみえる。
この点は「広くて紛れの少ないコース」の考えがあると思われる。
藤沢厩舎に比べると、適性や相手関係の考慮比率がやや高いのかなと思う。
「力があれば勝つ(負けても強くなる)」、「勝ちを確実に拾う(相手関係にもよる)」、というポリシーの違いが両者にあるのかもしれない。
どちらが正しいとか正解というものではなく、そうした戦略の差異があるということである。
実戦こそ最高の練習で、強い馬と対戦してより強くしよう、というのも一理あり、先ずは1勝しなければ始まらないというのも一理あり、この違いが表れていると感じる。
勝ち鞍がいかなるものでも昇級に変わりはなく、極端な話、日本ダービーまで弱い相手ばかりと対戦してきたっていいのだ。
以上はデータからの、わたしの勝手な推測である。
実際のところは分からないが、最終的な各馬の成績を見比べれば、(オーナーやブリーダーの意向を踏まえるにせよ)デビュー時点での能力判定はありそうである。
「仕上がった順に出走」とか、「この馬の能力はダート短距離や小回りで活かされる」とかいったものでないことは確かだ。
適性は出走回数が増えていくにつれ明らかになっていくが、当初は能力が高いかどうかというポテンシャルを基準に考えられていると思う。
皇帝シンボリルドルフのデビュー戦は新潟芝1000mだったが、これは例外中の例外である。
▼予想に活かす
期待の新人(馬)のことは分かった。
ではこれをどう予想に加えるか。
同じ厩舎であってもファクターとしては分割することが考えられる。
「藤沢和雄A」「藤沢和雄B」のように。
分割数は恣意的なものであるから、わたしの問題ではない(皆さんが考えればいいこと)。
2つでも3つでも4つでも自身が良いと思う分割をすればいいだろう。
このことは大きなオーナー(馬主)、ブリーダー(生産者)にも応用できる。
すべての馬が同じレベルで優秀というわけではないのだ。
例えば、ひと口馬主の経験者なら募集馬の人気や価格が馬ごとに異なることはご存知だろう。
馬主をファクターにしたとき、同じ馬主をひとつにまとめる方が違和感を抱くのではないだろうか。
馬の力には差があり、期待にも差ができる。
もちろん夢は平等で、高馬でも安馬でも東京優駿も優駿牝馬も狙うことは可能だ。
ただ、走るまで分からないが、関係者には走る前からある程度の精度で分かることも多いのだ。
この馬はオープンクラス、こっちは2勝クラスなどというものではなく、厩舎内など知る範囲と過去の所属馬から「馬Aより走る」などと相対的な評価かもしれない。
どの新馬戦に臨むか、関係者の見立てを汲み取ることで各馬のファンダメンタルズ(本質)は何グループかに振り分けられそうだ。
もちろん走る前だからすべて期待どおりではないが、競馬予想者より見立ての確度は高いと考えられる。
それを基礎に予想できるなら、強力な武器を得られたものと思ってよい。
(SiriusA+B)