▼母馬の分析
牝馬の話となると、種牡馬に比べて情報が少なくなる。日本では小岩井農場と御料牧場の話くらいだ。
牝馬が生涯に産める仔の数は、どんなに多くても20頭を超えることはまずない。中央競馬での延べ出走数もせいぜい数百というところか。分析したくてもサンプルが少ないのである。
種牡馬のみ分析する血統理論は多いが、母系を分析する理論があまりないのはこうした理由による。母馬1頭当たりのサンプル数が少なすぎ、信頼できる大きさの母集団にならないのだ。わたしは統計的に分析するのだが、母系を分析する手段はないものだろうか。
▼祖先馬という考え方
遺伝に関する書物を拾い読みすると、いくつかヒントが見つかった。わたしの理解の限りであるが、結論から言うと、父系は父だけを分析すればよく、母系はファミリーラインの先にいる「祖先馬」を分析すればいい。「祖先馬」とするのは、母馬の代わりである。「祖先馬」とはわたしの中での用語で、業界用語ではない。生物学的な説明は専門家にお任せするが、母系には、遡っても変わらない遺伝がある。その系統をまとめることで分析に足るサンプル数にできる。一方で、血統表に記載されたその他の馬のほとんどはあまり考慮しなくて良さそうだ。この結論に至るまでは長い時間と労力が必要だったが、その経緯は省略する。
わたしの場合、1900年より前に生まれた牝馬を「祖先馬」と呼び、それより先に遡ることはしない。情報が怪しくなってくるし、これくらい遡れば、わたしのデータベースに収めている数年分の中央競馬の出走馬すべてが1,000頭くらいの母系でまとめられるからだ。ファミリーナンバーを利用することもできるが、分岐の基準が今ひとつ飲み込めず使わなかった。
余談だが、いざ方針を決め、実際に取り掛かってみると、骨の折れる作業だった。適当なデータベースが見当たらず、複数のサイトからデータを拾ってきて繋げていくしかないのである。1頭ずつ調べてみなければわからなかった。家族もいて会社勤めの身には時間が足りない。試行錯誤しながら、毎晩のようにコツコツとデータを積み上げ、ようやく完成させたときには2年ほど経っていた(笑)
わたしの作った牝馬のデータベースは約52,400頭。意外に少ないと感じている。これで中央競馬数年分の登録馬の祖先馬が見つかるのである。御料牧場や小岩井農場の基礎牝馬たちもこの中に入っている。未だに新しく加える牝馬もいるのだが、大きく増えることはなさそうだ。
わたしのようなやり方でデータを集めるつもりの人には、ぜひ現役馬、新しい年代から遡ることをお勧めしたい。「祖先馬」からデータを集めていくと現役馬までたどり着かないケースが多いのだ。また、1900年代途中で祖先馬となるケースもあったりする。
それにしても、途中で絶えた母系に栄枯盛衰を感じずにはいられない。
(SiriusA+B)