2024年7月28日日曜日

第477夜 ファミリー・ワン


▼ブルース・ロウが付けた番号は「1
「トレゴンウェルズナチュラルバルブの牝馬」または「トレゴンウェルズナチュラルバルブメア」は、1号族の始祖である。
17
世紀、英国は現在の「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」成立に至っておらず、動乱の時代であった。
1603
年にイングランド王国とスコットランド王国が「同君連合」となったが、1649年には国王が処刑されるなどした。
1
号族始祖の彼女は、1650年代の生まれというから、この時代に生きた。

サラブレッド草創期と重なったことで、記録消失など後世に少なからぬ影響があったとわたしは思っている。
加えて、所有者が変われば馬名も変わる、女性の地位の低さなどの時代背景から、父系三大始祖のような取り扱いには程遠かっただろう。
詳しいことはあまり分かっていない。
検証の難しさに起因する悪意ある改竄(かいざん)を含めて、ジェネラルスタッドブックの記載を盲目的に信用できるわけではないが、それでもこの1号族は次第に拡張し、現代では、少なくとも日本において15%近い割合にまで繁栄するに至る。
ファミリーナンバーの創始者ブルース・ロウが付けた番号は、エプソムダービー、オークス、セントレジャーステークスという日本で言えば東京優駿、優駿牝馬、菊花賞の勝ち馬輩出数の多い順で、頭数順ではない。
当時、1号族は数の上でトップではなかったとされるが、ざっくり言えば「強い順」だったので現代の最大勢力に育ったのだろう、とわたしは勝手に思っている。
では、その力は今も健在なのだろうか。

図表477-1は、日本のダービーとオークスに出走した馬をファミリーナンバーでグループ分けしたものである。
この表では枝番(1-aなど)は省略して統合した。
2011-2023
年の13年間26競走分で、2024年はお楽しみということでご自身で調べて検証していただければと思う。
手作業で拾っているので間違いについてはご容赦いただきたい。
出走頭数は463頭、除外取消を含めると467頭である(日本ダービーでは一度、当初から17頭立てとなったため)(本記事では「延べ頭数」ではなく「実頭数」を用いている)
ご覧のとおり、1号族は最多の60頭が出走した。
割合で言えば13%である。
次いで、4号族、9号族、2号族、16号族の順に出走頭数が多い。
この5系統で全出走馬の52%を占める。
詳しく調べたい方は小岩井農場や下総御料牧場の基礎牝馬まで遡ると知識に厚みが出よう。
問題は、この1号族は反映しているのか、という点だ。
数の上ではトップだが、馬全体の中で13%の出走比率が抜きんでているかどうかだ。
2009
年から2021年生まれで中央競馬に出走した馬のうち、約75%を調べたところ、1号族は約13.6%4号族は10.7%9号族は6.4%だった。
4
番目に多かったのは3号族で7.9%5番目が2号族の7.7%16号族はシングルナンバーでない中では最も多い5.0%8番目に多い数だった。
44,900頭が母数である。
わたしも完全には調べられていないので確かなことは言えないが、少なくとも14号族は日本のサラブレッドの割合と大差はないようである。
東京優駿・優駿牝馬出走馬の母数が小さいので、あくまで参考として受け取っていただければと思う。
兄弟姉妹が出走することもあるので、母馬の繁殖能力が小さな母数に少なからぬ影響を与えていることもご承知いただきたい。

(
図表477-1)東京優駿・優駿牝馬出走馬のファミリー(出走頭数には中止を含む。参考として競走除外・出走取消を含んだ頭数を併載した。占有率・勝率・連対率・複勝率は出走頭数比)

ファミリー番号 1着 2着 3着 出走頭数 頭数(除外取消含む) 占有率 勝率 連対率 複勝率
1 5 4 5 60 60 0.130 0.083 0.150 0.233
4 1 4 3 53 53 0.114 0.019 0.094 0.151
9 2 4 2 49 49 0.106 0.041 0.122 0.163
2 3 0 2 42 42 0.091 0.071 0.071 0.119
16 4 5 1 39 40 0.084 0.103 0.231 0.256
8 3 0 0 25 25 0.054 0.120 0.120 0.120
3 2 1 2 24 24 0.052 0.083 0.125 0.208
13 1 1 3 19 19 0.041 0.053 0.105 0.263
7 0 1 1 19 19 0.041 0 0.053 0.105
22 0 0 0 19 20 0.041 0 0 0
5 1 1 1 16 16 0.035 0.063 0.125 0.188
14 0 1 0 15 15 0.032 0 0.067 0.067
6 2 0 0 12 12 0.026 0.167 0.167 0.167
11 0 1 1 11 11 0.024 0 0.091 0.182
19 0 1 1 10 10 0.022 0 0.100 0.200
20 1 0 2 9 9 0.019 0.111 0.111 0.333
10 0 1 0 8 8 0.017 0 0.125 0.125
12 0 1 1 6 8 0.013 0 0.167 0.333
17 0 0 0 5 5 0.011 0 0 0
A1 0 0 0 4 4 0.009 0 0 0
B3 0 0 0 4 4 0.009 0 0 0
15 0 0 1 3 3 0.006 0 0 0.333
23 0 0 0 3 3 0.006 0 0 0
A4 1 0 0 2 2 0.004 0.500 0.500 0.500
18 0 0 0 2 2 0.004 0 0 0
A13 0 0 0 2 2 0.004 0 0 0
28 0 0 0 1 1 0.002 0 0 0
A29 0 0 0 1 1 0.002 0 0 0


▼枝番号まで精査
前項の数字から、1号族は勢力拡大中、というような雰囲気はあまりなかった。
むしろ、9号族、2号族、16号族のほうが勢いはあるようにも見受けられる。
成績から見ても1号族が強いのは間違いないのだが、もっと圧倒するような成績かと思っていたから、少しばかり物足りない感じがした(わたしの印象に過ぎない)

そこで、ファミリー番号の枝番に立ち戻って精査してみたところ、なかなか興味深い結果が出た。
図表478-2である。
特に1号族は分岐が多く、議論のある「1-x」まで含めると非常に繁栄している一方、それぞれの枝番をひとつのファミリーナンバーとしてもいいほど勢いに差があることが分かる。
この図表のとおり、最多出走頭数は9-fであり、4-r1-l16-c2-s13-cと続く。
この6系統で全出走馬の20%近い占有率を誇る。
13-c
がひょっこり出てきたのは驚きだが、各ファミリーナンバーを牽引している枝番はあった。
1
号族では、1-b1-x1-mでも勝ち馬を出している。これがファミリーナンバーの強さだと感じられた。
すなわち、並外れた能力差というより、全体的な優秀さ、といったものだ。
他の上位番号でも、複数の枝番で良績を収めているが、1号族ほどの広がりは感じられなかった。

前項でも触れたとおり、複数の産駒を出走させる母馬個別の繁殖能力も影響しているが、血統のトレンド或いは勢いのようなものは、ある程度存在するのかなと思う。
なお、2009-2021生まれの75%調査で最多は9-fで、3-l4-m1-l4-r13-c2-f8-fと続いていた。
16-c
2-sは、最多の9-fの数の4分の1前後と少なかった。
ただ、データが小さくなりすぎるので、ふだんは枝番まで分けることはないだろう。

(
図表477-2)東京優駿・優駿牝馬出走馬のファミリー(枝番別)

ファミリーナンバー 枝番付 成績(カッコ内は出走数、エントリー数) ファミリーナンバー 枝番付 成績(カッコ内は出走数、エントリー数)
9 9-f [0-2-1-21](24、24) 7 7-d [0-0-1-1](2、2)
4 4-r [1-0-1-17](19、19) 8 8-a [0-0-0-2](2、2)
1 1-l [2-1-2-11](16、16) 9 9-b [0-0-0-2](2、2)
16 16-c [2-1-1-7](11、12) 10 10-a [0-1-0-1](2、2)
2 2-s [2-0-0-9](11、11) 11 11 [0-0-0-2](2、2)
13 13-c [0-1-3-7](11、11) 11 11-d [0-1-0-1](2、2)
8 8-f [2-0-0-8](10、10) 11 11-e [0-0-0-2](2、2)
16 16-a [0-1-0-9](10、10) 16 16 [0-0-0-2](2、2)
2 2-f [1-0-1-6](8、8) 18 18 [0-0-0-2](2、2)
3 3-d [2-0-1-5](8、8) 19 19-c [0-1-0-1](2、2)
3 3-l [0-0-0-8](8、8) 20 20-a [0-0-1-1](2、2)
4 4-d [0-1-0-7](8、8) 22 22-a [0-0-0-2](2、2)
9 9-c [1-0-0-7](8、8) 23 23-b [0-0-0-2](2、2)
19 19 [0-0-1-7](8、8) A13 A13 [0-0-0-2](2、2)
22 22-d [0-0-0-7](7、8) A4 A4 [1-0-0-1](2、2)
1 1-b [1-0-0-6](7、7) 12 12-f [0-0-0-1](1、2)
4 4-n [0-2-1-4](7、7) 1 1-a [0-1-0-0](1、1)
5 5-g [0-0-1-6](7、7) 1 1-d [0-0-1-0](1、1)
4 4-m [0-0-0-6](6、6) 1 1-m [1-0-0-0](1、1)
7 7 [0-0-0-6](6、6) 1 1-n [0-0-0-1](1、1)
10 10-d [0-0-0-6](6、6) 1 1-p [0-0-0-1](1、1)
16 16-g [0-1-0-5](6、6) 2 2 [0-0-0-1](1、1)
20 20 [1-0-1-4](6、6) 2 2-b [0-0-0-1](1、1)
1 1-s [0-0-0-5](5、5) 2 2-d [0-0-0-1](1、1)
1 1-t [0-0-0-5](5、5) 2 2-g [0-0-0-1](1、1)
1 1-w [0-1-0-4](5、5) 2 2-i [0-0-0-1](1、1)
2 2-e [0-0-1-4](5、5) 2 2-p [0-0-0-1](1、1)
14 14-f [0-0-0-5](5、5) 2 2-u [0-0-0-1](1、1)
17 17-b [0-0-0-5](5、5) 2 2-w [0-0-0-1](1、1)
22 22 [0-0-0-5](5、5) 3 3 [0-0-0-1](1、1)
22 22-b [0-0-0-5](5、5) 3 3-c [0-0-0-1](1、1)
1 1-x [1-0-0-3](4、4) 3 3-e [0-0-0-1](1、1)
2 2-n [0-0-0-4](4、4) 3 3-j [0-0-0-1](1、1)
2 2-r [0-0-0-4](4、4) 3 3-m [0-0-1-0](1、1)
4 4-g [0-0-1-3](4、4) 4 4 [0-0-0-1](1、1)
5 5-h [1-1-0-2](4、4) 4 4-c [0-1-0-0](1、1)
6 6-a [0-0-0-4](4、4) 4 4-h [0-0-0-1](1、1)
6 6-e [1-0-0-3](4、4) 4 4-l [0-0-0-1](1、1)
7 7-a [0-0-0-4](4、4) 4 4-p [0-0-0-1](1、1)
7 7-c [0-0-0-4](4、4) 5 5-c [0-0-0-1](1、1)
8 8-c [1-0-0-3](4、4) 5 5-d [0-0-0-1](1、1)
8 8-h [0-0-0-4](4、4) 5 5-e [0-0-0-1](1、1)
9 9-a [1-0-1-2](4、4) 5 5-f [0-0-0-1](1、1)
12 12-c [0-1-0-3](4、4) 5 5-j [0-0-0-1](1、1)
14 14 [0-0-0-4](4、4) 6 6-b [1-0-0-0](1、1)
16 16-f [2-0-0-2](4、4) 8 8-d [0-0-0-1](1、1)
16 16-h [0-0-0-4](4、4) 8 8-k [0-0-0-1](1、1)
A1 A1 [0-0-0-4](4、4) 9 9 [0-1-0-0](1、1)
B3 B3 [0-0-0-4](4、4) 9 9-d [0-0-0-1](1、1)
1 1-k [0-1-0-2](3、3) 11 11-c [0-0-0-1](1、1)
1 1-o [0-0-1-2](3、3) 11 11-g [0-0-0-1](1、1)
1 1-u [0-0-0-3](3、3) 12 12 [0-0-1-0](1、1)
3 3-o [0-1-0-2](3、3) 13 13 [0-0-0-1](1、1)
6 6-f [0-0-0-3](3、3) 13 13-b [0-0-0-1](1、1)
7 7-f [0-1-0-2](3、3) 14 14-a [0-0-0-1](1、1)
8 8-g [0-0-0-3](3、3) 14 14-b [0-0-0-1](1、1)
9 9-e [0-0-0-3](3、3) 14 14-e [0-1-0-0](1、1)
9 9-g [0-1-0-2](3、3) 15 15 [0-0-0-1](1、1)
9 9-h [0-0-0-3](3、3) 15 15-a [0-0-1-0](1、1)
11 11-a [0-0-1-2](3、3) 15 15-d [0-0-0-1](1、1)
13 13-a [1-0-0-2](3、3) 16 16-b [0-1-0-0](1、1)
13 13-e [0-0-0-3](3、3) 16 16-d [0-1-0-0](1、1)
14 14-c [0-0-0-3](3、3) 20 20-c [0-0-0-1](1、1)
1 1-e [0-0-1-1](2、2) 23 23-a [0-0-0-1](1、1)
1 1-g [0-0-0-2](2、2) 28 28 [0-0-0-1](1、1)
2 2-c [0-0-0-2](2、2) A29 A29 [0-0-0-1](1、1)
4 4-j [0-0-0-2](2、2) 12 12-b [0-0-0-0](0、1)
4 4-k [0-0-0-2](2、2)
(SiriusA+B)

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