2024年8月末は速度の遅い台風の到来によって交通機関などに影響があった。
影響は意外なところにもあった。
報道でもご承知のとおり、スポーツ振興くじのひとつ、MEGA BIGで1等が260本あまり出た。
わたしは買ったことがないので、以下では誤認もあると思う、正確な知識は専門のところでご覧いただきたい。
MEGA BIGはくじの一種だが、競馬を考える参考にもなる。
(図表487-1) MEGA BIG実質組み合わせ数
試合数 | 中止試合数 | 実質組合せ数 | 当たりやすさ |
12 | 0 | 16,777,216通り | 1倍 |
11 | 1 | 4,194,304通り | 4倍 |
10 | 2 | 1,048,576通り | 16倍 |
9 | 3 | 262,144通り | 64倍 |
8 | 4 | 65,536通り | 256倍 |
7 | 5 | くじ不成立 |
このMEGA BIGはサッカー12試合で4種類の結果を組み合わせるというもので、4の12乗4^12=16,777,216通りになる。
WIN5で、指定5レースすべてが18頭立てとしても、組み合わせ数は1,889,568通りだから、ひと桁違う。
もちろん、競馬の3連単とは比べ物にならない難度である。
資料によると、2023年度は不成立を除き(スポーツくじは中止などで不成立がある)60回あり、1等当選口数は僅か9口であったようだ。
的中が滅多にないから、次回繰り越し、いわゆるキャリーオーバーが恒常的に発生する。
わたしの手元計算では、1回あたり平均で206万口(1口300円)くらいだから、約1,680万分の1であれば、そりゃあなかなか当たらないだろうなと想像がつく。
控除率も50%ほどだから、競馬をする人には手を出しにくい物件のように思われる(そうでもない?)。
そして、2024年8月下旬、台風がやって来て、4試合が中止になったのである。
12試合の結果の組み合わせのうち、4試合分は4種類の結果の選択どれでも当たりとなるというから、組み合わせ数は4の8乗すなわち4^8=65,536通りになる。
12試合すべてが実施される場合と比べて、256倍(4^4)も組み合わせ数が減った。
約1,680万通りにひとつが、約6.55万通りになったということである。
キャリーオーバーは58.3億円に膨れ上がっていた。
確率が下がったことはSNSなどで広まったそうだが、ふつうは6、7億円の売り上げが7倍にもなり、47億円も売り上げた。
口数に換算すると1,571万口になる。
1,680万口に近づいたではないか! ではない!
4試合中止で6.55万通りにひとつ的中するので、ざっと240口の当選が見込まれた。
キャリーオーバー58.3億円に47億円×50%(控除される分をざっと引く)を加えて約81.8億円が当選金原資である。
2等以下に計約15.15億円支払われることになったのだが、1等は269口で2,480万円の当選金になった。
0.248億円×269口+15.15億円(2等以下。詳細省略)でざっくり81.8億円、キャリーオーバーもすっからかんになったのである。
このくじの本質は、キャリーオーバーを取りに行くゲームであると言える。
キャリーオーバーは投票者から得てプールされたものであるけれど、独立して1回で考えれば、当選金原資は売り上げの50%ではなく、「売り上げの50%+キャリーオーバー」とみることもできる。
当選金は、最大で12億円とはいえ、しばしば今回並み、或いは今回以上に積み上がっているから、当選口数が2口くらいなら24億円はある。
前回は約7億円の売り上げで1等当選が1口あり、12億円の当選金だったが、売り上げだけでは3.5億円しか当選金原資がなかった。
レースごとに集まったお金を、寺銭を差し引いて分配する競馬とはちょっと違う。
このくじは何回分かでひとつのユニットとして考える、ということだ。
ちなみに、前回は1試合が中止になっていたので、確率は4,194,304分の1になっていた。
1,680万通りに比べ、4分の1すなわち当選確率は4倍に上がっていた。
▼失う覚悟なしにリターンは得られない
報道により仕組みが広まったので、当面の間、指定のサッカーの試合が中止になりそうになれば、売り上げが上がるかもしれない。
それでも今回のように当選確率が256倍も上がるようなケースは滅多にないだろう。
主催者も、まさか力技で当選金を狙ってこようとは思わなかったかもしれないが、今後、くじのルールが変更されるかもしれない。
ここで注目すべきは、この仕組みに早々に気が付き、6.55万通り分、金額にして約2,000万円単位で購入した猛者が実在したことである。
仕組みを知る聡明さ、理論的に分かっていても買う決断をする胆力(たんりょく)、そして資金力がすべて揃っている人だ。
競馬と異なり、くじ番号は選べないから、下手をすれば外れる可能性もあったし、そういう不運の人もいたかもしれない。
賭けるというのは、ゼロになるリスクとの闘いである。
このリスクとの葛藤に勝った者だけが、1口当たり約500万円の収入を得た。
勝てる可能性に気付いて、さらに潤沢な資金もあった人でも、このくじを買いに走らなかった人はたくさんいたとわたしは思う。
500万円を得ようとして(賭けるときに当選金は分からないが)、2,000万円を失うかもしれないからと手を出さなかった人は、2,000万円は温存できても500万円を得る機会は失った。
それに比べて競馬の馬券など小さいが、やはり同じである。
元手を失うリスクを負わなければ馬券など買えないのだ。
レースごとの収支が気になる人に、競馬は向いていないことが分かるだろう。
「今日馬券に使うお金は失っても(減っても)いい」という当然の覚悟ができていないからである。
ちなみに、この記事の計算がきちんと合っていたとして、単勝1.2倍か1.3倍のぐりぐり本命馬券を100円分買って的中したのと大きな差はない。
「金額が桁違いなだけ」と言えばそれまでだが、100円と1,000万円単位では勇気は10万倍必要だ。
(SiriusA+B)