2022年8月14日日曜日

第381夜 オーマツカゼ!(ファミリーの研究全体編)


▼祖先馬は約2,500頭から3,000
父系に比べて母系を予想に活かしにくいのは、母馬の出産頭数が理由である。
人気種牡馬が年間100頭、200頭と子孫を残すのに対し、繁殖牝馬は最大でも20頭前後しか産むことができない。
僅か1頭、或いは2頭などということもざらで、これではとても分析できないということになってしまう。
そこで提案しているのが、母系すなわちファミリーラインで分析するということである。
このブログを開始した初期に1900年頃まで遡り、「祖先馬」を決める方法をお伝えした。
わたしは今、ここまで遡らずに4代母を「祖先馬」としてファミリーをグループ化することにしている。
1900
年前後まで調べていくと、どうしても過誤や下手をすると虚偽報告が増えてその処理に手間取ってしまう。
祖先馬の頭数が増えてしまうのは仕方ないと諦め、4代母くらいまでなら、祖先馬頭数とデータの信頼度のバランスがまあまあ良いところと、ここで手を打つことにしたのである。
実は、血統に関するデータベースを一新することにしたので工事中なのだが、完成には相当先までかかりそうなので、ここで少しばかり記事を書くことにした。
ひとつは、全体編で、祖先馬を起点とするファミリーグループ分析は比較的安定した傾向を出すということを示す。
もうひとつは、個別編で、同じファミリーグループでの差異を、母父を切り口に考える。
精緻に研究するには根気と時間が必要だ。
わたしとしては、発想のヒントや予想ファクターとして参考になれば幸いと思い、簡単な概要を綴ることにした。

mDNAを揃えたグループ化
実際に作業すれば分かるが、競走馬の母系を辿ることのたいへんさ以上に、どこで「切りを付けて」祖先馬にするか、難題である。

参考までに、「輸入基礎牝馬(基礎輸入牝馬、とも)」について少し触れておく。
日本のサラブレッドはすべて輸入された馬からスタートしている。
明治期の小岩井農場、下総御料牧場の輸入牝馬は有名だ。
日本のサラブレッドはすべて、ファミリーラインが最初に輸入された1頭に辿り着く。
わたしの考える「祖先馬」よりはよほど正確かつ適切だと思われる。
外国産馬の取り扱いと、辿り着く祖先の世代をある程度揃えていくために、わたしは祖先馬という概念を用いたが、可能なら輸入基礎牝馬をベースとした分析をしたほうが良いと思う。
日本軽種馬協会の運営するサイトJBISJapan Bloodstock Information Systemサーチのページで調べられる。

今回は、このブログ用のデータベースを最後の仕事として使う。
2006
年から2018年までの中央競馬平地競走の成績をもとにしたデータベースで、さすがにデータとしては古くなったため、新しいものに取り換えようと準備している。
この範囲で出走した競走馬を対象として、各馬のファミリーラインを4代母まで遡った。
これを仮の祖先馬とする。
仮の祖先馬の中には、さらに遡ることで別の祖先馬に辿り着くものもいるから、これを丁寧に追いかけていく。
現在8割がたの追跡調査を終えたが、最大で10代母まで遡る馬もいた。

例えば、以下の2頭も同じファミリーグループになる。
1944
年生まれのオーマツカゼ号を祖先馬とする。
ムキムキムッキー(2016)9
 母マザーシップ
 2代母(祖母)グローバルピース
 3代母エミネントガール
 4代母タレンティドガール
 5代母チヨダマサコ
 6代母ミスオーハヤブサ
 7代母ワールドハヤブサ
 8代母オーハヤブサ
 9代母オーマツカゼ=祖先馬

ドンクーガー(2010)4
 母グリタリングフラワ
 2代母(祖母)カシマアロー
 3代母トキノマツカゼ
 4代母オーマツカゼ=祖先馬

もちろん、お好みでもっと遡ることもできよう。
これらの馬の共通点は、牝系にしか引き継がれないミトコンドリアDNA(mDNA)(突然変異しなければ)同じということである。

▼オーマツカゼのファミリーグループ
2003-2018
年の出走馬は7万頭近い。
8
割がたの追跡調査時点で、最大のファミリーグループのひとつは1944年生まれのオーマツカゼを祖先馬とするグループである。
集計途中だが、おそらくベスト5のひとつになると思われる。
ファミリーナンバー12号族、小岩井農場の輸入した基礎牝馬の1頭でも大きな勢力を誇るビユーチフルドリーマーが祖先だ。
日本産サラブレッドの中核的存在である。
現集計時点では、596頭いた。
このうち、勝ち上がった(2003-2018年に)馬は173頭で、勝ち上がり率は0.29である。
集計は途中なので、もう少し増えるだろう。
ちなみに、このグループの戦績は、全体としては平均に近い。
生年別にすると、以下のようになる。
レースの集計期間の関係上、年長の馬は長く現役を続けているもの、若年の馬は集計期間後勝利することもあるもの、であることに注意されたい。

ご覧いただければ分かるが、サンプルが少ないため多少の凸凹はあるにしても、年代を問わず安定した成績になっているように思う。
祖先馬を起点にした世代別でも、同じような結論になる。

わたしが母馬分析に代えてファミリーグループを推奨したいのはこの安定性なのである。
超長期の衰亡はあるが、数年単位であれば、ファミリーグループの「基礎点」は推定できると思うのだ。

しかし、同じファミリーグループでも個体差があるはずだ、というのは至極もっともな考えだと思う。
そこで、次の夜には、血統分析のもうひとつの鍵である「母父」による成績の差異について少し書くつもりである。
(SiriusA+B)
▼図表381-1オーマツカゼを祖先馬とするファミリーグループ生年別勝ち上がり率(2006-2018年中央競馬平地競走)※全数調査途中経過

生年 頭数 勝ち上がり数 勝ち上がり率
1999年生 3 1 0.33
2000年生 6 1 0.17
2001年生 8 2 0.25
2002年生 16 4 0.25
2003年生 36 13 0.36
2004年生 44 12 0.27
2005年生 44 20 0.45
2006年生 40 16 0.4
2007年生 46 15 0.33
2008年生 46 13 0.28
2009年生 47 13 0.28
2010年生 43 12 0.28
2011年生 46 10 0.22
2012年生 30 8 0.27
2013年生 41 13 0.32
2014年生 42 7 0.17
2015年生 34 13 0.38
2016年生 24 0 0
合計 596 173 0.29
図表381-2オーマツカゼを祖先馬とするファミリーグループ勝利度数別頭数(2006-2018年中央競馬平地競走)※全数調査途中経過

勝利回数頭数
7勝4
6勝1
5勝13
4勝11
3勝25
2勝38
1勝81
0勝
423

図表381-3オーマツカゼを祖先馬とするファミリーグループ世代別成績(2006-2018年中央競馬平地競走)※全数調査途中経過

頭数 勝ち上がり馬数 勝ち上がり率 勝利回数 完走回数 勝率
4代 27 9 0.33 18 268 0.067
5代 68 15 0.22 34 564 0.06
6代 197 65 0.33 148 2,112 0.07
7代 179 43 0.24 79 1,514 0.052
8代 103 36 0.35 87 1,110 0.078
9代 22 5 0.23 9 130 0.069

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