2010年生まれのインカンテーション号は、2歳夏の新馬戦でデビューし8歳まで走った。
レパードステークス、みやこステークス、平安ステークス、マーチステークス、武蔵野ステークス、地方の白山大賞典(金沢)のG3を制し、フェブラリーステークスで2着に入るなど、素晴らしい競走成績を修めた。
種牡馬となって、80頭以上の産駒を世に送り出し、2024年7月末現在、中央競馬で2勝を挙げている。
インカンテーション号の新馬戦は、中京芝1400m戦、15頭立て15番人気、結果は15着である。
人気もなかったが、まったくいいところもなかった。
4戦目からダートに転向、これが功を奏した。
しかし、新馬戦を終えた時点で、誰がこの馬を10勝(地方JPN3の1勝を含めて11勝)するG3馬になると想像できただろうか。
比較的本命寄りの馬に注目する馬券投票者には、ビリすなわち最下位の馬になかなか関心を向けられない。
アナログ評価でも、スピード指数でも何でも構わないが、わたしたちはどうしても着順に従い、下位成績の馬にまで序列を与えてしまう。
例えば16頭立て1着馬に16点の評価を与え、16着の馬は評価点1点を与えるようなイメージだ。
もちろん、見所があったり、不利を考慮したりして、評価の上げ下げをするかもしれないが、凡そ「9着の馬を10着の馬より評価する」「12着の馬を13着の馬より評価する」といった方法をとる。
それはそれで正しいのかもしれないけれど、一方で、下位の馬は充分に力を発揮できていない可能性があり、序列化したような評価点で果たしてよいのかどうか、と思うこともあるのである。
もしかしたら、ある競走では成績参考外或いは「11着以下はすべて6点」などとしたほうが妥当な場合もありはしないかということである。
馬は全力で走っているが、同じ全力でも「火事場の馬鹿力」のように真剣度によって差異があるかもしれない。
レースへの集中具合ともいえる。
成長を除けば、これが上積みや変わり身の正体ではないかと思われる。
問題は、下位の着順に終わった馬が、果たして実力不足か、レースに集中できなかったか、そのあたりを判別するのが非常に難しそうだということである。
そこで、ビリすなわち最下位に終わった馬に注目して、その判別方法を考えようとしたのが今夜のお話である。
成績下位といっても、どこから実力を発揮できなかったか判断するのは簡単でない。
最下位であれば、レースに集中できなかった馬の比率は高かろうと考えた次第である。
いつものこのブログ用のデータベース、2011-2023年中央競馬平地競走で最下位になった馬を抽出した。
過去及び将来成績のリソースの関係上、最下位馬のうち、2009年産駒から2020年産駒に絞っている。
完走した馬に限っているので、競走中止などは除いてある。
数え間違いはご容赦願いたいが、延べ26,409頭、実頭数では18,129頭いた。
同着を考慮しなければ、競走数=1着馬数=最下位馬数、である。
最下位馬も1着馬と同じくらいの精度で調べることができるのだ。
ただし、ビリを最後に出走しない馬も多いところは1着馬と異なる点である。
▼将来勝利したのは15.7%
この記事では、ビリなってからその後走って1勝以上した馬をV馬、その後走ったけれども勝てなかった馬をN馬と呼ぶ。
中央競馬平地競走で走った馬は、だいたい30%ちょっとくらいが1勝するのだが、V馬は延べ頭数で13.8%、実頭数で15.7%ほどいる(図表483-1)。
意外に多い、という印象を持つ人もいるような数字である。
ビリになるのは何戦か走った後の馬も多いから、もともと1勝以上しているV馬・N馬もいる。
実頭数ベースで、最初にビリになったあとの成績を見てみると、V馬の勝率は9.8%もあり(全体では約7%を基準に考えればよいから3%近く上回っているということ)、単勝回収率の理論値でも163%にもなる。
ずっと単勝を賭け続けたら大黒字になるということだ。
もちろん、V馬とN馬の仕分けができなければ、勝率は4.1%、単勝回収率の理論値は67.3%である。
最下位にしては「健闘している」という数字だが、低調のは間違いない。
最下位経験馬(すなわちV馬)が良く飛び込んでくるのはなぜ、という思っている人には「実頭数ベース将来出走回数」を見てもらうといいかもしれない。
N馬の出走回数が頭数のわりに少ないからなのだ。
同じ最下位でも将来の見込みがないと判断されれば早々に退場するのである。
(図表483-1)ビリになった馬(2011-2023年の期間内に出走した馬で2009-2020年産駒、成績も2011-2023年)
調査対象 | 延べ頭数 | 実頭数 | 実頭数ベース将来勝利回数 | 実頭数ベース将来出走回数 | 実頭数ベース勝率 | 実頭数ベース単勝回収率 |
V馬 | 3,654 | 2,844 | 4,615 | 46,855 | 9.8% | 163.2% |
N馬 | 22,755 | 15,285 | 0 | 66,756 | 0.0% | 0.0% |
合計 | 26,409 | 18,129 | 4,615 | 113,611 | 4.1% | 67.3% |
V馬の割合 | 13.8% | 15.7% | 100.0% | 41.2% |
実際、ビリになった中には良い馬も多いのだ。
実頭数18,129頭のうち、生涯で(2023年12月末までに)1勝以上した馬は8,141頭で44.9%の割合である(図表483-2)。
これは、昇級直後にビリになったような実力馬も含まれるためだと思われる。
良い馬もいる、どころではない。
むしろ優秀か、という感じでもある。
ビリになったのは何だったの、とわたしたちは問いかけたいくらいである。
ただし、これは結果論であり、根本的にV馬とN馬を峻別できなければ(たとえ完璧でなくとも)、闇雲に賭けていけば人並み以下の成績に陥る。
そのあたりを考察したいのだが、長くなったので次の夜に回すことにする。
(図表483-2)生涯勝利数別実頭数(2011-2023年の期間内に出走した馬で2009-2020年産駒、成績も2011-2023年)
生涯勝利数 | 全体頭数 | V馬頭数 |
0 | 37,829 | 9,988 |
1 | 8,263 | 3,665 |
2 | 4,323 | 1,971 |
3 | 2,821 | 1,315 |
4 | 1,560 | 707 |
5 | 665 | 309 |
6 | 267 | 98 |
7 | 122 | 54 |
8 | 45 | 17 |
9 | 11 | 3 |
10 | 8 | 2 |
11 | 1 | 0 |
12 | 1 | 0 |
13 | 1 | 0 |
1勝以上馬小計 | 18,088 | 8,141 |
合計 | 55,917 | 18,129 |
1勝以上馬割合 | 32.3% | 44.9% |