2023年5月7日日曜日

第416夜 馬齢(日齢)の影響


▼同歳戦は早く生まれた馬が有利
馬場状態が走破タイムに与える影響について、芝とダートで異なることはよく知られている。
他方、馬齢がレース結果に与える影響について、23歳馬限定戦(同歳戦)と古馬戦で異なることを説明した資料は少ない。
競馬予想の難しさは「馬の成長をどう見込むか」ということもそのひとつだが、加齢により、4歳のどこかの時点で能力が下がり始めることは、そもそも問題として認識されているのかどうかさえ、わたしには疑問である。
人間は誰しも加齢による衰えに立ち向かうことになる。
スポーツなどの競技人であれば、衆目の中で加齢と闘うのだが、一般人も同様である。
ただ、心理的な負担が大きいのか、「下り坂」について明瞭に分析しにくい壁はあるかもしれない。
今夜の記事は、成長していく若馬の「上り坂」、ピークを過ぎた古馬の「下り坂」について、馬齢の視点で淡々と検証していく。

用意した表はふたつある。
図表416-1は、誕生日別の中央競馬平地競走の勝率(2011-2021)で、図表416-2は出走馬の中で最年長馬または最年少馬の勝率である。
図表416-1は閏年もあるため、11日から何日目か、という表現にしている。
1
3日生まれなら「3」、21日生まれなら「32」である。
10
日ずつ区切って集計した。
図表416-2は、同歳戦では出走馬中、最も早く生まれた馬すなわち「最年長馬」を、古馬戦では最も遅く生まれた「最年少馬」を対象にした。
いずれも、全馬の誕生日を成績と紐づけなければ算出できない。
これが巷間で言及の少ない原因のひとつであろうと推量する。

先ず、同歳戦だが、図表1で一目瞭然で、早く生まれた馬の勝率が高く、出生(しゅっしょう)が遅いほど勝率が下がっていくことが分かる。
若馬の場合、日毎に成長していくのだから、早く生まれているほうが有利なのだ。
図表2ではクラス別に集計しているが、2歳戦と3歳戦で比較すれば、2歳戦のほうが年長有利の傾向が強く、新馬→未勝利→500万下と年長有利の傾向が下がっていく。
オープンでは条件戦より勝率が高まっているけれど、総合すると、出走馬間のレベル差が大きいか小さいかと何かしら関わっているのかもしれない。

▼古馬は若い馬のほうが有利
これとは逆に、古馬戦では若い馬の勝率が高くなる。
馬齢も同期との戦いではなくなるので、図表1の誕生日別のデータでは早生まれも遅生まれも有利不利があまりないことが分かる。
一方で、図表2にある通り、出走馬で最年少の馬が高い勝率を示している。
これは同歳戦より明確に年齢の差による影響があるということだ。
同期だけの同歳戦では日齢の差は小さいが、古馬戦では日齢の差が広がることによるものだろう。
競馬予想者にとって難しいのは、加齢によって能力が下がっていくことである。
特に上位クラスでは5歳馬や6歳馬が活躍することも少なくない印象がある。
これは、能力の高い馬が、平均的な馬よりも加齢による能力の減少幅が小さいためであろう。
すなわち、G1にでも出走するような高齢馬は能力の減衰が小さいため、「能力は頭打ちになって」という誤解を生じさせているのではないかとわたしは考えている。
本当は頭打ちどころか、下がっているのだ。
低条件戦では顕著である。
特に、降級制度の見直しによって、「ひとつ上の世代」は大幅に勝鞍を減らしていて、いずれ競馬予想者の間で周知の事実となり、馬齢のファクターが重視されるようになるだろう(そうならないほうが、わたしとしてはラクなのだけど)。

▼馬齢は「副菜」
馬齢に関する知見についてご紹介したのだけれど、馬齢はあくまでメインディッシュにはならず、あくまで副菜である。
早く生まれたほうが圧倒的に有利なのなら、とっくに馬産が対応しているはずであるからだ。
ただ、傾向としてはある。
馬齢の要素は、各馬の持つ競走能力がいつ最大値を迎えるのか、出走時点で最大能力からどれだけ割り引けばいいのかを示すものである。
ディープインパクトは325日生まれと、当時としては極めて平均的な誕生日だったし、コントレイルに至っては、これも平均的だが41日生まれであった。
いくら年長でも、年少でも、基本的な競走能力の個体差を覆すほどにはなりえないのだ。
図表416-3として、2022年の芝G1級競走の勝馬延べ22頭の誕生日をおまけとして付けておいた。
3
頭がG12勝したので19頭分だが、誕生日という視点で見ると興味深いかもしれないと思った。
なお、平均的な誕生日は、凡そ3月下旬から4月上旬である。
(SiriusA+B)

(図表416-1)誕生日別勝率(11日から、10日ごとにまとめたもの)
1/1から何日目か 全体勝利回数 全体出走回数 全体勝率 同歳戦勝利回数 同歳戦出走回数 同歳戦勝率 古馬戦勝利回数 古馬戦出走回数 古馬戦勝率
1から10日まで 64 983 6.5% 35 551 6.4% 29 432 6.7%
11から20日まで 503 5,821 8.6% 274 2,834 9.7% 229 2,987 7.7%
21から30日まで 1,288 14,907 8.6% 691 7,301 9.5% 597 7,606 7.8%
31から40日まで 2,049 24,351 8.4% 1,045 11,874 8.8% 1,004 12,477 8.0%
41から50日まで 2,544 33,275 7.6% 1,317 16,693 7.9% 1,227 16,582 7.4%
51から60日まで 2,777 38,776 7.2% 1,479 20,230 7.3% 1,298 18,546 7.0%
61から70日まで 3,509 47,576 7.4% 1,811 23,942 7.6% 1,698 23,634 7.2%
71から80日まで 3,367 50,607 6.7% 1,800 26,739 6.7% 1,567 23,868 6.6%
81から90日まで 3,914 57,150 6.8% 1,972 29,301 6.7% 1,942 27,849 7.0%
91から100日まで 3,722 54,541 6.8% 1,914 28,503 6.7% 1,808 26,038 6.9%
101から110日まで 3,547 52,877 6.7% 1,788 27,213 6.6% 1,759 25,664 6.9%
111から120日まで 3,289 50,093 6.6% 1,622 25,757 6.3% 1,667 24,336 6.8%
121から130日まで 2,791 40,626 6.9% 1,307 20,489 6.4% 1,484 20,137 7.4%
131から140日まで 1,843 26,672 6.9% 865 13,913 6.2% 978 12,759 7.7%
141から150日まで 981 16,214 6.1% 466 8,608 5.4% 515 7,606 6.8%
151日以降 459 7,404 6.2% 195 3,665 5.3% 264 3,739 7.1%

(図表416-2)クラス別最年長馬または最年少馬の勝率
競走クラス 集計対象 勝利回数 出走回数 勝率
2歳新馬 最年長馬 308 2,623 11.7%
3歳新馬 最年長馬 57 637 8.9%
2歳未勝利 最年長馬 381 3,660 10.4%
3歳未勝利 最年長馬 684 9,322 7.3%
2歳500万下 最年長馬 44 393 11.2%
3歳500万下 最年長馬 162 1,573 10.3%
3歳1000万下 最年長馬 0 3 0.0%
2歳オープン 最年長馬 36 337 10.7%
3歳オープン 最年長馬 54 594 9.1%
3歳上500万下 最年少馬 526 6,106 8.6%
4歳上500万下 最年少馬 291 3,584 8.1%
3歳上1000万下 最年少馬 430 2,738 15.7%
4歳上1000万下 最年少馬 234 2,137 10.9%
3歳上1600万下 最年少馬 187 1,094 17.1%
4歳上1600万下 最年少馬 134 942 14.2%
3歳上オープン 最年少馬 127 1,019 12.5%
4歳上オープン 最年少馬 96 766 12.5%
同歳戦計 最年長馬 1,726 19,142 9.0%
古馬戦計 最年少馬 2,025 18,386 11.0%
合計 - 3,751 37,528 10.0%

(図表416-3)2022年中央競馬芝競走G1級勝馬の誕生日
レース 勝馬 勝馬誕生日
高松宮記念 ナランフレグ 2016年4月5日生
大阪杯 ポタジェ 2017年2月4日生
桜花賞 スターズオンアース 2019年2月27日生
皐月賞 ジオグリフ 2019年2月25日生
天皇賞(春) タイトルホルダー 2018年2月10日生
NHKマイルカップ ダノンスコーピオン 2019年2月22日生
ヴィクトリアマイル ソダシ 2018年3月8日生
優駿牝馬 スターズオンアース 2019年2月27日生
東京優駿 ドウデュース 2019年5月7日生
安田記念 ソングライン 2018年3月4日生
宝塚記念 タイトルホルダー 2018年2月10日生
スプリンターズステークス ジャンダルム 2015年4月25日生
秋華賞 スタニングローズ 2019年1月18日生
菊花賞 アスクビクターモア 2019年4月1日生
天皇賞(秋) イクイノックス 2019年3月23日生
エリザベス女王杯 ジェラルディーナ 2018年5月12日生
マイルチャンピオンシップ セリフォス 2019年3月7日生
ジャパンカップ ヴェラアズール 2017年1月19日生
阪神ジュベナイルフィリーズ リバティアイランド 2020年2月2日生
朝日フューチュリティ ドルチェモア 2020年2月21日生
有馬記念 イクイノックス 2019年3月23日生
ホープフルステークス ドゥラエレーデ 2020年1月29日生

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