2025年6月15日日曜日

第521夜 ジョッキーカメラと馬のサイズ


▼こっそりモンキースタイルで映像を観る
オークス、ダービーのジョッキーカメラ映像をご覧になっただろうか。
JRA
が公開している。
パトロールビデオとともに、超一級の資料と思っている。
わたしは、いろいろなポイントに注意を払いながら観ている。
ポイントは、人それぞれであろう。

勝ち馬については、画面左肩に速度メーターまで表示されており、「良い時代だなぁ」と思う。
東京芝2400mという同じ舞台ということもあるが、優駿牝馬、東京優駿とも、勝ち馬の速度は似た動きであった。
スタート直後にポジション争いで時速6667km/hに達し、中盤は54から60km/hで推移、後半の勝負どころで65km/h前後にギアを上げる。
長年、競馬を観ていると、具体的な速度は分からなくてもイメージ通りだと思うが、後半、ギアを上げた後、ゴールまで徐々に速度が低下していくことは、ご存知の方とそうでない方に分かれるのではないだろうか。
オークスの映像では土塊(つちくれ)がカメラに飛んできて分かりにくいが(Mデムーロ騎手のカメラも同様)、勝ち馬は速度を上げながらライバル馬を追い抜いていくのではなく、ボトボトと脱落していく中、踏ん張るのだ。
両レースとも、勝ち馬のゴール時点の速度は6061km/hくらいではないか。
ペースの緩急をジョッキーカメラで擬似的に体感することまでは難しいが、車を運転するように、チラチラと速度メーターを見て速度感覚を補う。
ちょっとね、誰も見ていない部屋で鍵をかけ、モンキースタイルになって騎乗する気持ちで再生してみよう。
前提として、お馬さんが500kg近くあるとイメージした上で。

馬は御すと言う。
わたしたちは競馬に慣れてしまって「乗る」と言うが、実態は「制御する」である。
騎手は、自由に操ると言うには程遠く、まさに制御しているのだ。
人間より何倍も重く、腕力は強く、走れば車並みに速い。
生命体として、馬と人間では力が違い過ぎるのである。
騎手が馬を持ち上げられるはずもなく、押して動かせるわけではなく、指示を出すから動く。
いや、動いてもらう。
首をゴリゴリしごいて速度を上げることもあるけれど、速度の上げ下げも指示によってできる。
わたしなど、モンキースタイルになって、ジョッキーカメラを再生しながら、60km/hという速さに恐怖を感じた。
おそらく、現実なら、しがみつくのが精一杯だ。
たとえ屈強な若い男性でも、「そりゃあ騎手の巧拙は関係あるが、基本は馬だよね」と思うに違いない。
今更ながら、競馬はスポーツである。
騎手はスポーツ選手なのである。

▼大型馬
騎手の騎乗を初めて想像し得たのなら、ここから何か馬券の知見も得たい。
個人の名前が含まれるので表を掲出しないが、2022-2024年の3年間で、騎手個別に、大型馬とそれ以外の馬で勝率の差異を求めたのである。
馬体重出走時のもので、20kg単位に区切り、繰り上げて540kg以上を大型馬と定義した。
期間を3年間としたのは、加齢による影響を極力抑制したいと思ったからである。
ずらっと並べてみたのだが、多くの騎手で、大型馬とその他の馬の勝率差は小さかった。
全体的には、大型馬騎乗成績は、その他の馬騎乗成績よりやや低めに出る。
一般に、馬は大きいほど成績が良い。
但し、540kgを超える大型馬は成績が少し下がることはご承知の通りだ。
それ故のことだ。

その中で、大型馬騎乗成績のほうが僅かに良い騎手も少数ながら、いた。
こうした騎手は、トップジョッキーかどうかとか、加齢とか、そうした傾向は見受けられないのである。念のため、10年ほどの長い期間でも同じ検証をしたが、全体としてベテラン勢が加齢による低下傾向、若手の成績向上傾向はあるものの、大型馬で良績の騎手はどちらの期間でも同じように良績だった。
トップジョッキーでも、中堅クラスの騎手でも、大型馬が得意な人は得意だし、苦手な人は苦手なのだ。
違いは筋肉か?
若いときから「あの人はよく筋トレしている」と言われた名手は、ベテランとなった今でも大型馬での成績は良い。
他方、剛腕と言われる騎手が案外だったりする。
女性騎手は総じて大型馬騎乗成績は良くなかった。
馬を御すのは総合力とはいえ、やはりスポーツ、筋力も大切な要素なのだろう。
もしかすると、大型馬の成績が少し下がるのは、制御しにくいからというのも理由のひとつかもしれない。
表を載せられないのが残念だ。
なかなか興味深いので、ぜひ調べていただきたいと思う。

(SiriusA+B)

2025年6月8日日曜日

第520夜 動乱の時代が来た(生成AIの戦いへ)


▼コンピュータと予想の歴史
わたしは、宇宙戦艦ヤマト劇場版2作と銀河鉄道999劇場版2作でできている。
性格形成期に与えられた影響は大きかった。
このうち、さよなら銀河鉄道999〜アンドロメダ終着駅〜は、前作より、「機械化人対生身の人間の対決」という物語の舞台が前面に押し出され、親と子、機械を通して生命の尊さを描いていく。
映画の公開は1981年、この記事より約半世紀前に描かれたもので、当時の機械化人とは、人間の体を機械化するものだった。
ファンタジーと呼ぶに相応しい、今も色褪せぬ設定だが、半世紀後の今、わたしたちは事実上「機械化人対生身の人間の対決」戦争に突入しつつある。
気付いているだろうか。
わたしたちはコンピュータと共に生きているのである。
体ではなく、脳をサポートし、生活のあらゆるところでサポートされている。
このブログでAIについて触れたのは2016年だったか、それから約10年である。
現在の流行の最先端は生成AIで、驚くべき進化を遂げている。
前夜第519夜の末尾には、その辺のよりちょっと賢めの生成AIに書かせた、記事の要約を付けておいた。
ダラダラ書いた第519夜は「要するにこういう内容ですよ」とAIがまとめた。
わたしより分かっているじゃん……。

賭け事と統計学は、切っても切れない関係だ。
統計ということは、データ処理である。
競馬はまさにデータのスポーツで、技術の進展によりデータは増え、処理能力やデータ解析のアイデアが追いつこうとする、その競争と捉えることもできる。
本格的には、1990年代からスピード指数で始まった。
統計学やニューラルネットワーク理論が競馬予想の世界にも顔を見せ始め、数量化1類、機械学習、ディープラーニングなどを用いる人も出てきた。
コンピュータを動かす力も進化し、RPAやノーコードのアプリを使いこなす予想もある。
そして、生成AIである。
初期こそ大した使い道はなかったが、今や何でもできる。
チャットGナントカは、爆発的ブームから僅かな月日で進化し、今や幾つもの生成AIが覇を競う。
予想そのものには用いられないとはいえ、生成AIによって予想法の開発も考えられるようになってきた。
プログラムですら作成するのだ。
お仕事で生成AIを使う人も増えただろう。
わたしも、長い時間を掛けて作成したVBAプログラムと同様のものを作らせたが、何度か修正指示を出しながらも15分足らずでで完成されてしまった。
わたしが中身を見て修正を命じる時間が掛かっただけで、コードの記述はそれほど掛かっていない。
幸い、というか。生成AIは非構造化データに強いが、構造化データには未だ弱いので当面の時間は稼げる。
ただし日進月歩だから、1年後には分からない。
生成AIの流行が終わり、次のブームが到来しているかもしれない。

▼現代版機械化人
これからの競馬予想の主流は、いわゆる本格的に予想するような人の場合、コンピュータを使いこなす方法に移るだろう。
今もそうだと思うなら敢えて申し上げるが、そういうレベルではないと覚悟しておいたほうがいい。
技術の進化も速いため、置いていかれないようにするのもたいへんな時代になった。
まさに、動乱の時代が来た。

何故、動乱の時代か。
何故、生身の人間との戦争か。
現代版機械化人とは、機械を使う人ではなく、使いこなす人である。
スマホを使っていれば機械化人、ではない。
スマホをサクサク動かすというのは違うから。
朝の通勤電車で、或いは雑踏の中で、スマホを手放せない人たちのほとんどは、動画やゲーム、お買い物に興じているが、たとえ操作が迅速でも、ただのコンテンツ利用者に過ぎない。
頭脳として活用していないから生身の人間である。
機械化人になりきれない人は脱落するか、機械化人の予想に頼るしかない。
適当な予想が少なくなり、より高度な戦いになっていく。

だが、ふたつの点で安心してほしい。
ひとつは、先程お話しした通り、コンピュータを使いこなせる機械化人は、当面の間、限られることだ。
ちょっとした使い方なら分かる、そういう人は多い一方で、使いこなせる人は少数に留まる。
お仕事で見ていると、マウスをのんびり動かしている人がほとんどで、アプリやシステムの入力程度だ。
生成AIでプログラムを作らせても実装までできる人は僅かである。
脳味噌の補助道具、外部記憶装置・外部計算装置に至るレベルは簡単ではない。

もうひとつは、情報を活かせる能力すなわち予想技術、ノウハウの開発能力だ。
今でも、わたしから見れば、凄い技術で「間違った/勘違いした予想法」を「正しく実行」しているだけに過ぎないものもあるように思える。
結局のところ、アイデア勝負という点では、今も昔も大差はない。

なお、予想法の秘匿性を良いことに、「AI予想」と銘打っているにも関わらず、AIどころか、予想紙などの予想を借りているだけの詐欺的予想屋も跋扈しているから注意されたい。
紹介文を読めば、いかにも素人なのが明らかなものも多いが、コンピュータに疎いと自覚できる人は、AIと書いてあれば手を出さない方がいい。

(SiriusA+B)

2025年6月1日日曜日

第519夜 牝馬はデリケート


▼牝馬の馬体重の推移
たいへん情けない話だが、過去に月別の馬体重の推移表を作成したものの、どこだったか忘れた。
当時は、サンプルが少ないとかなんとか言って、牝馬の分析をしていなかったように思う。
改めて、牡馬も集計し直し、牝馬を含めて馬体重の月別推移を調べたのが、図表519-1である。
いつものこのブログ用データベース2011-2024年中央競馬平地競走出走馬から取得した。
7
歳以降については省略する。
6
歳もサンプルが少ないので、参考程度に。

牡馬については比較的単純で、馬体重は1月に最も重くなり、7乃至8月に最も軽くなる。
念のため15戦以上した馬に絞って検証したが、結果は同様であった。
細かく見れば、4月から6月くらいの間は、一旦馬体重の減少が止まる、または極めて緩やかな増加がみられる。
季節、成長、代謝(加齢とともに代謝が少なくなる)、の3要素で馬体重は推移する。
高齢になるほど、減少より増加が目立つようになる。

ところが、牝馬は牡馬とは異なる。
馬体重のピークは10月で、4月が最も軽くなる。
細かく見ていくと複雑で、4月のほか、7月や11月にも、ちょこっと減少するのである。
こちらも15戦以上した馬限定でも検証してみたが、ほぼ同じ傾向を示した。
牡馬に比べて短期間の周期を繰り返しているようだ。
牝馬の調整は難しい、というのも頷ける。

(
図表519-1)性別・月別の出走馬平均馬体重(単位kg)

牡馬騙馬 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2歳 463.1 463.6 465.2 468.4 471.8 474.2 476.1
3歳 478.4 477.5 476.7 475.4 475.6 476.3 475.1 476.4 478.2 481.7 483.0 485.3
4歳 488.0 486.3 485.4 484.2 484.5 484.2 482.6 482.7 483.8 486.2 486.8 489.7
5歳 491.6 489.8 488.9 487.6 488.2 486.8 485.4 484.8 485.7 487.7 489.0 491.6
6歳 494.6 492.3 491.2 488.5 488.8 488.9 486.2 486.1 487.3 489.0 489.7 492.7
牝馬 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2歳 441.3 441.8 443.3 446.7 448.1 448.7 449.0
3歳 450.1 448.4 449.2 448.1 449.2 450.7 450.2 451.6 454.6 459.2 458.3 460.6
4歳 462.0 458.7 460.0 459.2 460.5 461.7 461.7 463.3 464.9 466.7 464.6 466.5
5歳 467.7 466.4 466.7 465.7 467.3 468.0 466.7 467.3 469.4 470.6 468.7 470.6
6歳 471.8 469.8 469.2 468.3 470.5 470.4 468.6 470.6 472.9 473.0 471.7 472.2
15戦以上牡馬騙馬 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2歳 464.1 465.3 467.4 469.8 472.8 475.6 476.8
3歳 478.8 478.0 476.0 475.3 475.6 476.0 474.8 475.9 477.2 480.4 482.0 484.0
4歳 486.9 485.5 484.7 483.2 483.3 483.0 481.5 481.3 482.7 485.7 485.9 489.3
5歳 491.0 489.0 488.4 487.1 487.8 486.3 484.4 484.2 485.0 486.9 488.4 490.8
6歳 494.0 492.0 491.0 488.6 488.3 488.6 485.2 485.6 486.6 488.7 489.2 492.2
15戦以上牝馬 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2歳 444.9 447.7 448.7 451.0 451.9 452.4 452.9
3歳 454.3 451.7 451.5 451.3 451.6 453.1 453.1 454.5 456.9 459.1 457.8 459.8
4歳 462.0 458.5 460.3 459.3 460.5 461.5 461.8 462.5 464.4 466.1 464.2 466.4
5歳 467.7 466.0 466.6 465.6 467.0 467.9 466.9 467.3 469.5 470.5 468.3 469.9
6歳 471.5 469.7 469.8 468.0 471.3 470.3 468.6 471.1 473.4 473.2 471.7 472.9

▼馬体重と好不調

図表519-2は牡馬、牝馬の成績をプロットしたものである。
出走頭数や牡・牝の出走比率により全体の勝率も月々で変動するのだが、ここでは細かな調整をしないそのままの数値を載せた。
牝馬の集計では、牝馬限定戦を除いている。
図表519-1と併せてご覧いただくと、牝馬は馬体重の増減と呼応するかのように、4月、11月あたりの勝率が低くなっていることが分かる。
反対に、牝馬の馬体重のピークは10月頃で、この頃の成績は良い。
ちなみに、4歳牝馬だけはこの傾向からひと月ずつずれていて、5月、12月の成績が芳しくなく、11月の成績が良い。
これについては、理由は分からない(集計上の手違いであれば申し訳ない)
7
月は、牡馬・牝馬とも体重下降期で特徴的な傾向はつかめなかった。
1
月は牡馬の馬体重がピークの時期であり、割を食う形で牝馬の成績が低下している。
ここには載せていないが、芝コースに限っても同じような傾向であったから、「1月は牝馬の苦手なダート戦が多く組まれているから」ということはなさそうだ。

ここまで見てきたように、牡馬、牝馬の体重増加期・減少期と成績には緩やかとはいえ相関関係があるようだ。
競馬は、馬という動物の競走である。
個体ごとに調子の波はあるけれど、生物学的にも波はある。
この「波」を踏まえると、なぜ、牝馬は好調が続きにくいのか、なぜ、4月に成績が良くないのか、といった疑問を解消する糸口になるかもしれない。

好調維持の参考として、図表519-3を載せておきたい。
3
連勝した延べ頭数を性別で分けてみた。
興味深いことに、厳しい時期を跨がない秋に達成する馬が多い。
(SiriusA+B)

(
図表519-2)性別・月別の勝率(牝馬については牝馬限定戦の成績を除く)

牡馬騙馬 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
3歳 6.50% 6.20% 6.30% 7.20% 6.80% 8.00% 7.20% 7.90% 8.60% 9.90% 10.90% 9.80%
4歳 8.30% 10.00% 8.10% 10.80% 10.40% 8.30% 5.10% 7.60% 6.00% 7.40% 7.10% 6.60%
5歳 7.90% 6.20% 9.80% 6.80% 6.10% 4.40% 4.80% 4.20% 3.30% 5.10% 3.10% 3.50%
牝馬(牝馬限定戦除く) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
3歳 2.50% 6.20% 5.20% 4.00% 4.80% 5.60% 5.30% 6.00% 6.10% 9.70% 4.30% 6.90%
4歳 6.60% 7.40% 9.50% 6.70% 5.00% 6.50% 8.40% 6.50% 5.10% 4.40% 7.20% 4.20%
5歳 2.60% 9.00% 7.20% 4.90% 5.60% 4.70% 5.80% 2.10% 2.40% 5.60% 1.80% 1.80%

(図表519-3)月別3連勝達成延べ頭数(例えば、4連勝だと2回カウント)

3連勝達成日 牡馬 牝馬
1月 43 7
2月 55 10
3月 55 18
4月 46 18
5月 48 9
6月 38 7
7月 34 15
8月 30 18
9月 29 13
10月 49 25
11月 64 20
12月 61 23
合計 552 183

(こちらの話は次の夜にでも)
このドキュメントは、競馬における牡馬と牝馬の馬体重の推移と成績の関係について分析しています。特に、牝馬の馬体重の変動が成績に与える影響に焦点を当てています。

・牡馬と牝馬の馬体重の傾向: 牡馬は1月に馬体重が最も重く、7月から8月にかけて軽くなりますが、牝馬は10月にピークを迎え、4月に最も軽くなります。

・牝馬の調整の難しさ: 牝馬は短期間の周期で馬体重が変動し、調整が難しいことが示されています。

・成績と馬体重の相関: 牝馬の成績は、馬体重の増減と相関があり、特に4月と11月に勝率が低下します。

・特定の年齢層の傾向: 4歳牝馬は他の年齢層と異なり、成績が5月と12月に芳しくない傾向があります。

3連勝の達成状況: 3連勝を達成する馬は、秋に多く見られ、特に牡馬の方が多いことが示されています。

・月別の勝率: 牡馬と牝馬の月別勝率が示され、特に牡馬の方が全体的に高い勝率を示しています。

 

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