▼穴馬バイアスと、人気が人気を呼ぶ現象
行動経済学の代表的理論に「プロスペクト理論」がある。
不確実性下における意思決定モデルのひとつであり、確率に対する反応が線形ではない、ということを示す。
競馬の世界では、「穴馬バイアス」ということで知られている。
人気馬は過小評価され、人気薄馬は過大評価される、というものだ。
一方で、わたしたちは、人気馬が過剰に人気を集めることも耳にしている。
結局、人気馬は過剰に人気なのか、過小評価されているのか。
案外、よく知らない人もいるかもしれない。
解答を急げば、人気馬は確かに過小評価気味だが、1番人気は人気馬の中ではやや過剰人気、と考えられるだろう。
ことばで説明するより、数字で見たほうが早いかもしれない。
中央競馬平地競走2011-2024年の手元集計では、確定オッズで見ているけれども、2桁人気にもなれば単勝回収率は大きく下げる。
図表516-1にまとめた。
確定オッズで集計しているので現実には使えないが、人気薄のほうは8番人気あたりから回収率が如実に下がり始め、14番人気以降は60%を下回る。
この集計期間の単勝回収率は73%であるから、穴馬バイアスが観測されていると考えていいだろう。
人気馬のほうはというと、7番人気まで概ね80%の回収率となっている。
回収率の平均値からみれば人気馬が過小評価されている、と言えるかもしれない。
よく見れば、1番人気の回収率は78%で、人気馬群の中では僅かに低い。
これは、人気馬が過剰に人気を集めている、ということになるだろう。
勝率では、たいへん綺麗な曲線を描く。
確率に対して線形の反応を示すとしたら、どの人気でもほぼ同じ回収率になると考えられるから、回収率の凸凹はわたしたちの意思決定にバイアスがかかっているということなのだ。
(図表516-1)確定オッズによる人気別今走成績
全体 | 今走勝率 | 単勝回収率 |
今走1人気 | 0.325 | 0.78 |
今走2人気 | 0.190 | 0.80 |
今走3人気 | 0.131 | 0.80 |
今走4人気 | 0.094 | 0.79 |
今走5人気 | 0.072 | 0.80 |
今走6人気 | 0.054 | 0.82 |
今走7人気 | 0.040 | 0.81 |
今走8人気 | 0.029 | 0.75 |
今走9人気 | 0.022 | 0.74 |
今走10人気 | 0.017 | 0.73 |
今走11人気 | 0.013 | 0.75 |
今走12人気 | 0.010 | 0.69 |
今走13人気 | 0.007 | 0.64 |
今走14人気 | 0.004 | 0.53 |
今走15人気 | 0.004 | 0.51 |
今走16人気以下 | 0.002 | 0.36 |
▼本命党も穴党も、実は
図表516-2は、前走着順、前走人気を例に、同じ検証をしている。
前走の着順や人気は、勝率で見るとかなり正確なファクターであり、オッズ形成の大きな部分を占めているとみられる。
特に、前走人気の場合、前走1番人気から6番人気まで、人気を落とすほど回収率が上がる傾向を観測できる。
(図表516-2)前走着順および前走人気別今走成績
全体 | 今走勝率 | 単勝回収率 | 全体 | 今走勝率 | 単勝回収率 |
前走1着 | 0.107 | 0.74 | 前走1人気 | 0.188 | 0.74 |
前走2着 | 0.203 | 0.73 | 前走2人気 | 0.150 | 0.76 |
前走3着 | 0.140 | 0.75 | 前走3人気 | 0.122 | 0.77 |
前走4着 | 0.108 | 0.81 | 前走4人気 | 0.100 | 0.78 |
前走5着 | 0.077 | 0.72 | 前走5人気 | 0.082 | 0.80 |
前走6着 | 0.065 | 0.74 | 前走6人気 | 0.072 | 0.83 |
前走7着 | 0.052 | 0.79 | 前走7人気 | 0.056 | 0.77 |
前走8着 | 0.043 | 0.77 | 前走8人気 | 0.048 | 0.74 |
前走9着 | 0.038 | 0.74 | 前走9人気 | 0.040 | 0.79 |
前走10着 | 0.032 | 0.74 | 前走10人気 | 0.032 | 0.69 |
前走11着 | 0.028 | 0.68 | 前走11人気 | 0.027 | 0.70 |
前走12着 | 0.024 | 0.70 | 前走12人気 | 0.021 | 0.61 |
前走13着 | 0.022 | 0.57 | 前走13人気 | 0.018 | 0.61 |
前走14着 | 0.022 | 0.70 | 前走14人気 | 0.016 | 0.69 |
前走15着 | 0.019 | 0.56 | 前走15人気 | 0.012 | 0.48 |
前走16着以下 | 0.019 | 0.61 | 前走16人気以下 | 0.010 | 0.51 |
冒頭に述べた結果の通り、人気馬は過小評価気味だが1番人気などは過小評価された群のなかでは過剰人気になっている、と言えそうだ。
わたしには、「穴馬がそこそこ買われているが、本命馬も票を集めている」と感じている。
そうすると、両極端に投票が集中するとして、どこかに投票の薄いところが出てくるはずだ。
それが回収率の高く出ているところに当たると思われる。
前走人気別の回収率は、9番人気以下をひとまとめにすればなおよいのだが、前走6番人気を頂点とした美しい線になる。
前走6番人気が投票の最も薄いところ、と言える。
人気馬ほど、人気が人気を呼んでいる。
人気薄は人気薄で実力以上の投票を受け付けている。
どちらともいえないようなところは、その分、割を食っている。
こうした馬券投票者の投票行動を頭に入れておいて損はない。
とかく、穴馬を血眼になって探してしまうが、この投票行動を把握していれば、わずかとはいえ、どのあたりが回収率的に「美味しい」か、想像がつくだろう。
しかも、これならほぼ毎レース出現するし、無理な理屈付けで実力不足の人気薄馬にベットする必要もない。
わたしはしばしば「収益の源泉はオッズとの乖離である」と申し上げてきた。
オッズが分かりにくければ、オッズを「馬券投票者の投票行動」と置き換えてもらえばいいかもしれない。
その意味では、本命党や穴党は、いずれも回収率が低いポイントに投票しようとしており、得策とは言えないように思われる。
本当に回収率を重視したいなら、回収率の高そうな「準人気馬」を狙うべきである、と思う。
期待値派のことばで言えば、そこが「オッズより期待値が高い馬」のひとつである。
(SiriusA+B)