2020年3月11日水曜日

第269夜 馬主・調教師らの相馬眼を拝借する



G1勝馬に偶然はない
当たり前のことのようだが、G1を勝つような馬は新馬戦から好成績である。
2019年中央競馬平地競走の勝馬の戦績をみれば、ほとんどが新馬戦で勝利したことが分かる。

少しだけ2着馬、1頭だけ9着馬がいる。
9着馬というのはフェブラリーステークス勝馬のインティで、3歳の未勝利戦でデビューした。

惨敗だったが、2戦目以降フェブラリーステークスまで6連勝した。
初戦に何か問題があったのだ。

G1ともなると出走馬の多くが新馬勝ちだったりするから「新馬戦の良績」は必勝法の類ではない。

ただ、1頭ずつその歩みをみてみると、大敗もなく順調に進んだことが分かる。
堅実、着実である。
波乱万丈、偶然が重なり大レースを制した、ということはあまりない。
ときには、2着や3着になることもあるけれど、競走馬自身がゴール板を理解していなければ、ゴールのタイミングを知らないだけで「騎手の指示通り前方に出るよう走った」つもりだろうから人間ほど悲観することはないだろう。

▼厩舎の期待
のちにG1を制するような馬は、新馬戦でも上位の人気を得る。
馬主や調教師らは、期待馬にはデビュー戦から将来を見据えて戦略を立てている。
2019年中央競馬平地競走G1勝馬の新馬戦をみると、開催場や競走条件を吟味して出走させていることが分かる。

259夜「芝替り、ダート替りの研究で見えてきたこと」と関連するが、期待馬には適性よりも先ず芝でダービーなどクラシックを目指すとみている。
関係者は、芝とかダートとか、短距離や中長距離の適性以前に、逸材ならクラシックへの出走を目指して芝のマイル以上にエントリーするだろう。
すなわち、デビュー戦をどのレースにするか、で馬への期待度も推し量れるのである。
東京や京都・阪神でデビューすることが多いのは、実力を発揮しやすい大きなコースであることも関係している。
力があるのだ、レース展開のアヤなど「紛れ」はできれば排除したい。


日付 開催場所 競走名 競走条件 勝馬 初戦日付 初戦開催場所 初戦レース 初戦人気 初戦着順 初戦競走条件
2019/02/17 東京 フェブラリーS ダ1600 インティ 2017/04/08 阪神 3歳未勝利 6 9 ダ1800
2019/03/24 中京 高松宮記念 芝1200 ミスターメロディ 2017/11/04 東京 2歳新馬 1 1 ダ1300
2019/03/31 阪神 大阪杯 芝2000 アルアイン 2016/10/29 京都 2歳新馬 1 1 芝1600
2019/04/07 阪神 桜花賞 芝1600 グランアレグリア 2018/06/03 東京 2歳新馬 1 1 芝1600
2019/04/14 中山 皐月賞 芝2000 サートゥルナーリア 2018/06/10 阪神 2歳新馬 1 1 芝1600
2019/04/28 京都 天皇賞(春) 芝3200 フィエールマン 2018/01/28 東京 3歳新馬 1 1 芝1800
2019/05/05 東京 NHKマイルC 芝1600 アドマイヤマーズ 2018/06/30 中京 2歳新馬 1 1 芝1600
2019/05/12 東京 ヴィクトリアマイル 芝1600 ノームコア 2017/07/16 福島 2歳新馬 3 1 芝1800
2019/05/19 東京 優駿牝馬 芝2400 ラヴズオンリーユー 2018/11/03 京都 2歳新馬 2 1 芝1800
2019/05/26 東京 東京優駿 芝2400 ロジャーバローズ 2018/08/18 新潟 2歳新馬 1 1 芝2000
2019/06/02 東京 安田記念 芝1600 インディチャンプ 2017/12/28 阪神 2歳新馬 1 1 芝1400
2019/06/23 阪神 宝塚記念 芝2200 リスグラシュー 2016/08/27 新潟 2歳新馬 1 2 芝1600
2019/09/29 中山 スプリンターズS 芝1200 タワーオブロンドン 2017/07/29 札幌 2歳新馬 2 1 芝1500
2019/10/13 京都 秋華賞 芝2000 クロノジェネシス 2018/09/02 小倉 2歳新馬 1 1 芝1800
2019/10/20 京都 菊花賞 芝3000 ワールドプレミア 2018/10/21 京都 2歳新馬 1 1 芝1800
2019/10/27 東京 天皇賞(秋) 芝2000 アーモンドアイ 2017/08/06 新潟 2歳新馬 1 2 芝1400
2019/11/10 京都 エリザベス女王杯 芝2200 ラッキーライラック 2017/08/20 新潟 2歳新馬 2 1 芝1600
2019/11/17 京都 マイルチャンピオンS 芝1600 インディチャンプ 2017/12/28 阪神 2歳新馬 1 1 芝1400
2019/11/24 東京 ジャパンC 芝2400 スワーヴリチャード 2016/09/11 阪神 2歳新馬 1 2 芝2000
2019/12/01 中京 チャンピオンズC ダ1800 クリソベリル 2018/09/17 阪神 2歳新馬 1 1 ダ1800
2019/12/08 阪神 阪神ジュベナイルF 芝1600 レシステンシア 2019/10/14 京都 2歳新馬 1 1 芝1400
2019/12/15 阪神 朝日フューチュリティ 芝1600 サリオス 2019/06/02 東京 2歳新馬 2 1 芝1600
2019/12/22 中山 有馬記念 芝2500 リスグラシュー 2016/08/27 新潟 2歳新馬 1 2 芝1600
2019/12/28 中山 ホープフルS 芝2000 コントレイル 2019/09/15 阪神 2歳新馬 1 1 芝1800



▼統計データの裏付け
初出走戦を「芝マイル以上」「芝マイル未満」「ダートマイル以上」「ダートマイル未満」に分ける。
2006-2018年中央競馬平地競走の成績データの範囲内で、2004年から2014年生まれの馬を調べた。

この条件内で5勝以上した馬は1,300頭ちょうどである。
この1,300頭の初出走戦を1頭ずつ調べていく。

予測どおりでたいへん驚いたのだが、5勝以上馬を100頭以上排出したのは次の3コースのみである。
・京都芝マイル以上
・阪神芝マイル以上
・東京芝マイル以上
3コース計422頭、5勝以上馬の約3分の1を占めていた。

京都や阪神が多く、東京が相対的に少ないのは、厩舎の「西高東低」の影響である。
だが、それにしても中山は少なめで、東京に比べてコースに特徴があり過ぎるのかと思う。


2006-2018年中央競馬平地競走で5勝以上馬で2004-2014年生まれの1,300頭の初戦コース
デビューコース 5勝以上勝馬頭数
京都芝マイル以上 190
阪神芝マイル以上 123
東京芝マイル以上 109
京都ダートマイル未満 74
中山芝マイル以上 60
京都芝マイル未満 57
新潟芝マイル以上 56
阪神芝マイル未満 49
阪神ダートマイル未満 48
小倉芝マイル未満 45
札幌芝マイル未満 38
阪神ダートマイル以上 37
京都ダートマイル以上 34
札幌芝マイル以上 31
函館芝マイル未満 30
小倉芝マイル以上 28
東京ダートマイル未満 26
小倉芝マイル以上 25
東京ダートマイル以上 24
新潟芝マイル未満 23
東京芝マイル未満 23
福島芝マイル未満 23
中山ダートマイル以上 23
中山ダートマイル未満 20
小倉芝マイル未満 19
福島芝マイル以上 14
函館芝マイル以上 13
札幌ダートマイル以上 11
新潟ダートマイル未満 9
福島ダートマイル以上 9
小倉ダートマイル未満 6
小倉ダートマイル以上 4
中山芝マイル未満 4
函館ダートマイル以上 3
小倉ダートマイル未満 3
函館ダートマイル未満 2
札幌ダートマイル未満 2
新潟ダートマイル以上 2
福島ダートマイル未満 2
小倉ダートマイル以上 1
合計 1,300


▼馬券のヒント
この情報が何の役に立つのか、と思われた方もいるだろう。
もちろん競馬予想に役立てる。
この関係者の新馬戦選択を参考に、競走馬を格付または適性診断を行なうのだ。
要するに、プロの相馬眼を借用させてもらうのである。
入厩後、毎日間近で接し、調教してきた厩舎の結論は、デビュー時期や将来見通しなどに反映する。
出走する新馬戦が、相手関係や期待によって決められていくのである。
クラシックを目指す期待馬なら、第3場のダート短距離戦でデビューさせることはないだろうことは誰でも分かる。
入厩した、調教した、仕上がった、新馬戦に登録した、勝った/敗けた、ではないのである。
ゲームのように簡単に考えてはいけない。
厩舎がどれだけ深く考えているのか、わたしたちはもっと知るべきではないかと思う。
そして、その考えた結果を参考にするのだ。
馬を飼ったこともない、机上の血統理論だけでああだこうだというレベルとはまるで違う。

データをもっと調べていくと、興味深い内容は未だあるが、それは読者の皆さんが独自に進めればいい。
もちろん、データが無くてもいい。
例えばこんな風に過去走をみていくのだ。
「この馬は秋の東京で新馬戦にデビュー、芝コースのマイル戦だが2番人気と前評判は高かったようだ。5着に敗れた後、東京・中山のマイル戦で3着が続き、今回の4戦目で第3場の芝短距離戦に出走してきた。路線変更してきたが、鞍上も一緒に来た。ここで1勝しておかないと皐月賞のステップレースに間に合わなくなってしまう、ということだな。厩舎はこの馬をまだまだこんな実力じゃないと思っている。だがここで確実に勝ちを拾いにきた」
これだけでも、これまでとは違う見方ができるのではないだろうか。
(SiriusA+B)



ブログ アーカイブ