2016年9月28日水曜日

第116夜 サラブレッドは勝利に酔うか


▼ゴール板を知っているかどうかの議論
馬は利口な動物と言われるが、ゴールを理解しているかどうかはわからないという話である。


サラブレッドの謎のひとつに、サラブレッドはゴール板を知っているかどうかという議論がある。
サラブレッドを利口だという者たちは、ゴールを理解していると主張する。
他方、ゴール板をわかっていないと主張する者も少なくない。
両説とも調教師や騎手が支持しており、勝負はついていない。
ネットを眺めていると「一部の賢い馬は知っている」という「美味しいトコ取り」の主張は案外多いように思う。
ただし、この手はファンの願望を込めた話で、あまり信憑性はないようだ。


▼脳化指数
利口かどうかは、「脳化指数」という数値で推定することもできるそうだ。
脳の重量を体重の3分の2(或いは4分の3が正確と言われる)で割り、任意の係数を掛ける(例えばネコの1など)
ウィキペディアによると、ヒトが7.4-7.8、クジラが1.8、イヌが1.2、ネコが1.0、ウマは0.9だという。
脳化指数を知能順と捉えるのは乱暴だが、ウマは数値ではイヌ・ネコより下である。


これではゴール板を知っているとは信じ難いが、ウマは長期的な記憶やヒトの感情を察知する能力に長けているとも言われる。
騎手の制御や周囲の人の感情はよく理解している。
わたしなりの仮説だが、レースを理解していないしゴール板もわからないけれど、加速や減速の指示を理解し、調教師や馬主、厩務員や騎手の表情で「いいこと」をしたかどうか、つまり勝ち敗けを推定しているのではないだろうか。
「勝負どころを知っている」という賢い馬の話を聞くこともあるが、まさに人馬一体、騎手の僅かな筋肉の動きを、騎手の思考より早く察知できる能力のことではないか。
つまり、ゴール板はわからない。
勝ち敗けは(勝負後周囲の人間の反応から)理解している。


そう考えると合点がいく。
以前、何度も同じコースを走れば成績が上がるかどうかを調べたことがある。
「馬は学習する」とどこかに書いてあったのだ。
しかし、集計結果はひどいものだった。
同じコースで2回目、3回目はともかく、経験を積んだからといって成績が良くなるわけではなかった。
馬はコースを覚える気がないらしい。
あるいは、苦しいことをさせられたと思って嫌がるようになるのか。
コース適性は、まさに適性であって、学習による成績の向上を期待するべきではないと思い至ったのであった。
(SiriusA+B)

2016年9月24日土曜日

第115夜 調教欄の活かし方


▼調教データ
調教欄は細かく分析するタイプのデータではないという話である。

計測技術の進歩により、トレセン(トレーニングセンター)の調教データもセンサーにより読み取ることができるようになっている。

ーーと、言いたいところだが、坂路以外は今もトラックマンによる計測だそうである。

調教データは、専門紙のトラックマンが手で計測しているので、実は専門紙ごとに数字が違う。
トレーニングなので騎手以外の騎乗者がふつうであり、その騎乗技術の差は大きい。
斤量もマチマチである。

このブログの読者諸兄におかれては「調教データは見ない」という方も多いと思うのだが、わたしもそうである。
0
1単位で表示され、数字は客観的だからと疑いもなく信用すべきデータではないのだ。

わたしたちは精度の高いデータこそ、予想精度の向上に資すると考えがちだ。
だが、データをいかに精密にしようが、意味のないものもある。
その代表的なものが、まさに調教データである。
条件の揃えられたものではなく、その上計測方法も信用するに足りるとは言いがたい。
軽めに済ませる馬もいるのだ。
馬場だって朝いちばんのハロー掛けした馬場は長く保たれるわけではない。
これでは調教時計を鵜呑みにするほうがどうかしている。
数字が細かくても正確ではないのだ。

そうではなく、馬1頭ずつ、時系列に見るべきだという主張もある。
しかし、馬場条件その他の変動を考慮すると、それもどうだろう。

結局、調教欄の活かし方は「調教欄は見ない、惑わされない」という結論になる。

ちなみに、JRAの調教時計は専門紙競馬ブックのデータではないかと思う。

▼参考までに馬体重
精密なデータには、馬体重もある。
これもJRAでは2kg単位で公表してくれる。
馬体重はJRAが公式に発表しているので、調教時計のようにデータがバラバラということはない。
ただ、2kg単位でも細かいのではないかと思っている。
2kg
は、460kgのサラブレッドにとって0.43%に過ぎない。
60kg
の人間なら250g程度のウエイトである。
ちなみに「ボロをすると数キロ動く」とも言われる。
馬体重データはある程度条件も揃えた計測なので活かし方もあろうとは思うが、少なくともマイナス2kgとかプラス2kgとかで敏感に反応する必要はないだろう。

要するに、調教データを例に言えば、データの細かさと正確性は正比例ではなく、また、馬体重を例に言えば、精密さと有用性も正比例ではないということである。
平たく言えば、データが細かいからといって正確なわけではなく、正確で細かいデータだから有用・重要なわけではないということだ。
(SiriusA+B)

2016年9月20日火曜日

第114夜 予想の要素を毎週変えるのは悪いことか


★しばらく仕事が忙しかったので、記事を更新できなかった。
楽しみにしている人がいるとは思えないが、万一、奇特な方がいた場合にはなにとぞご容赦いただきたい。★

▼不安定な予想
予想の要素を毎週のように変えることは、良くないことなのか、という話である。

予想の要素を毎週のように変えることは良くない、と嗜める向きがある。
ある週は血統を中心に予想したが、次の週は騎手、また次の週は調教、などとコロコロ変えることである。
そういう人に対し「それでは成功しませんよ」と指摘するのである。
稚拙な予想法である場合、なおさらである。
だが、指摘する人の言いたいことはわからないでもないが、楽しみでやっている人にあれこれ言うのも如何なものであろう。
予想法を構築することが楽しい人もいるのだ。
論理的で「正しい」予想法が、その人にとって最善であるかどうかわからないのである。
「余計なお節介と思うが」と断ったうえでの話であっても、やはり、「お節介」である。

予想方法を毎週のように変える行為は、たいていのケースで、予想法が確立していないということである。
指摘者は、予想法が確立していることを理想として忠告しているのなら、少し高い理想を押しつけているかもしれない。
実際問題として、予想法を確立した人などそれほどいない。
収支をプラスにしている馬券購入者でなければ、予想法を確立しているわけではないだろう。
めまぐるしく予想方法を変える人と、あまり上手くない予想法で買い続ける人とどれほど差があるだろうか。
答えはほとんど同じである。
回収率75%近傍で五十歩百歩だ。
良いとか良くないとか決めつけるものでもないように思う。

▼複雑系
さて、現在の知見では、競馬予想は複雑系であり、ひとつの要素だけで決まるわけではないと考えられている。
だからこそ、馬券購入者は様々な予想法を試しているのだ。
ここに、ひとつのヒントがある。
すべての競走に同じ予想ツールで検討する必要はないのではないか、ということである。
条件別に要素のウェイトを変えたり、要素の取捨選択をしたりすることは考えられないであろうか。
中山ダート1200ならこの方法、古馬ならこの方法、重賞ならこの方法、といった具合に予想ツールを分けるのである。
馬券の真理には到達しなくても、部分的に真理に近づくことはできるかもしれない。
案外上手い方法で、行き詰まったら、一定の条件に絞って極めてほしい。
ただし、注意すべき点がひとつある。
サンプル数が少なくなるのだ。
例えば牝馬に限定した予想法であれば、サンプル数は半分以下になり、かなり長期間のデータを集める必要がある。
G1
レースなどでよくみかけるが、十分なデータ量で検証しなければ実践に耐えられない代物になるので、気をつけなければならない。
主催者であるJRAもそうしたことはわかっている。
だからこそ年間3456競走弱で、コースの研究がされにくいよう、同一コースの競走数を抑制したり、時折馬場改修を行なうのである。


(訂正)2006-2014平地競走29902レースで最も頻度の高いコース5


競走区分

競走数

割合

中山1800

1,104

3.7%

中山1200

1,089

3.6%

京都1800

950

3.2%

東京1600

868

2.9%

阪神1800

819

2.7%

 (誤)当初掲載の以下の表は誤りでした(競走数ではなく出走頭数でした)。上表に訂正します。
2006-2014年平地競走430278に対する同一コースのシェア



競走条件


競走数


割合


中山1200


16693


3.88%


中山1800


15985


3.72%


京都1800


13101


3.04%


東京1600


12935


3.01%


小倉1200


11649


2.71%





(SiriusA+B)

2016年9月6日火曜日

第113夜 血統理論と全兄弟


▼一卵性の双子と全兄弟はぜんぜん違う
「全兄弟」に対する考え方の話題である。

血統理論で「理由付け」の難しいものに「全兄弟」がある。
遺伝子レベルの理論になっていないため、同じ父と母であるから区別する要素が少ないのである。
もちろん、異なることをわかった上で、競走成績の違いに注目し、理論付けする人もいる。
しかし、「ほぼ同じ」と解釈する向きも少なくないようだ。

結論から言うと、父と母が同じでも、両親から受け継ぐひとつひとつの遺伝子は2分の1の確率で異なる。
一卵性の双子の話と混乱している人がいるけれど、双子は100%同じ遺伝子であるのに対し、兄弟姉妹の場合100%同じ遺伝子である確率はほぼゼロに等しい。
人間の兄弟姉妹を見ればわかるとおりなのである。
似ているけど、結構違う。
サラブレッドも同じである。
似ているところもあるが、異なるところもかなりあるので、きちんと「別の馬」と捉えるべきだろう。

ただ、確率的に半分ほど同じ遺伝子を受け継いでいるので、兄弟揃って成功することもある。
例えば、全兄弟の種牡馬、ディープインパクトとブラックタイドである。
ディープインパクトの全弟ブラックタイドは、兄に比べて牝馬に恵まれない中で健闘している。
次第に健闘が認められ、牝馬の質も上がってきているようだ。
下表にはないが、2015年には産駒のG1制覇も果たした。
まるで、同じく全兄弟だったニジンスキーとミンスキーのような関係とでも言おうか。
競走成績も種牡馬成績も全兄ニジンスキーが上回っていたが、ミンスキーもそこそこ活躍していた。
ドラマとしては、不出走ではあったが、競走馬として成功した全兄フライングチルダーズを上回る種牡馬となったバートレッドチルダーズのようになると面白いのだけれど。
蛇足だが、サラブレッドの基礎を作ったとさえ言われる競走馬エクリプスは、バートレッドチルダーズの曾孫である。
現在のサラブレッドの95%程度の祖先ということである。

2006-2014平地競走完走馬の血統別比較

父馬
祖先馬
頭数
完走回数
勝利回数
勝率
獲得賞金
平均獲得賞金
ディープインパクト
Stirrup Cup[1890]
16
171
21
12%
329,597,000
20,599,813
ブラックタイド
5
18
0
0%
1,800,000
360,000
ディープインパクト
Habanera[1890]
2
7
1
14%
14,034,000
7,017,000
ブラックタイド
5
31
2
6%
30,790,000
6,158,000
ディープインパクト
Paradoxical[1891]
12
79
10
13%
211,070,000
17,589,167
ブラックタイド
1
1
0
0%
1,100,000
1,100,000
ディープインパクト
Reposo[1894]
3
33
6
18%
77,248,000
25,749,333
ブラックタイド
5
37
1
3%
15,546,000
3,109,200
ディープインパクト
Admiration[1892]
14
122
15
12%
246,796,000
17,628,286
ブラックタイド
4
44
2
5%
20,860,000
5,215,000
ディープインパクト
Navaretta[1893]
13
94
9
10%
120,956,000
9,304,308
ブラックタイド
6
33
1
3%
17,840,000
2,973,333
ディープインパクト
Yours[1894]
14
162
18
11%
282,891,000
20,206,500
ブラックタイド
3
22
2
9%
14,000,000
4,666,667
ディープインパクト
Chelandry[1894]
8
53
12
23%
194,780,000
24,347,500
ブラックタイド
2
6
1
17%
5,000,000
2,500,000

(SiriusA+B)

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