2025年8月24日日曜日

第530夜 ジョッキーはすべての騎乗で予習しているのだろうかというくだらない疑問を赦してほしい


▼「ジェット噴射騎手」を思い出し
馬券の検討をするとき、貴方は第1競走から予想していくだろうか。
或いは、メインレースから予想するだろうか。
基本的にすべてのレースを買うという人ならば、おそらく前者が多いだろう。
多くの競馬ファンは後者かもしれない。
メインレースを予想して、準メイン競走を予想して、他場のレースを検討して、未勝利戦、新馬戦は……まあいいや、寝るか。
といった具合ではないかと思うが、いかがであろう。
わたしたちは、大切なお金を賭けるとはいえ、これくらいの緩さを持っているのだけれど、騎手になったつもりで前夜の検討を考えると興味深いと思ったのである。
馬券の検討では1日最大36レース、このレース展開を予想するとアップアップになる。
では、騎手の皆さんは前夜に調整ルームでどこまで考えているのだろう。
騎手の皆さんは、予想紙を見ることもできるらしい(日本語の読めない騎手はどうしてるの?)
1
日最大12鞍、第1競走から順に予想しているのか。
それとも、数多く騎乗する場合は、有力馬に絞って展開予想を描いているのだろうか。

記憶違いでなければ1990年代のことだと思うが、故・かなざわいっせいさんの「ジェット噴射騎手」を、最近思い出す機会があった。
「八方破れ」というもので単行本にもなったコラムで、週刊競馬ブックに連載されていた。
わたしはこの連載が大好きで、このコラムから読むことが多かった。
ジェット噴射騎手とは、その日の騎乗機会が1鞍で、これに全力投球するから勝ち敗けになる、みたいな予想術だったように思う(違っていたら申し訳ない)
ということは、何鞍も騎乗する騎手は、有力馬のことで頭がいっぱいで、ほかの馬のことはあまり検討しないのではないかという、意地悪な発想をしていた。
いつか、これを調べたいと。
そして、とうとう調べたのである。

いつものデータベース、2011-2024年中央競馬平地競走で、騎手ごとにその日の騎乗回数と騎乗馬の有力度を順位付けして、気合が入ったり諦めが早かったりしないか検証した。
騎手ごとにはここで記すわけにはいかないので全体のお話だが、まとめたものが図表530-1である。
本来は、突然の騎乗変更を反映すべきだし、最終的な支持率(確定オッズから簡易的に算出したもの)は発走後に分かるもので、騎手もそれを知る由もない。
これを承知の上でご覧いただければと思う。

(
図表530-1)騎手ごとのその日の騎乗回数・有力順別成績(有力順は最終オッズから逆算した支持率順)
その日の騎乗回数 その日の有力順 勝率 支持率
1鞍 1位 0.033 0.031
2鞍 1位 0.058 0.059
2鞍 2位 0.014 0.014
3鞍 1位 0.090 0.087
3鞍 2位 0.033 0.031
3鞍 3位 0.010 0.012
4鞍 1位 0.124 0.116
4鞍 2位 0.050 0.050
4鞍 3位 0.026 0.024
4鞍 4位 0.010 0.011
5鞍 1位 0.145 0.145
5鞍 2位 0.071 0.071
5鞍 3位 0.041 0.040
5鞍 4位 0.025 0.023
5鞍 5位 0.013 0.012
6鞍 1位 0.181 0.177
6鞍 2位 0.095 0.096
6鞍 3位 0.058 0.059
6鞍 4位 0.036 0.038
6鞍 5位 0.022 0.024
6鞍 6位 0.012 0.013
7鞍 1位 0.207 0.206
7鞍 2位 0.119 0.120
7鞍 3位 0.083 0.080
7鞍 4位 0.053 0.055
7鞍 5位 0.037 0.038
7鞍 6位 0.024 0.025
7鞍 7位 0.013 0.014
8鞍 1位 0.232 0.233
8鞍 2位 0.140 0.143
8鞍 3位 0.102 0.100
8鞍 4位 0.069 0.073
8鞍 5位 0.050 0.053
8鞍 6位 0.039 0.038
8鞍 7位 0.025 0.025
8鞍 8位 0.014 0.015
9鞍 1位 0.257 0.259
9鞍 2位 0.161 0.165
9鞍 3位 0.119 0.118
9鞍 4位 0.092 0.090
9鞍 5位 0.065 0.068
9鞍 6位 0.049 0.051
9鞍 7位 0.037 0.037
9鞍 8位 0.027 0.026
9鞍 9位 0.015 0.016
10鞍 1位 0.286 0.280
10鞍 2位 0.177 0.185
10鞍 3位 0.139 0.135
10鞍 4位 0.110 0.105
10鞍 5位 0.081 0.081
10鞍 6位 0.059 0.064
10鞍 7位 0.048 0.049
10鞍 8位 0.039 0.036
10鞍 9位 0.023 0.026
10鞍 10位 0.015 0.016
11鞍 1位 0.284 0.300
11鞍 2位 0.191 0.203
11鞍 3位 0.140 0.152
11鞍 4位 0.120 0.119
11鞍 5位 0.090 0.095
11鞍 6位 0.068 0.075
11鞍 7位 0.063 0.061
11鞍 8位 0.040 0.047
11鞍 9位 0.034 0.035
11鞍 10位 0.030 0.025
11鞍 11位 0.014 0.015
12鞍 1位 0.302 0.307
12鞍 2位 0.183 0.207
12鞍 3位 0.159 0.157
12鞍 4位 0.105 0.121
12鞍 5位 0.100 0.102
12鞍 6位 0.080 0.080
12鞍 7位 0.064 0.065
12鞍 8位 0.050 0.052
12鞍 9位 0.041 0.039
12鞍 10位 0.024 0.029
12鞍 11位 0.023 0.021
12鞍 12位 0.014 0.013

▼ひとつの騎乗機会も無駄にはできない
結果はご覧の通りで、多少の誤差はあるものの、基本的には勝率と支持率がほぼ同じであった。
その日の騎乗は1鞍の「ジェット噴射騎手」も、支持率からみればそれほど乖離していない。
騎乗回数が多い場合も、最も人気薄でさえ馬の実力通りであった。
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鞍、12鞍ともなると、有力馬順位1位の馬の勝率が低いように思われるかもしれないが、そもそも有力騎手のみで、やや過剰人気気味になっているのではないかと推測される。
考えてみれば、騎手は最大でも12頭、ふつうは23鞍、多くて67鞍しか騎乗できない。
この僅かな騎乗機会で結果を出さねばならないのである。
ひとつの騎乗機会も無駄にはできない。
「まあ、いいか」なんて考える余裕などないのだ。
ということで、ジェット噴射騎手も多数騎乗による「まあ、いいか」的発想も検出されなかった。
わたしたちのような緩さは、ない。
そもそも展開予想的な発想も違うかもしれない。

だけんども、しかし!
ひとりだけ例を挙げると、武豊騎手はこの調査期間内で結果的に11鞍だったことが4度あり、2勝した。
勝率5割である。

(SiriusA+B)

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