2022年10月30日日曜日

第392夜 市場価格(前編)


▼市場価格と勝率
馬の市場価格については何度か触れてきたのだが、データをまずまず蓄積してきたので改めて示したい。
これでも全数調査には足りないので、興味ある人は有料のデータベースなどできちんと調べていただければと思う(わたしは無料データしか使わないことに決めている)
まだ2012年産、2015年産を中心に不足しているデータがあるから、参考程度であることをお断りしておく。

驚いたことがある。
2011-2021
年の中央競馬平地競走の成績から拾った際、市場取引馬の完走回数は全体の25%に及んだ。
16
頭立て競走で4頭くらいが市場取引馬という計算だ。
市場取引が増えていることを改めて認識した次第である。
データが完成すれば、もっと比率は高まる。
庭先取引がほとんどで、良い馬が市場に出回っていない時代とは隔世の感がある。
父内国産馬・市場取引馬限定競走を知るオールドファンには感慨深い。
中堅企業の社長さんなど、いわゆる資産家の相対的な減少という背景はあるにせよ、馬産最大手の社台グループが積極的に良い馬を市場に供給してきたことは大きい。
市場取引馬の質が高まっているという印象も受けた。
市場取引馬と「庭先取引・未調査馬」の勝率(勝利回数/完走回数)を比較したところ、市場取引馬が勝率0.065(6.5%)、庭先取引・未調査馬が0.072、全体が0.070であった(2011-2021年中央競馬平地競走)
2011
年からのデータだが、直近23年に限ればその差はないか、場合によっては逆転する。
データを完備すれば、もう少し明確にお話しできると思うが、全体平均0.07を基準に勝率を眺めてもらえれば、近年の市場取引馬の成績が非市場取引馬と遜色ないことを確認できる。

(
図表392-1)中央競馬平地競走に出走した市場取引馬頭数と成績の推移(2011-2021年出走分。データは一部未集計につき参考)

産駒年 市場取引馬頭数(調査済み分) 完走回数 勝利回数 勝率
2004年産駒 45 201 3 1.49%
2005年産駒 128 941 32 3.40%
2006年産駒 263 2,317 144 6.21%
2007年産駒 376 4,338 254 5.86%
2008年産駒 973 9,252 660 7.13%
2009年産駒 1,150 13,000 885 6.81%
2010年産駒 1,175 13,497 854 6.33%
2011年産駒 1,143 12,566 795 6.33%
2012年産駒 455 4,984 267 5.36%
2013年産駒 1,377 14,528 947 6.52%
2014年産駒 1,437 14,728 941 6.39%
2015年産駒 345 2,964 156 5.26%
2016年産駒 1,507 12,988 891 6.86%
2017年産駒 1,339 10,693 782 7.31%
2018年産駒 1,349 8,319 587 7.06%
2019年産駒 1,062 2,836 195 6.88%


市場価格別にグループ分けして成績を調べてみたのが図表392-2である。
馬の価格は幅が広いので、対数により区分した。
分かりにくいが、6.0100万円、7.01,000万円、8.01億円とイメージしてもらえればいい。
6.0
7.0は価格が10倍、6.08.0では100倍になるということだ。
なお、市場価格は本来市場ごとに、また、上場した年齢ごとに整理しなければならないが、サンプルが少ないこともあって、今夜はそのまま集計している。
成績は見事に連動している。
最右欄の「勝率2」は前後等級と合算して算出したものである。
多少は凸凹を改善できるだろう。
また、対数8.3グループ以上と、対数6.0グループ以下はまとめた。
平均勝率が0.07だから、市場価格1,500万円くらいが「平均的な馬」に位置付けられるのではないだろうか。

ちなみに、ディープインパクトは7,350万円だったので、対数7.9グループに入ることになる。
一方で、1億円を超える「超」のつく高額馬の成績は、市場価格に比べて物足りないと思われる。
これは、競走馬としての期待のほか、引退後の繁殖或いは繁殖に上がる際の売却も考慮されたものと推察できる。
わたしたち馬券購入者と違い、馬主には引退後の損得勘定もあるのだ。

(
図表392-2)市場取引馬の市場価格別勝率

対数グループ 市場価格(以上) 市場価格(以下) 勝利数 完走回数 勝率 勝率2
8.8 501,187,234 630,957,344 7 38 0.184
8.7 398,107,171 501,187,233 1 12 0.083
8.6 316,227,767 398,107,170 1 5 0.200
8.5 251,188,644 316,227,766 42 231 0.182
8.4 199,526,232 251,188,643 60 287 0.209
8.3 158,489,320 199,526,231 61 345 0.177 0.164
8.2 125,892,542 158,489,319 48 423 0.113 0.147
8.1 100,000,001 125,892,541 104 678 0.153 0.132
8.0 79,432,824 100,000,000 154 1,222 0.126 0.129
7.9 63,095,735 79,432,823 246 2,021 0.122 0.122
7.8 50,118,724 63,095,734 315 2,602 0.121 0.112
7.7 39,810,718 50,118,723 437 4,275 0.102 0.102
7.6 31,622,777 39,810,717 482 5,183 0.093 0.096
7.5 25,118,865 31,622,776 569 6,120 0.093 0.087
7.4 19,952,624 25,118,864 570 7,266 0.078 0.083
7.3 15,848,932 19,952,623 670 8,312 0.081 0.075
7.2 12,589,255 15,848,931 699 10,182 0.069 0.073
7.1 10,000,001 12,589,254 576 8,096 0.071 0.067
7.0 7,943,283 10,000,000 636 10,383 0.061 0.062
6.9 6,309,574 7,943,282 524 9,432 0.056 0.057
6.8 5,011,873 6,309,573 544 10,080 0.054 0.053
6.7 3,981,072 5,011,872 472 9,789 0.048 0.049
6.6 3,162,278 3,981,071 351 8,026 0.044 0.045
6.5 2,511,887 3,162,277 312 7,536 0.041 0.041
6.4 1,995,263 2,511,886 227 6,321 0.036 0.037
6.3 1,584,894 1,995,262 72 2,726 0.026 0.034
6.2 1,258,926 1,584,893 114 3,062 0.037 0.030
6.1 1,000,001 1,258,925 57 2,362 0.024 0.033
6.0 794,329 1,000,000 28 620 0.045 0.028
5.9 630,958 794,328 4 191 0.021
5.8 501,188 630,957 10 293 0.034
5.7 398,108 501,187 0 7 0.000
5.6 316,228 398,107 0 0 0.000
5.5 251,189 316,227 0 16 0.000
5.4 199,527 251,188 0 10 0.000
5.3 1 199,526 0 0 0.000
市場取引馬計 8,393 128,152 0.065
庭先・未調査馬 28,254 392,069 0.072
合計 36,647 520,221 0.070

(SiriusA+B)


2022年10月23日日曜日

第391夜 降着は(馬券的には)チャンス!


▼降着制度
わたしがいちばん最初に好きになった馬は、エリザベス女王杯を勝ったリンデンリリーだった。
秋華賞新設前の、3(旧表記では4)牝馬限定競走で、「はだしのシンデレラ」イソノルーブルとの対決だった。
未だ馬券の買えない頃だったので、のちに知ることになるのだが、リンデンリリーは1991年に降着制度が設けられ、16日に1着入線馬の降着第1号になったことでも有名な馬だ。
降着制度はその後、2013年から抜本的に改められて、「降着しにくい」ルールになった。
それでも、毎年、何頭かは降着処分を受けている。
近年でも桜花賞馬グランアレグリア号が降着処分を受けた。
もちろん、処分を受けるのは騎手らであり、馬自身が怒られたり食事を抜かれたりするわけではない。
あくまでも人間のルールである。
現に、気落ちするわけでもなく()、同馬はその後も快進撃を続け、いくつかのG1競走を制している。

公正な競馬を確保する必要はある。
わたしたちが安心して競馬を楽しめるのは、ルールが明確だからだ。
それでも、馬を走らせる限り、大なり小なり進路妨害は、起こり得る。
だからといってお座なりにしていると無法地帯になってしまう。
したがって主催者は厳正な処分をする。ただ、降着するほどの進路妨害かどうかの線引きは、その時代の定義による。
損得勘定により、当たったら当たったで、外れたら外れたで、進路妨害にほくそ笑んだり文句を言ったり、競馬ファンは忙しい。
それはそれで競馬の楽しみ方ではあるのだけれど、折角だからこれを馬券につなげたいと思う。
限界を超えて走ったり、闘志むき出しで走ったりと、進路妨害の理由はさまざまだが、次走や次走以降に目を向けると、結構おいしい馬券である。

▼降着以降
下表は2011年から2020年の中央競馬平地競走降着馬の一覧である。
53
頭いる。
降着処分されたレース以降、5戦を観察すると、恐ろしいほど勝っている。
25
頭が5戦のうちに1勝以上している。
割合にして47%以上である。
勝率も5戦で14%あり、これは平均7%の倍である。
順当勝ちである場合は少なくないが、気性が荒いのか、着順を落としたあと激走することも結構ある。
馬券に「降着」を活かす要点は、次走だけでなく、その後もしばらく追いかけることなのである。

「残念、降着馬は少ないのよ」と嘆く必要はない。
処分の大小はともかく、進路妨害はある。
成績表をよく見てみよう。
今夜は降着処分に目を向けたが、罰金や騎乗停止は毎日のようにある。
(SiriusA+B)

(
図表391-1)2011-2021年中央競馬平地競走で降着した馬とその後5走着順(着順表記が0となっているのは出走がなかったことを示す。取消を含まず、除外を含む)

馬名 対象競走 着順 次走着順 2次走着順 3次走着順 4次走着順 5次走着順 5走成績
ショウナンカミング 2011/01/05京都05R 10着降着 2 3 11 2 3 [0-2-2-1]
マヒナ 2011/01/22中山09R 12着降着 3 8 7 8 0 [0-0-1-3]
ナムラドリーミー 2011/01/23京都06R 13着降着 8 4 2 4 4 [0-1-0-4]
ラポール 2011/02/20東京04R 7着降着 5 5 2 6 6 [0-1-0-4]
ゴールデンアタック 2011/02/27阪神06R 12着降着 4 1 8 6 9 [1-0-0-4]
トップゾーン 2011/03/19小倉11R 13着降着 6 2 1 1 12 [2-1-0-2]
ダッシャーゴーゴー 2011/03/27阪神11R 11着降着 1 3 11 9 4 [1-0-1-3]
ナリタデリゲート 2011/04/17阪神02R 10着降着 3 1 8 5 0 [1-0-1-2]
マサノエクスプレス 2011/05/08京都01R 2着降着 2 6 10 7 1 [1-1-0-3]
トップオブザヘヴン 2011/06/11新潟08R 6着降着 10 6 5 1 5 [1-0-0-4]
ヒシマーベラス 2011/07/09中山05R 4着降着 3 1 6 6 9 [1-0-1-3]
ナイスヘイロー 2011/07/24函館09R 11着降着 3 6 4 12 10 [0-0-1-4]
フェイスフルラバー 2011/08/21新潟12R 15着降着 8 0 0 0 0 [0-0-0-1]
シゲルミカン 2011/09/11阪神02R 13着降着 8 5 除外 6 5 [0-0-0-4]
グリーンバーディー 2011/09/11阪神11R 14着降着 8 0 0 0 0 [0-0-0-1]
シルクシュナイダー 2011/10/29新潟11R 13着降着 4 1 1 3 2 [2-1-1-1]
アフィリエイト 2011/11/12東京12R 10着降着 16 0 0 0 0 [0-0-0-1]
レッドバビロン 2011/11/12京都02R 7着降着 5 1 13 11 8 [1-0-0-4]
ルアーズストリート 2011/12/24小倉11R 17着降着 6 4 2 5 6 [0-1-0-4]
アスターエンペラー 2012/02/18京都11R 16着降着 5 8 10 13 7 [0-0-0-5]
メイユール 2012/03/18中山05R 13着降着 9 10 9 4 6 [0-0-0-5]
スピリテッドエアー 2012/03/24中京04R 6着降着 5 6 1 13 0 [1-0-0-3]
マイネルガネーシャ 2012/03/31阪神12R 10着降着 9 10 14 4 7 [0-0-0-5]
クラッチヒット 2012/06/24福島10R 9着降着 8 6 11 7 12 [0-0-0-5]
ローガンサファイア 2012/07/14函館11R 11着降着 2 2 6 9 1 [1-2-0-2]
デオヴォレンテ 2012/08/11札幌06R 4着降着 除外 3 2 1 6 [1-1-1-1]
クイーンアルタミラ 2012/08/19新潟09R 13着降着 5 14 12 13 3 [0-0-1-4]
キルタンサス 2012/09/16中山05R 12着降着 8 11 13 6 8 [0-0-0-5]
ロンド 2012/09/16阪神07R 14着降着 1 5 2 4 7 [1-1-0-3]
ソロル 2012/10/28東京04R 10着降着 5 1 1 2 6 [2-1-0-2]
マイネルオードビー 2012/11/10福島03R 16着降着 6 5 9 0 0 [0-0-0-3]
ディアアスペン 2012/11/11福島01R 14着降着 7 2 4 7 4 [0-1-0-4]
アイムヒアー 2013/11/03東京10R 9着降着 9 8 12 16 13 [0-0-0-5]
ダイナミックウオー 2014/01/26中京10R 3着降着 4 9 10 8 10 [0-0-0-5]
スカイキューティー 2014/07/12中京12R 6着降着 10 4 8 9 16 [0-0-0-5]
アイムユアドリーム 2015/04/18阪神12R 2着降着 6 13 11 1 5 [1-0-0-4]
ヴァンキッシュラン 2016/02/06東京07R 2着降着 1 1 13 0 0 [2-0-0-1]
リオンディーズ 2016/04/17中山11R 5着降着 5 0 0 0 0 [0-0-0-1]
タガノブルグ 2017/04/30新潟11R 10着降着 7 2 9 11 7 [0-1-0-4]
ハクサンフエロ 2017/07/09福島05R 4着降着 3 1 15 17 16 [1-0-1-3]
ペイシャルアス 2017/08/06小倉01R 2着降着 1 6 1 6 6 [2-0-0-3]
マイネルサリューエ 2017/09/18中山01R 2着降着 2 1 3 7 1 [2-1-1-1]
ラプターゲイル 2017/09/24中山01R 3着降着 4 9 7 11 1 [1-0-0-4]
パンコミード 2018/03/04阪神09R 3着降着 6 3 7 1 3 [1-0-2-2]
ダイリュウボーラー 2019/03/09中京02R 3着降着 10 2 0 0 0 [0-1-0-1]
グランアレグリア 2019/05/05東京11R 5着降着 1 2 1 1 1 [4-1-0-0]
テイエムイブシギン 2019/05/11京都02R 2着降着 1 6 16 6 14 [1-0-0-4]
タンタグローリア 2019/09/01札幌09R 2着降着 7 8 11 0 0 [0-0-0-3]
マイネルポインター 2020/02/23小倉04R 2着降着 1 6 11 11 8 [1-0-0-4]
ダイアトニック 2020/03/01阪神11R 3着降着 3 1 15 13 14 [1-0-1-3]
クリノガウディー 2020/03/29中京11R 4着降着 12 18 7 5 5 [0-0-0-5]
メイショウサンガ 2020/11/01京都07R 2着降着 4 7 2 3 6 [0-1-1-3]
ベイビーアッシュ 2020/11/21阪神06R 3着降着 5 11 9 6 9 [0-0-0-5]
出走頭数 52 49 47 45 42 235
勝利回数 7 10 6 6 5 34
勝率 13.50% 20.40% 12.80% 13.30% 11.90% 14.50%


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