2025年8月31日日曜日

第531夜 わたしは根幹距離よりメジャー・マイナー距離で


メジャー、マイナー
根幹距離とは、400で割り切れる競走距離をそう呼ぶそうだ。
名付け親、ことばの広がり方は皆さんご存知のことと思うが、競馬歴の長い人であれば、呼び方はともかく頭にぼんやりでも意識しているものである。
日本の競馬において、マイルは1,600mをいう。
これを起点にしているから、2,000m1マイルと4分の1などと表現することもできる。
G1
競走では400で割り切れないのは、宝塚記念、有馬記念、菊花賞、エリザベス女王杯、ダートのチャンピオンズカップの5競走に過ぎない(確か……)
こうしたこともあって根幹距離ということばが広まりやすかったのだろうと思う。
わたしのほうでは、根幹距離と少し異なるが競走距離から「メジャー」「マイナー」に分けることがある。
競走距離の平均は少しずつ変わってきているので今後入れ替わりはあるかもしれないけれど、10種類の競走距離で全体の85%をカバーしている。
芝では2,000m1,800m1,600m1,400m1,200m5種類。
ダートでは1,800m1,700m1,600m1,400m1,200m5種類。
施行回数では他の距離を大きく引き離しており、主催者が確固たる意図を持っているとわたしは考えている(知らんけど)
わたしはこの10種類を「メジャー」、それ以外を「マイナー」と仮称する。
メジャーとマイナーに分ける方法は分かるが、なぜ分けるのか。
疑問に思う人もいるだろう。
これにはわたしの距離適性に関しての考えが背景にある。

距離適性を織り込みすぎ
わたしは、ステイヤー・マイラー・スプリンターといった凡その距離、細かくは1ハロンの増減も距離適性として否定はしない。
むしろ、かなり重要なのかなとも考えている。
1,400mでやたらと強いが1ハロンの増減で勝ち切れない馬だっている。
これを距離適性と言わずしてなんと言おう。
ただ、わたしは個々の馬が持つ適正な距離適性だけで説明できないこともあると思っている。
そのひとつが母集団である。
メジャー距離に比べて、マイナー距離競走では競争相手が少ない。
2,400m
でも2,000mでも帯に短く襷に長し、2,200mが最適というケースはあるだろう。
それに加えて2,200mなら相手が手薄ということはないだろうか、ということである。
1
ハロン違うだけで母集団の分厚さから逃れられ、勝機がある。
そう考える陣営は多いのではないだろうか。
換言すれば「マイナー競走のレベルは母集団が小さくメジャーほど高くはないのではないか」という仮説だ。

この仮説を検証しようとしたのが図表531-1である。
新馬戦・未勝利戦を除く平地競走において、出走各馬の1勝目がメジャーかマイナーかで勝率に差異が生じるかを調べた。
いつものデータベース、2011-2024年平地競走で2009年生まれ以降の中央競馬1勝以上の馬を対象にした。
やや荒っぽい分け方だと思ったが、結果はご覧の通りで、勝率に差が出た。
特に今走がメジャーの場合、勝率差は大きく、全体の傾向としては、1勝目がマイナー勝利馬だったらやや割り引きである。
今走がマイナーの場合は、その差が縮小する。
やはり、距離適性や経験というものがあるのだろうと推察する。
だからといって、単純に「買い」と判断するのには同意しかねる。
理論上の単勝回収率を最右欄に記載したが、オッズは距離適性を過剰に織り込み、回収率が低くなる傾向にある。
地力で勝るメジャー馬がいるなら、その距離が未経験でも容易く勝利をかっさらうことがある。
出走してくる限り、陣営は距離適性上問題ないとみていると思って差し支えない。
そうすると、実走した経験の差程度しかない。

(SiriusA+B)

(図表531-1)出走馬1勝目勝利コース別成績
(2011-2024年中央競馬平地競走で、2009年以降産駒で未勝利馬を除く。メジャー・マイナーコースは記事本文参照。回収率は単勝理論値)
今走競走条件 クラス 出走馬1勝目競走条件 勝利回数 出走回数 勝率 回収率
メジャーコース 1勝クラス メジャーコースで1勝目 1,925 21,946 0.088 0.765
メジャーコース 1勝クラス マイナーコースで1勝目 98 1,596 0.061 0.678
メジャーコース オープン メジャーコースで1勝目 942 11,279 0.084 0.717
メジャーコース オープン マイナーコースで1勝目 28 627 0.045 0.600
メジャーコース 古馬1勝クラス メジャーコースで1勝目 6,964 85,284 0.082 0.758
メジャーコース 古馬1勝クラス マイナーコースで1勝目 460 6,814 0.068 0.791
メジャーコース 古馬2勝クラス メジャーコースで1勝目 4,051 51,470 0.079 0.734
メジャーコース 古馬2勝クラス マイナーコースで1勝目 257 4,112 0.063 0.912
メジャーコース 古馬3勝クラス メジャーコースで1勝目 1,748 22,798 0.077 0.845
メジャーコース 古馬3勝クラス マイナーコースで1勝目 94 1,726 0.054 0.713
メジャーコース 古馬オープン メジャーコースで1勝目 1,438 20,236 0.071 0.751
メジャーコース 古馬オープン マイナーコースで1勝目 65 1,008 0.064 0.633
マイナーコース 1勝クラス メジャーコースで1勝目 139 1,342 0.104 0.924
マイナーコース 1勝クラス マイナーコースで1勝目 26 290 0.090 0.820
マイナーコース オープン メジャーコースで1勝目 112 1,493 0.075 0.610
マイナーコース オープン マイナーコースで1勝目 4 151 0.026 0.193
マイナーコース 古馬1勝クラス メジャーコースで1勝目 1,194 13,590 0.088 0.810
マイナーコース 古馬1勝クラス マイナーコースで1勝目 563 6,028 0.093 0.717
マイナーコース 古馬2勝クラス メジャーコースで1勝目 701 8,300 0.084 0.796
マイナーコース 古馬2勝クラス マイナーコースで1勝目 230 2,944 0.078 0.717
マイナーコース 古馬3勝クラス メジャーコースで1勝目 281 3,454 0.081 0.863
マイナーコース 古馬3勝クラス マイナーコースで1勝目 72 913 0.079 0.762
マイナーコース 古馬オープン メジャーコースで1勝目 296 3,941 0.075 0.624
マイナーコース 古馬オープン マイナーコースで1勝目 45 626 0.072 1.089


2025年8月24日日曜日

第530夜 ジョッキーはすべての騎乗で予習しているのだろうかというくだらない疑問を赦してほしい


▼「ジェット噴射騎手」を思い出し
馬券の検討をするとき、貴方は第1競走から予想していくだろうか。
或いは、メインレースから予想するだろうか。
基本的にすべてのレースを買うという人ならば、おそらく前者が多いだろう。
多くの競馬ファンは後者かもしれない。
メインレースを予想して、準メイン競走を予想して、他場のレースを検討して、未勝利戦、新馬戦は……まあいいや、寝るか。
といった具合ではないかと思うが、いかがであろう。
わたしたちは、大切なお金を賭けるとはいえ、これくらいの緩さを持っているのだけれど、騎手になったつもりで前夜の検討を考えると興味深いと思ったのである。
馬券の検討では1日最大36レース、このレース展開を予想するとアップアップになる。
では、騎手の皆さんは前夜に調整ルームでどこまで考えているのだろう。
騎手の皆さんは、予想紙を見ることもできるらしい(日本語の読めない騎手はどうしてるの?)
1
日最大12鞍、第1競走から順に予想しているのか。
それとも、数多く騎乗する場合は、有力馬に絞って展開予想を描いているのだろうか。

記憶違いでなければ1990年代のことだと思うが、故・かなざわいっせいさんの「ジェット噴射騎手」を、最近思い出す機会があった。
「八方破れ」というもので単行本にもなったコラムで、週刊競馬ブックに連載されていた。
わたしはこの連載が大好きで、このコラムから読むことが多かった。
ジェット噴射騎手とは、その日の騎乗機会が1鞍で、これに全力投球するから勝ち敗けになる、みたいな予想術だったように思う(違っていたら申し訳ない)
ということは、何鞍も騎乗する騎手は、有力馬のことで頭がいっぱいで、ほかの馬のことはあまり検討しないのではないかという、意地悪な発想をしていた。
いつか、これを調べたいと。
そして、とうとう調べたのである。

いつものデータベース、2011-2024年中央競馬平地競走で、騎手ごとにその日の騎乗回数と騎乗馬の有力度を順位付けして、気合が入ったり諦めが早かったりしないか検証した。
騎手ごとにはここで記すわけにはいかないので全体のお話だが、まとめたものが図表530-1である。
本来は、突然の騎乗変更を反映すべきだし、最終的な支持率(確定オッズから簡易的に算出したもの)は発走後に分かるもので、騎手もそれを知る由もない。
これを承知の上でご覧いただければと思う。

(
図表530-1)騎手ごとのその日の騎乗回数・有力順別成績(有力順は最終オッズから逆算した支持率順)
その日の騎乗回数 その日の有力順 勝率 支持率
1鞍 1位 0.033 0.031
2鞍 1位 0.058 0.059
2鞍 2位 0.014 0.014
3鞍 1位 0.090 0.087
3鞍 2位 0.033 0.031
3鞍 3位 0.010 0.012
4鞍 1位 0.124 0.116
4鞍 2位 0.050 0.050
4鞍 3位 0.026 0.024
4鞍 4位 0.010 0.011
5鞍 1位 0.145 0.145
5鞍 2位 0.071 0.071
5鞍 3位 0.041 0.040
5鞍 4位 0.025 0.023
5鞍 5位 0.013 0.012
6鞍 1位 0.181 0.177
6鞍 2位 0.095 0.096
6鞍 3位 0.058 0.059
6鞍 4位 0.036 0.038
6鞍 5位 0.022 0.024
6鞍 6位 0.012 0.013
7鞍 1位 0.207 0.206
7鞍 2位 0.119 0.120
7鞍 3位 0.083 0.080
7鞍 4位 0.053 0.055
7鞍 5位 0.037 0.038
7鞍 6位 0.024 0.025
7鞍 7位 0.013 0.014
8鞍 1位 0.232 0.233
8鞍 2位 0.140 0.143
8鞍 3位 0.102 0.100
8鞍 4位 0.069 0.073
8鞍 5位 0.050 0.053
8鞍 6位 0.039 0.038
8鞍 7位 0.025 0.025
8鞍 8位 0.014 0.015
9鞍 1位 0.257 0.259
9鞍 2位 0.161 0.165
9鞍 3位 0.119 0.118
9鞍 4位 0.092 0.090
9鞍 5位 0.065 0.068
9鞍 6位 0.049 0.051
9鞍 7位 0.037 0.037
9鞍 8位 0.027 0.026
9鞍 9位 0.015 0.016
10鞍 1位 0.286 0.280
10鞍 2位 0.177 0.185
10鞍 3位 0.139 0.135
10鞍 4位 0.110 0.105
10鞍 5位 0.081 0.081
10鞍 6位 0.059 0.064
10鞍 7位 0.048 0.049
10鞍 8位 0.039 0.036
10鞍 9位 0.023 0.026
10鞍 10位 0.015 0.016
11鞍 1位 0.284 0.300
11鞍 2位 0.191 0.203
11鞍 3位 0.140 0.152
11鞍 4位 0.120 0.119
11鞍 5位 0.090 0.095
11鞍 6位 0.068 0.075
11鞍 7位 0.063 0.061
11鞍 8位 0.040 0.047
11鞍 9位 0.034 0.035
11鞍 10位 0.030 0.025
11鞍 11位 0.014 0.015
12鞍 1位 0.302 0.307
12鞍 2位 0.183 0.207
12鞍 3位 0.159 0.157
12鞍 4位 0.105 0.121
12鞍 5位 0.100 0.102
12鞍 6位 0.080 0.080
12鞍 7位 0.064 0.065
12鞍 8位 0.050 0.052
12鞍 9位 0.041 0.039
12鞍 10位 0.024 0.029
12鞍 11位 0.023 0.021
12鞍 12位 0.014 0.013

▼ひとつの騎乗機会も無駄にはできない
結果はご覧の通りで、多少の誤差はあるものの、基本的には勝率と支持率がほぼ同じであった。
その日の騎乗は1鞍の「ジェット噴射騎手」も、支持率からみればそれほど乖離していない。
騎乗回数が多い場合も、最も人気薄でさえ馬の実力通りであった。
11
鞍、12鞍ともなると、有力馬順位1位の馬の勝率が低いように思われるかもしれないが、そもそも有力騎手のみで、やや過剰人気気味になっているのではないかと推測される。
考えてみれば、騎手は最大でも12頭、ふつうは23鞍、多くて67鞍しか騎乗できない。
この僅かな騎乗機会で結果を出さねばならないのである。
ひとつの騎乗機会も無駄にはできない。
「まあ、いいか」なんて考える余裕などないのだ。
ということで、ジェット噴射騎手も多数騎乗による「まあ、いいか」的発想も検出されなかった。
わたしたちのような緩さは、ない。
そもそも展開予想的な発想も違うかもしれない。

だけんども、しかし!
ひとりだけ例を挙げると、武豊騎手はこの調査期間内で結果的に11鞍だったことが4度あり、2勝した。
勝率5割である。

(SiriusA+B)

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